第六話 僕の持ってる、光るモノ【004】

004


お風呂から上がると、風呂場の前には秋月さんと茜音さんが謎の串焼き肉を持って立っていた。


「あ!お前ら何食ってる?」

「これですか?これはダークオークっていう種類の魔物の肉を焼いて串刺しにしたものですよ。」

「それ、俺にも食わせろ!人が温泉に行ってる間によくも……」


そう言ってルドルフさんは茜音さんに説教を始めた。そして当の茜音さんはというと、怒るルドルフさんを傍目に、知らんぷりをしてその串を頬張っている。


「秋月さん。そのお肉、本当に美味しいんですか?」

「うん、すごく美味しいよ、スピカ君。とっても希少で高級なお肉でね、噛むと口の中で肉汁がジュワーっと出てきてすごく美味しいんだ。食べる?」

「いえ……遠慮しておきます。名前からして不味そうだし……なにせ見た目が……」

そう言って僕はその、ドロドロとした変な紫色の液体が滴り落ちている肉塊を見て顔を背けた。


「明日は勇者召喚の日だね。」


秋月さんは月を見ながら言った。


「勇者召喚の日?」

「そうそう。言ってなかったっけ?」

「あ、はい。」

「ごめんごめん。明日はね、ちょうど勇者が召喚される日なんだよ。だから僕たちモブはその準備と誘導をしなきゃいけないんだよ。」

「なるほど。それもまた何で明日なんですか?」

「うーん。前の勇者が亡くなってから、ちょうど数ヶ月になるからかな。ま、ここだけの話、勇者と言っても活躍できない歳になったら殺されちゃうんだけどね。」


僕は驚き、秋月さんに聞き返す。


「殺される?」


すると秋月さんは悲しそうに話す。


「まあ殺されるというか、正確に言うと僕たちが暗殺するんだけどね。もちろん、僕たちだって殺したい訳じゃないさ。でも、そういう風に決められていてね。だから僕たちモブは『勇者が生まれてから終わるまで』を見届けることができる唯一の職業なんだよ。皮肉なことに。」


僕は震えながら話す。


「でもなんで殺さなきゃいけないんですか?生きている人間なのに……」


すると茜音さんといつの間にか和解したルドルフさんが串を片手に僕の方を向く。


「勇者は体力勝負だ。その手で魔王に立ち向かって魔王を倒す。だから、歳を取った勇者は勇者じゃなくなるんだ。国からすれば、年を取った勇者はただの金を食い潰すだけの老人だ。でも彼らは有名だから、表立って殺すことも支援を打ち切ることもできない。少なくても今まで何かしらの形で活躍したのは間違いないしね。だから、俺たちにその汚れ仕事を頼むって訳さ。」


「でも、普通の人間として暮らせないんですか?」


すると、茜音さんは僕の方を向いて、真剣な眼差しになって言う。「それだけ私たちが立ち向かわなきゃいけない存在は強大な脅威だと言うことよ。勇者にしても魔王にしても、その力は計り知れない。対抗手段として勇者を召喚する人間でさえその力を完全に支配下に置くのは難しいと言うことなの。」


僕は、恐ろしくなった。自分がどれだけの組織に身をおいているのか、そしてどれだけの責任があるのか。


「ま、魔王を殺すことができればこんな悲劇の連鎖は終わるんだけどね。」


そう言って茜音さんは伸びをする。


「とにかく、明日は勇者が召喚される日だ。勇者の召喚を見られるのはなかなか貴重だから、しっかり見ておけよ。」


ルドルフさんはそれを、まるでそれが珍しい昆虫が孵化するかのように言った。

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