第三話 「モブ」という名の仕事【001】
001
僕は招待状に描かれた、×印の場所に恐る恐る向かう。僕は何に遭遇するのかわからないまま、道を進んでいた。
やがて森の中に入った。
僕はだんだんと恐ろしくなった。そして地図を何回も見直しながら、「ここで合ってるよな。」と呟いた。
森の中を進んでいくと、昼間であるのにも関わらずだんだんと周囲が暗くなってきた。僕は怖くなって、もと来た道を引き返そうとした。
その時だった。
草がいきなりガサリと揺れた。
何かいる。
そう思い、怖くなった僕は、逃げ出そうとする。
その草影から強面の男が飛び出してきた。
僕はその姿を見るなり、全力で走り始めた。後ろから「おい待て!坊主!」という声が聞こえる。
僕は情けない声を出しながら、逃げる。
この先を曲がれば、森を抜けられる。
不意に腕が捕まえられる。
「はあ、はあ。ようやく捕まえた。」
後ろを恐る恐る見ると、そこには強面の男が息を切らして立っていた。
「おい。お前、なんで逃げる?」
その男はそう言って、僕の顔を覗き込む。
「ひ、ひえぇぇぇ。すいませんすいません!殺さないで下さい!」
「いや、殺さねぇよ。」
「お前、スピカで合ってるか?」
僕が「は、はい。」と言うと、その強面の男は「そうか。ではこっちに来い。」と言った。
暫く歩くと、薄暗い森が開けている場所についた。そこで、数人の人が焚き火を囲みながら野営をしていた。
「みんな、新人のスピカだ。」
そう強面の男は言う。
「俺はルドルフ。村人Bをやっている。そうだ、紹介しよう。そこに座ってる奴が、去年この「モブ」に入ったお前の先輩で村人Dをやっている茜音ちゃんだ。よーく教えてもらえよ。」
そう言って彼が指さしたのは、僕に笑顔で手を振っている女性である。
僕は、「よ、よろしくお願いします」と言って頭を下げた。
「私は桜ノ宮茜音。茜音って呼んでね、新人くん。色々と大変なこともあると思うけど、協力して頑張ろうね。」
僕は何が始まるのかわからず、戸惑いながら「は、はい。」と言った。
「あ、あの。」
僕は勇気を出して、聞いてみることにした。
「僕は何をすればいいんですか?」
僕がそう言うと、皆きょとんとした顔になった。
そして、強面の男、ルドルフが僕の顔をまじまじと見る。
「おいおい。お前まさか何も知らずに来たわけじゃないよな?」
僕は怯えながら、「す、すみません。何か良くわからないままこの便箋に従って来ただけなので。」と言った。
「おい、お前。」
厳つい男、ルドルフが背広を着た紳士のような出で立ちの男に手を掛ける。
「おい、書いたのはお前か。」
僕は肩を竦めて、「ごめんなさい。」と言う。
「いや、お前は悪くない。おい、ネビル。お前まさか説明も無しに便箋を届けたんじゃ無いだろうな。」
すると、ネビルと呼ばれた男が、「潜伏。」と言って、消えた。
「お、おい!ネビル!やっぱりお前!ってどこ行った?おい、ネビル?」
ルドルフさんは周囲をキョロキョロと見渡し、ニヤリとした。
急にルドルフさんは焼き肉を手に取り、猫なで声で話し始める。
「ネビルさん~。出てきておいで~。美味しい焼肉だよ~。ホレ、ホレ。」
するとネビルさんが姿を現し、「焼肉!」と言って、焼き肉に手を伸ばした。
周りを見ると、茜音と呼ばれた女性や背の低い老人が「ちょろいな。」と言って笑っていた。
「おい、ネビル。なんで新人に何の説明もしなかった?」
そうルドルフさんが言うと、ネビルはもう一度「潜伏」と言おうとする。
しかし間に合わずにルドルフさんにがっしりと手を掴まれてプルプルと震えている。
「だ、だって。やっぱり憧れるじゃないですか。何も知らない一般人に意味不明な便箋を送り付ける影の実力者、みたいな?」
「みたいな?じゃねぇよ。そのせいで新人が困ってるだろうが。」
ルドルフさんは、背広を着た男、ネビルに拳骨を食らわす。
「あ、あの。」
僕は戸惑いながら話す。
「すまんな、新人。こいつはネビル。策略家で、クールで冷静沈着な村人Cを自称しているんだが、こういう馬鹿なんだ。」
「は、はぁ。」
僕は呆気に取られ、心の中で「どう見てもクールで冷静沈着にも見えないし、そもそも村人Cってなんだ」と思いながら、会話を見ていた。
「よろしくお願いします。私の名はネビル=フェルトホフ。簡単にネビル、と呼んでください。」
そうネビルさんが言うと、「ネビル君はこういうお茶目な人なんだ。よろしくしてあげてね。」と、背の低い温和そうな初老の老人が言う。
「僕の名前は秋月弥太郎。この中で一番年寄りの爺さんで、村人Aをしてる。よろしくね。」
そう言って、その老人、秋月さんは軽くお辞儀をする。
「そう言えば、彼女はまだ来ないのかな。」
そう言って秋月さんは辺りを見渡す。
「まだ来てないみてぇだな。迎えに行こうか?秋月さん。」
「うん。ありがとう。頼むよ。」
僕は「ふぅ。」と息をつき、近くにあった岩に腰かけようとする。
ルドルフさんが僕の方を見る。
僕は嫌な予感を催し、顔を背ける。
「いや、お前も来いよ。」
「い、いえ。遠慮しておきます。」
「いや、来るんだ。お前の同期になる人だぞ。」
そう言って、僕の耳元に近づき、「あと、めちゃくちゃ可愛いぞ。」と付け足した。
「いえ。僕そういうのは興味ないんで、いいです、本当に。」
僕はそう言って、後ずさりする。
そもそも誰かと話すのには興味が無いし、何より怖い。誰かと話したことがほとんどない僕に取って、その提案は迷惑なものに過ぎないのだ。
「ちっ。連れねぇ奴だな。」
そう言って、ルドルフさんは、僕に背を向ける。
「と、思ったか!」
ルドルフさんはいきなり振り返り、僕の首根っこを掴んだ。
「ちょっ!」
「行くぞ、新人!」
気が付くと僕は宙に浮いていた。正確には、全力疾走するルドルフさんに引っ張られて
「ぎゃああああああ~~!だずげでぇ~!お願いですから帰して~~~」
僕はそんな情けない声を出しながら、ルドルフさんに連れていかれたのだ。
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