夢の中の彼女は ~ another side ~
ケンジロウ3代目
短編小説 夢の中の彼女は ~ another side ~
ここは私の夢のなか
私は今日も夢を見る
「あれ、また・・・?」
私はふと目を覚ます
そこは桜舞うあぜ道の真ん中で
すぐにここが夢だと気づいた
だって昨日もこんな夢を見たのだから
私は夢の中で、今日もただその場を彷徨いながら
少しばかり歩いていると
「・・・あれ、あそこ・・・・・」
ふと向こう側に、人影らしいものが
私はその場へ近づいてみると、確かにそれは人の姿であった
夢で会う人なんて、不思議じゃない?
私は勇気を出して、その人に一声を
「あの・・・、すみません・・・?」
すると相手は声に気づき、こちらを振り向いた
――― はい?僕のことd・・・
次の瞬間、私達を桜吹雪が舞い上がる
急な出来事に、私は思わず目を閉じる
しかしなぜだろうか
さっきの人のあの声は
どこか懐かしい、そんな気がしたんだ ―――
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「ッ!!」
私はふと目を覚ます
眼を開けると、目に入るのは病院の白い天井
どうやら現実の世界に戻ってきたようだ
今の私は、仮眠を終えた病院の看護師
ロッカーにある着替えを早々に済ませ
軽く身支度を整えると、私は患者さんのもとへと向かっていく
もうすぐ目を覚ます時間だから
「ッ!!」
その患者は、目を覚ますなり急に起き上がる
「!?あの・・・椎名さん?大丈夫ですか?」
その声でこちらへ振りかえるのは
私が担当する患者さんの、椎名幸三さん
「あ、あぁ・・いえ、ちょっと夢を見ていましてね・・・」
「あぁ、そうでしたか。今日の夢はいかがでしたか?」
「はい、なんだか少し・・・不思議な感じが・・・ね?」
椎名さんも変わった夢を見ていたみたい
私は落ち着いた椎名さんをその場に寝かしつかせ
毛布を上からかけると
「何かあったら呼んでくださいね。」
私はそう一声かけて、その部屋を去っていく
椎名さんは、不治の病におかされている
先生からは余命2週間と告げられていた
椎名さんが生活するあの一室は、ただただ静かな一空間
余生は静かにしていたいという、椎名さんの要望だ
しかし椎名さんがこの病院に来てから
私はなぜか、あの夢ばかり見るように
桜舞うあぜ道の真ん中に、夢の自分がいるあの世界
なぜだろうか
そして今日も、私は同じ夢を見る
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
ここは私の夢のなか
私は夢の中で、昨日のあの人を探していく
今日はいないのかな
会って話がしたいから
不思議な夢で逢った、不思議な人だから
そして
「また、会えましたね・・・」
見つけた
あれから結構な時間が経っていたから
その人は振り返って私を見る
――― あぁ、あなたは一体・・・? ―――
・・・警戒しているのかな
相手の人は、何だか少し控えめだ
「・・・」
やっぱり不思議な感じだなぁ
この人を見ると、何だか少し懐かしい感じがするんだ
それは少し悲しくて、そしてそれ以上に優しいもので
自然に笑みがこぼれてしまう
・・・でもそろそろ時間が
まだあの人の質問には答えられてないけど
またこの人に会いたいから
「・・・また、会いましょう。」
そんな言葉を言い残す
そして丁度良いタイミングで桜吹雪が辺りに舞った
相手のその人はその風で、おでこにかぶさっていた髪をなびかせていた
(・・・ッ!?)
その瞬間、私の眼に入ったのは
――― 眉間に入った一本の筋傷だった
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「・・・・・」
私は夢から目を覚ます
しかし今日の夢は今までとは違い
なぜかこんなにも、印象に残るもの
「あの傷って・・・」
覚えがあった
あの傷は、私の大切な人のもので
その傷に、かなり似ていたのだ
しかし、その傷についてはそれだけで
誰の傷だったか、何でついたのか
なぜか全然思い出せない
しかし私は看護師、早く患者さんの元へ行かねばならない
私はそのことを心奥に無理やりしまい込んで
さっさと身支度を済ませて椎名さんの元へ
「失礼します。」
部屋に入ると、椎名さんはまだ寝ているようだ
・・・今日も不思議な夢を見てるのかな
何だか最近の私みたいだ
「んんッ・・・」
椎名さんも、ようやく目が覚めたみたい
様子を見るに、やっぱり今日も変わった夢を見ていたのかな
聞いてみよう
「おはようございます。今日はどんな夢でしたか?」
なんて聞いてみたりして
「あぁ、今日も少し違った感じで・・・」
「違った感じ・・・ですか?」
「はい、何だか不思議な感じで・・・」
「なんだか少し懐かしいんです。」
椎名さんが見た夢は、懐かしいものだと言っていた
私が見た夢も、何だか懐かしい感じがしたんだ
何か共通点でもあるのだろうか
私はしだいに、『二つの夢』に惹かれていく
そして今夜も、またあの夢を
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
私は今日もあの人を探して
探して探して探し回って
また会って話がしたい
しかし、あの人の姿はなかった ―――
私は夢の中で、ただ願い続けた
だってもっと話がしたい
不思議な夢で逢った人を、もっと知りたいから
そしてあの傷のことも、思い出したい
――― 感じたあのなつかしさを、もう一度
夢の中で、そう願って
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
