第十七話 円卓会議【003,004】
003.
僕たちはその後、控室に連れていかれ、改まった服に着替えさせられた。
僕は何の事やら事情が掴めないまま、その「円卓会議」に出席することになった。
「秋月さん。円卓会議って何ですか?」
「円卓会議というのはこの国の上級貴族が一堂に会して会議をする場だよ。このような会議は普通催されることはまずないんだけどね。多分何か、国家を揺るがす事態があったんだ。そしてそれは「僕たちが何かしら」関係していると見てよい。多分、勇者絡みの話なんじゃないかな。」
「そんな大切な会議に僕たちが出席を?」
「そうだ。勿論この会議は本来、全て極秘裏で行われるものだ。この存在自体ほとんどの人には知られていない。まあ、内容が内容だからね。例えば勇者の生殺与奪とか、情報偽装、例えば酷い話になると「どこの村を魔王の襲撃の盾に使うか」とかね。そういう本当の上層部しか知ってはいけない決議を行うとても重要な会議なんだよ。そして本来僕たちモブはその決定を基に、それを知らされて実際に計画・実行する任務を負っている。例えばこの街に来たのだって全てこの円卓で決められたことで動いているんだ。だから、僕たちはこの会議で何か情報を提供するように求められるに違いない。何かしら貴族様や国王様だけでは知ることのできない、そして僕たちしか知らない情報を発言させるために呼んだんだろう。だから、わかっているね。スピカ君の知っている情報は国のものだ。何一つ嘘はついてはいけないよ。」
そう言って秋月さんは僕の目を見て何かを訴えかけた。
「よい心がけだな。秋月よ。」
すると僕の後ろには大仰な態度の貴族が立っていた。
「アルドーフ殿。この前のドラフの件ではお世話になりました。」
「ああ。そんなこともあったな。まあ、それよりも何よりも、お前たちが無事帰ってきて私は満足だよ。」
アルドーフは、僕の耳元に手を当てて、一言吐き捨てた。
「まあ次は、無事に帰ってこれるかどうかわからんがな。」
「わかっているね、スピカ君。円卓では多くの貴族が参加する。国王様だけではなくね。だから、くれぐれも気を付けて発言してね。」
その瞳は、何かのメッセージを伝えようとしていた。
004.
「それでは今から円卓会議を開始する。皆、良く集まってくれた。」
そう言って、国王が宣言した。
「本日の会合では、今回召喚された「勇者の処分」について話し合う。この話し合いの参考人として、モブを同席させている。アルドーフ殿、このような形で良いな?」
「はい。そのような形で構いませんとも。以前のドラフの件では、これらの者が活躍したそうですしな。」
アルドーフはそう言って、僕たちを指さす。
「秋月よ。今回の顛末を説明せよ。」
「はい。恐れながら国王様。本作戦においてはドラフの首を取ることが出来ませんでした。大変申し訳ありませんでした。」
僕は驚き、秋月さんを見る。しかしその様子に驚いたのは僕だけでは無かった。
「おい、それはどういう意味だ。」
「任務不遂行なのか?」
「ドラフを斃さねば大変なことになるぞ。」
そして最も驚いた様子を見せたのはアルドーフだった。
「静粛に!」
国王が言うと皆黙った。
「いいか。今回私はドラフについて先に調べ上げていた。親衛隊を送り込み、その奴隷窟の構造やその実態を暴いたのだ。しかしながら当日この者たちが向かった際にはその事前の調査とは大きく異なった結果が待っていた。」
するとアルドーフが髭を擦りながら話す。
「ほう。それはどのようなことで?」
「恐れながら申し上げます。あの時、私たちは奴隷窟の中におりました。しかし、案内の途中で道が変わってしまったのです。」
「そんなことはドラフを斃せなかったことの理由にはならんぞ。」
「はい。そのため私たちは彼を斃すためにわざと彼について行き、彼を殺すことを試みました。しかし、出来なかったのです。」
「そうか。だからお前たちは、任務より自分たちの命を優先させてのうのうと帰って来たというのか?」
「はい。そこについては弁明のしようが御座いません。申し訳ありませんでした。」
「国王様。このような者たちにこれから任務を任せてもよろしいのでしょうか。」
すると国王はアルドーフの方を見て言う。
「そうだな。モブの処分については、また後ほど話し合おう。」
僕はエレナと顔を見合わせる。
何故秋月さんは、ドラフを斃せていないなどという嘘をつき、わざわざ自分たちの評価を下げたのか。
「しかし今この世界では、それ以上に大変なことが起きているのだ。」
円卓がざわつく。
「それは……」
「魔王の侵略が始まったようだ。」
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