授業中ふて寝してたらムリヤリ異能に目覚めさせられました
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
目覚めよ!
授業中に居眠りしていたら、バンバン! と何者かに背中を叩かれる。
「目覚めよ!
なんだよ、まだ20分も経ってない。英語の授業くらい静かにできねえのかよ?
授業はまったく進んでいなかった。
それどころか、時間が止まってる!
周りを見渡すと、オレは宙に浮いていた。天井が近い。
「なんだこれ、オレはどうなっちまったんだ!?」
「落ち着くのだ。幹本伸也よ」
オレを起こしたのは、クラス一の美少女、
彼女も宙に浮いている。下を見ると、寿々花も机に伏して眠っていた。
寿々花ってこんな喋り方だったっけ? 普段無口だから、誰も彼女の声をロクに聴いたことがない。なぜか、授業中に当てられたことすらなかった。
未だに慌てていると、オレを起こした寿々花が解説してくれた。
「ここは、鏡面空間。現実とは違う、もう一つの世界。この世界には、鏡のような世界がある」
「なんでオレだったの?」
「あなたは、狙われている!」
言われたそばから、オレの身体が寿々花によって突き飛ばされる。オレと寿々花の間を、何かが通り過ぎた。
ドロドロとした質感。油の塊のような物質が、だんだんと実体化していく。
「うわ、何コイツ?」
「これが、あなたにまとわりついていた無気力の正体」
無気力って、あんな気色悪い物体なんだな。
もっと「さぼろう!」とかいってくる親しみやすいキャラだと思ったぜ。
「おそらく、鏡面空間をなんらかの理由で脱出し、あなたに浸透してしまった。確実にあなたを汚染しようとしている」
確かにここ最近、授業を受けるときに感じるだるさは異常だった。
ゲームもほどほど。勉強も多少意欲はあった。趣味はラノベを少々たしなむ程度だ。
ごく普通の生活を送り、ごく普通の成果を出してきたはずだ。
なのに、最近は机に向かうと、やたらと眠気が襲ってきた。
春めいてきたから少し気圧の影響を受けているのかな、と気にしていなかった。
だが、そんなの関係ない。とにかく毎日眠かった。
その原因はコイツだったのか。
「もし、あのまま目を覚まさなかったら?」
「鏡面空間の怪物は、人知れず現実世界に潜伏し、憑依した相手の精神を喰らう。そうやって、宿主に成り代わる。気力を吸い尽くしたら、また別の宿主を探す」
オレを狙うヤツはどいつだ?
答えは、目の前にあった。
英語教師。彼と、油の化物は繋がっている。
四〇代独身。交際経験なし。しかも、誰も授業を聞いていない。
無気力になってネガティブに溢れていた。
「彼も昔はああではなかった。だが、過度にネガティブな感情が鏡面世界とチャンネルしてしまい、この化物を呼び込んだ」
もう少し遅ければ、オレもヤバかったワケか。
「オレが狙われた理由は?」
「彼は既に、全ての学生を憎んでしまっている。君が狙われたのは、私の隣がキミだけだから」
寿々花は窓際に座っている。
正面は女子だ。
横にいる男子はオレである。
「嫉妬かよ。先公のくせに」
「ジェラシーに若さは関係ない。それより手助けして欲しい」
寿々花がちょちょいっとやっつけるわけではないらしい。
「私はこの世界を感知できる力があるだけ。協力は、他の人に頼むしか。私が能力を引き出せる人物が、キミだけだった」
そうなのか。オレが美人さんの運命の人っていうなら、それも悪くない。だけど。
「あの教師も見逃せない。しょうもない人生を送る同士、共感できるところはあるな」
「キミが狙われたのは、そういうところだ。そこをつけ込まれた」
寿々花の手が、オレの手を握る。
「力を送る。受け取ってもらいたい」
「よし。いつでもいいぜ」
電流のような刺激が、オレの中を駆け巡る。一瞬で、オレは寿々花からもらった力をどうすればいいか悟った。
手をグーにすると、手の平の中で一瞬だけ火花が散った。
これで相手を殴ればいいんだな。
「しゃあああ!」
オレは油の怪物を殴り飛ばす! 拳を介して、電流を怪物へと流し込んだ!
怪物はブルンブルンと身震いした後、蒸発した。
「やったぜ!」
「何がやったんだ?」
気がつくと、オレは机から起き上がっていた。
同時に、英語教師から教科書でポンと頭を叩かれる。
周りの生徒たちが、クスクスとオレを見ながら笑っていた。
どうやら、現実に戻ってきたらしい。
状況判断するのに、数秒を要した。
「んだよ、助けてやったってのに」
「あん、何か言ったか?」
「別にー」
オレは机に座り直す。
隣を見ると、結城寿々花は教科書を開いたまま、頬杖を付いていた。
何事もなかったかのように。当然、こちらを見てもいない。
だが、明らかに意図的な様子の無視だった。
ノートに「ありがと」って短く書いてあったから。
放課後、結城寿々花と話す機会ができた。
「これで、オレも異能者か。正直ラノベの世界だけだと思っていたぜ」
オレが世界を救うのかと思うと、胸が熱くなるな。
「でも、この異能ってどうやって使うんだ? 今後も使えるんだよな?」
オレが聞くと、寿々花は首を振った。
「鏡面世界を脳が認識できるのは、レム睡眠時だけなのだ。私は、レム睡眠時でしか鏡面世界を感知できない。つまり、私が居眠りをする時間でないと認識できないのだ。当然、キミの異能も居眠りしないと発動しないぞ」
じゃあ、授業中ずっと寝てなきゃイカンと?
マジかよ、そんな異能ありか。
もう一つ懸念材料がある。
オレが居眠りするってコトは、寿々花も一緒に眠るわけだよな?
つまり、ずっと一緒に眠るってわけで。
「……意識して、眠れなくなっちまうかもな」
(終わり)
授業中ふて寝してたらムリヤリ異能に目覚めさせられました 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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