98・ふんがー!
私たちはグレース火山へ向かう。
竜殺しはラーズさまの魔力に耐えたのだけど、
「返さなければならないのは残念だな」
「ですが、大地の剣ディフェンダーはともかく、
「そうだな」
そしてグレース火山に到着した私たちは周囲を窺う。
近代の竜が三体 住み着いているという話だけど、まだ私たちに気付いていないのか、その姿を現さない。
「このさい 見つかる前に、太陽の花を採取しましょうか」
私たちは馬から降りると、火口へ向かって登る。
そして一日 掛けて登頂した。
火口付近には一面に花が咲いていた。
赤に黄色の斑模様の花。
ソラリスさまの説明と一致している。
太陽の花だ。
私たちはさっそく採取に取りかかった。
本当に凄い量で、これなら袋いっぱいに詰めても問題なく、この地域の太陽の花を採取しつくしてしまうと言うこともないだろう。
あとは、竜が私たちを見つける前に撤退すれば……
「なんだぁ? 人間がいるぞ」
「兄貴、どうしやすか? どうしてしまいやすか?」
「ふんがー!」
うん。
そういう展開になるんじゃないかと思ってたけど、本当にこうなるとは。
上空から十メートルはある竜が三体、私たちの前に降り立った。
黒竜、黄竜、緑竜の三体。
獰猛な眼を私たちに向けて、鼻息を荒くしている。
私たちは武器を構えて、臨戦態勢を取る。
「おう、俺たちとやり合うつもりだぜ」
「兄貴、やっちゃいましょう。やっちゃってしまいましょう」
「ふんがー!」
私は前に出て、気になっていた事を質問する。
「貴方たちは何者です!? 人間だけではなく魔物も襲っていると聞きましたが、魔王軍に属しているのではないのですか!?」
黒い竜が鼻で笑う。
「魔王軍だと! 笑わせるな! あんなザコの集まりに俺たちが入るわけねえだろ!」
「そうでやんす!」
「ふんがー!」
「なぜ魔物まで襲うのです!? 同じ魔物でしょう!」
「同じだと!? カス共と一緒にするな! 俺たち兄弟は世界の支配者になる存在だ!」
「そのとおりでやんす」
「ふんがー!」
「世界の支配者? 貴方たちは世界を征服するつもりなのですか?」
「そうとも。世界最強の兄弟である俺たちが世界を支配する!」
「バルザックなんて目じゃないでやんす」
「ふんがー!」
「殺す前に、世界の支配者になる俺たちの名を教えてやろうか」
「兄貴、教えちゃいましょう。教えてやっちゃいましょう」
「ふんがー!」
三体の竜はそれぞれポーズを取って名乗った。
「イリュウ!」
「キリュウ!」
「ミ、ミリュウ!」
「俺たちリュウ三兄弟!」
「でやんす!」
「ふんがー!」
私はリュウ三兄弟に、
「世界征服してなにをするつもりなのです? 世界を征服した後、貴方たちは魔物や人間をどうするのですか?」
「ああ? そんなことどうでもいいだろ! 強い奴が支配者になるだけだ!」
「そうでやんす」
「ふんがー!」
強いから支配者になるって、最低でも百年以上生きてるのに、なんて幼稚な動機なの。
まるで親分根性丸出しの小学生。
「私たちは黄竜王・ツァホーヴさまからお願いされました。貴方達が大人しく降伏し、心を入れ替え、二度と人間も魔物も襲わないと誓えば、見逃してやってほしいと。どうしますか? 降伏し心を入れ替えますか?」
「グハハハハハ! 俺たちに勝つつもりでいるのか!? 黄竜王だか何だか知らねえが、ツァホーヴなんてジジイ、俺たちがぶっ殺してやるぜ!」
「魔王を名乗っているバルザックもでやんす」
「ふんがー!」
「そして俺たち三兄弟が世界の支配者だ!」
「そうでやんす!」
「ふんがー!」
「話は終わりか!?」
「ならこっちからいくでやんす!」
「ふんがー!」
戦いが始まった。
「喰らえ!」
黒い竜、イリュウが黒い炎の
迫る灼熱の黒炎を、スファルが
しかしその氷の壁を黄の竜、キリュウが、
「
無数の石飛礫で氷の壁は粉々に砕け散った。
「ふんがー!」
続けて緑の竜、ミリュウが暴風の息吹。
物凄い風で、私たちは吹き飛ばされそうになるのを、地面に伏せて堪えた。
「グハハハハハ! 俺たちとやりあおうなんざ千年早いぜ!」
ラーズさまが指示を出す。
「クレア、スファル、緑の竜を引き付けてくれ。セルジオ、キャサリンは黒い竜を。俺が黄色い竜を先ず仕留める」
私たちは息吹の的にならないよう散開して、それぞれ竜を引き付けた。
キリュウがラーズさまに、
「人間が一人でアッシを倒せると思っているんでやんすか!
