第十八話 これからの僕たちは。【001,002】

001.


僕は皆に連れられ、アジトに戻った。


「みなさん。本当にごめんなさい。」


しかし、皆返事をしない。


僕は俯きながら歩く。


不意にエレナが口を開いた。


「ねえ。私たちは本当に、逃げることさえ許されないのかな。」


僕はエレナの方を見つめる。


「いや、もしその多次元ゲートとかいう魔道具を完成できれば……」


「そういうことじゃないんだ!」

ルドルフさんが目を見開いて怒る。


「そういうことじゃないんだよ、スピカ。俺たちはこの国の住人だ。俺たちの仕事の上司は国王様だ。だから俺たちは、そんなもので逃げることなんてできないんだよ。それに逃げたところでどうする?」


僕は押し黙る。


茜音さんがぼそりと呟く。


「どうせもう、このアジトも、魔法も、魔道具も使うことはないわよ。」

「そんなことは……」

「あるでしょ!私たちはもう、勇者をその……暗殺したら二度とこの職業にもつけないし、死ぬ運命なのよ。」

「でも国王様は多分……」


するとネビルさんがため息をつきながら話す。

「いや、それは無いと思います。茜音さんの言う通りです。恐らくあの場で決められた決定は、実質的な私たちへの死刑宣告なのです。勿論の如く、それは勇者にとってもですが。」

「そんな……」

僕は改めて絶句する。



002.

皆、机につく。


静寂と沈黙。


それがその場を支配していた。

誰一人として笑顔ではない。

「みんな。今回の決定からわかったと思うけど、今日で実質僕たちモブは解散だ。」


誰も、あの決定に疑問を持っていないのである。


僕の頭の中では、様々な疑問が渦巻いていた。


何故、国王は勇者を殺すという判断をしたのか。僕たちを解散させるという判断をしたのか。そもそもそんなことをして何の意味があるのか。



「今まで本当に、長い間お疲れ様でした。」

秋月さんはそう言って、明るく宣言する。

茜音さんを見ると泣きそうになっていることがわかる。

「ようやくこれで、自分の楽しいことができるわね。好きなように仕事して、楽しいこといっぱいしよ。」


「そうだな。俺はこれから温泉でも満喫しに行こうかな。」

僕は拳を握りしめる。

何故みんな能天気に趣味の話をしているのか。

実質的な追放宣言を受けて、さらに勇者という一人の人間を殺さなければならない人たちの行動なのか。


「みなさん!」

僕はいつの間にか叫んでいた。

一斉に皆が僕の方を向く。

「なんで皆さんはそれでいいんですか?」


皆は僕を見てポカンとしている。


「僕たちは、これから勇者を殺さなければならないんですよね?そして、その勇者は僕たちが唯一持っている、魔王に対抗する手段です。」


僕はできるだけ冷静になって話す。


「その対抗手段を僕たちは、僕たちの手で殺すんです。それに……」


僕は、その後のセリフを口にすることが出来なかった。

それはあまりにも辛く苦しい話なのだ。


「私たちが?」

ネビルさんが僕に言う。僕は心を決めて話す。

「僕たちは、多分生きられません。僕たちだけじゃなく、師匠も。誰もかれも。この世界にいる人間の殆どが。」

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