第六話 僕の持ってる、光るモノ【003】

003.

僕は、ルドルフさんの一番のお気に入りだという風呂場へと連れていかれていた。そして僕は、湯船に浸かりながら仕事について語らっていた。


「今日はどうだった?」


ルドルフさんは僕に問いかける。


「まあ、僕はほとんど仕事してないですけれどね。でも、魔法屋のお婆さんのところに行って、いろんな話をできて楽しかったです。」


するとルドルフさんは「そうか、それはよかった。」と頷いた。


「それで、どんな話をしたんだ?」


そうルドルフさんは僕に尋ねる。



それから僕は、怪しげな店に入れられて腰を抜かしていると、いきなりお婆さんが出てきて慌てたこと、美味しい紅茶を飲みながら魔導工学士の話を聞いたこと、そして自分の作った「スピカ号」で盛り上がったことなど、今日あったことを話した。

「お前にはそんな特技があったのか。」

「まあ、特技というか、たまたまお婆さんと波長が合っただけですよ。」

僕は笑って誤魔化す。すると、ルドルフさんは僕の目を見て、「あの婆さんが認めるってことは本当に珍しいことなんだぞ。」という。

「正直僕もよくわからなかったんです。なんでこの職業に選ばれたか、なんで僕なのか。でも、認められて少し嬉しかったというか、自分に自信が持てた気がするんです。」


ルドルフさんは湯船にさらに浸かる。

「実は俺も最初、なんでお前がこの仕事に選ばれたのかわかんなかったんだ。」

「でもあの招待状はネビルさんが書いたんじゃないんですか?」


するとルドルフさんは壁に背中をもたれて話し始めた。


「いやな。実際のところ、この仕事の人選は国王様が行うんだよ。俺たちは推薦だけならできるけどな。そして国王様から極秘で頂いた書類を見て、招待状を書くというわけだ。でも、俺を含めてみんなお前のことを知らなかった。ということは必然に、国王様が直々にお前を探して選んだ、ということになるな。」


「じゃあ、なんで僕のことを国王様は知っていたんでしょうか。」


するとルドルフさんは「さあな。」と言って、ザブリとお湯を肩にかける。


「まあとにかく、お前は国王様に何かしらの形で選ばれたんだろうな。それが良い意味でも悪い意味でも。」

「良い意味でも、悪い意味でも、というのは?」

「この仕事は、まあエレナみたいな特殊な奴は例外として、まず希望する人が少ない。それが何故かわかるか?」


僕は首を傾げて「さあ。」と言う。


「この職業は極秘任務を扱う職業だ。従って国家関連のヤバイ任務だったり、泥臭い話だったりに巻き込まれる。それはわかるな?」


「はい。確かに。」


「しかもだ。その努力は基本的に人に認められない。勇者や国民にバレたら、それこそ国が無くなるからな。誰にも見られないように、まあ見えたとしても『モブ』としての姿として見られる必要がある。まあ、そんな訳でそもそもこの職業を知っている人は少ないし、知ったとしてもなりたいと思う奴は少ないんだ。」


僕は頷き、手元に視線を移す。


「だから、この一番平凡に見えて、実は最も特殊な職業に推薦された、と言うことは何かしら裏があると見たほうが良い。それが良い知らせか悪い知らせかどうかは別としてな。」

そう言って、ルドルフさんはおどけて肩を竦める。


「僕は確かに、魔導工学は少し出来ます。でも、他のことはあんまりだし、そもそもいま新しい魔道具を作成しろと言われても直ぐにできる訳じゃないんです。」


僕は俯きながら、事の重大さにおののいていた。僕には何かしらの「やらなければいけないこと」がある筈なのに、それを見つけることができないのだ。


「しかも、僕今まで部屋の外にほとんど出た事なくて、臆病で、ヘタレなんです。現にエレナさんにも嫌われちゃってるし。」


するとルドルフさんは風呂場の天井を見ながら話し始める。


「まあな。エレナはエレナで、辛い思いを乗り越えて努力してきたからな。厳しい訓練をしないで入ってきたお前を見て怒っているんだろ。ただ、お前、即ちスピカ本人が「どうしたいか」それを考えなきゃダメだ。お前はただ文句を言いたいだけではないんだろう?」

「はい。」

「じゃあ、現状を変える方法を考えなきゃダメだな。」

「変える方法?」

「そうだ。お前が自分のことをヘタレだと思うんだったら、ヘタレじゃなくなれるようにどうすればいいのか考える。エレナに嫌われて嫌だと思っているんだったら、どうすれば好かれることができるか考える。それが大人ってもんだ。」

そう言って僕の頭にポンと手を乗せる。


「お前は、あの魔法屋のお婆さんが認めるほどの「光る原石」を持っているんだ。でも、原石は何もしなければ原石のままだ。だから、それを磨かなきゃいけない。」


僕の光るもの。そして、それを磨く方法。僕は考える。


自分の見える世界を変えたいと思った時、周りや相手は変わってくれない。そして、変わることができるのは自分しかいないのだ。

父さんの言葉を思い出す。


自分に好きなものができた時、自分の目標ができた時、それに向かって全力で走れ。そのためであったらどんな手段でも使え。


「ルドルフさん。」

「なんだ?」

「僕、魔法屋のお婆さんの弟子になります。」


すると、ルドルフさんは少し驚き「おう。頑張れ。ただあの婆さんは、弟子は絶対に取らないと言ってたぞ」と言った。

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