大地の槍を走りながら回避したラーズさまは、聖剣・竜殺しに魔法をかけた。
「
膨大な魔力が剣に注ぎ込まれ、竜殺しは闇色の輝きを放つ。
「なんでやんすか!? とんでもない魔力でやんす! これはやばいでやんす! 大地突槍! 大地突槍! 大地突槍!」
キリュウは大地突槍を連続する。
「
ラーズさまは加速で全て回避し、跳躍すると、キリョウの胸を一閃。
「やられたー! でやんすー!」
血飛沫を撒き散らしながら、音を立てて倒れるキリュウは、それだけで動かなくなった。
死んでいる。
一撃で倒した。
竜殺しの威力も凄いけど、同じくらいラーズさまの魔力も凄いんだ。
イリュウが、
「ああ!? キリュウ! よくも弟を!」
そして黒い炎の息吹。
さらにミリュウが、
「ふんがー!」
暴風の息吹。
黒炎と暴風が混合し、広範囲に亘る。
「水氷障壁!」
スファルが氷の壁を形成し、続いてセルジオさまが、
「
二つの壁で、二つの息吹を防御した。
今の息吹、まるで合成魔法、
偶然かもしれないけど、これ以上使わせるのは危険だ。
「ラーズさま! 私が動きを止めます!」
私は声をかけると、
「
ミリュウを狙って魔法を行使。
竜は魔法耐性が強いと言っても、全くダメージがないわけじゃない。
足止めにはなるはず。
「ふんがー!」
直撃を受けたミリュウの動きが止まり、そこにラーズさまが跳躍してミリュウの首に一閃。
太い首をあっさりと斬り落とす。
切断された首から血飛沫を上げるミリュウ。
「ミリュウー! よくもやりやがったな!」
イリュウの口内が赤黒く発光し、そこから黒い火球が私に向かって放たれる。
私はあえて前方に向かって走り、スライディングしてそれを回避。
私の真上を通過した黒火炎弾は、地面に着弾すると爆発する。
「オラオラオラオラオラ!」
連続して黒火炎弾を放つイリュウ。
さながら爆発の嵐。
回避するのが精いっぱい。
「ハニー!」
「ダーリン!」
「「
セルジオさまとキャシーさんの合成魔法が、イリュウの顎を直撃する。
「グブッ!」
貫通はしなかったけど、口が閉じて、黒火炎弾の連続発射が止まる。
その隙を逃さずラーズさまは、息吹が放てないイリュウの懐に入ると、胴部に竜殺しを連続刺突。
「オオオ! 人間如きがあ!」
イリュウは右腕の鉤爪をラーズさまに振り下ろすが、カウンターでラーズさまはその右腕を斬り落とした。
「ウオオオオオ!」
切断された右腕からボタボタと出血するイリュウ。
ラーズさまはさらにイリュウの背後に回ると、翼を切り落とした。
「グアアアアア!」
再び正面に回り、連続刺突するラーズさま。
イリュウを火口へ押しやった。
「この俺さまが人間如きにやられるだとー!」
イリュウは溶岩が滾る火口へ落下していった。
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