今日も起きて椎名さんの元へ
この表情、椎名さんは今日も不思議な夢を見てるみたい
何でか分かっちゃうんだよね
「・・・」
椎名さんが、今日もゆっくりと目を覚ます
そして今日も聞いてみる
「おはようございます。今日は良い夢見られましたか?」
多分今日も不思議な夢だって答えるんだろうな
なぜかちょっと楽しみ
しかし、椎名さんはこう言った
「今日は何だか・・・お願いをされました。」
えッ
うそ・・・
お願いってまさか・・・
「す、すみませんッ、変な事いっちゃって・・・」
椎名さんは何だか言葉を訂正しているけれど
けれど、もし・・・
もし、それが
――― それが私の願いならば ―――
「・・・そうでしたか。お願い、叶えてあげてくださいね。」
私は椎名さんに、そう返した
そんな私に、椎名さんは少し戸惑い顔
「・・・看護師さんは・・私が言ったこと、気にならないのですか?」
「え、気になる・・・ですか?」
・・・でも確かにそうだよね
だって他の人が聞いたら、多分はてなマーク浮かぶよね・・・
「起きた人が急に意味不明なことを言っているのに、“夢の中でお願いされる”・・・なんて・・・」
椎名さんが聞いてきたのはこんなこと
なんで私はあのような返し方をしたんだろう
まだ完全に分かってるわけじゃない、から
「何ででしょうかね~♪」
思わずはぐらかしちゃった
これに椎名さんは
「あはは、そう来ましたか。」
椎名さんは、私の返しに笑ってくれた
もし、自分の夢の中での願い事が
椎名さんのお願いと結びつくのなら
普通じゃこんなの絶対にありえない
二人の夢が結びついてるなんて
でも・・・でも・・・
「・・・でも」
「・・・?」
「もし『思い出す』ことが出来たら、分かるかもしれませんね。」
そして
そんな私に驚く椎名さんの額から、
夢で一度見た、あの筋傷が
その日の夜、私の頭はそのことでいっぱいだ
夢で見たあの筋傷が、なぜ椎名さんの額にあるのか
あの筋傷は、自分の中で確かに残っている大事な何か
そのトリガーであることには、薄々気づいていた
どうしても思い出したい
何か大切なものの気がするから
私にとってかけがえのない、唯一無二のものだと思うから
だから、思い出して
思い出して・・・
思い出してッ・・・
思い出してッ!!
次の瞬間、視界が一気に開きだす
ッ!!
気づけばそこはあの夢のなか
そして自分の下に、何か落ちているもの
それを拾い上げた瞬間
――― その答えは、ついに咲いた
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
そしてここはまたも桜舞うあぜ道
そしてついに見つけた
夢のなかで会った、不思議なあの人を
「思い出せましたか・・・?」
――― ・・・ごめん、まだ思い出せないよ ―――
「そうですか・・・」
そう言って、私は先程拾い上げたものを前に出す
――― それは・・・? ―――
私は答えた
「これは、私の宝物です。」
それは、中に写真一枚が入る程の首飾りペンダント
外の蓋を開けると中のものが見える、という仕組み
「これは小さい時にもらったもので・・・」
――― あれ・・・それって・・・ ―――
その人は、ペンダントを見て考え出す
そう、これが思い出す最初で最後のトリガー
どうか思い出して
――― ・・・中の写真、見せてくれないか? ―――
もう少し、あともう少し
思い出して
どうか、思い出して
――― お父さん
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
椎名さんは、ゆっくりと目を覚ます
起きてこちらを見るなり、椎名さんは驚きの表情を
・・・いや、もう『椎名さん』じゃないよね
「まさか・・・」
「・・・お分かりいただけましたか、お父さん。」
思い出した
ペンダントにあった写真は、私の家族の写真
お父さん・お母さん、そして私の三人、遊園地にて
マスコットキャラクターと一緒に笑う、私達3人のすがた
4歳のころに離婚したお父さんとお母さんだけど
『お父さんがいる』この事だけは覚えていたの、ホントだよ
ただあの筋傷が、お父さんのものだって気づいたのは
あのペンダントのおかげなんだ
お父さん、私のこと
覚えてる?
私は、
私は・・・
「私はあなたの娘、椎名綾女です。」
お父さんは、その場で涙を流した
でも表情は、何だか嬉しそうだ
まるで最高の目覚めだと言わんばかりに
「今もお母さんは元気です。お母さんはあれからもお父さんのことは話さなくなったけど、私はちゃんと覚えています。」
「・・・」
「・・・だから、お父さん・・・」
――― 思い出してくれて、ありがとう ―――
そして私も、涙を流した
お父さんの手は、とても震えていて
私はその手を優しく握った
そんなお父さんの手から、色々な感情が渡ってくる
もっと話していたい、こうしていたい
しかしどの感情よりも一番伝わってくるもの
何でか分かっちゃうんだ
これが親子の絆ってやつなのかな
私も涙が止まらなくなり、両手でお父さんの手を握り
必死に笑顔を、笑顔をッ・・・
最期の言葉を、聞くために
お父さんの最期を、見届けるんだ
最期の力を振り絞り、お父さんが言ったことば
――― ありがとう、な・・・ ―――
椎名さんが来てから2週間が経った今朝のこの時間に
お父さんは、この世を去った
おわり
夢の中の彼女は ~ another side ~ ケンジロウ3代目 @kenjirou3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます