60・必ず報いを受けさせてやる

 わたしは鉄格子越しに、尋問を見学させてもらった。

「我々は犯罪など計画していない!」

「まだ白状しないのか!」

 ジルドがヤキゴテっていう焼けた金属を、キースとかいうメタボ親父の見苦しい腹に押しつけた。

「ぐあああああ!!」

 ふん、いい気味。

 わたしの国で犯罪なんて考えるからよ。

「いいか、貴様以外は全員白状したぞ。反乱を企んでいたとな」

「そのようなこと企んでなどおらん!」

 もう一回、ヤキゴテを腹に押しつけた。

「があああああ!」

「これが最後だ。反乱に加担する者の名を言え」

「そんな者はおらんのだ!」

 あらあら、まだ認めないのね。

 認めれば楽になれるのに。

 しかたないわね。

 この手を使うしかないわ。

 うふふふ。

 わたしは ある娘を連れて、尋問室に入った。

「あ? な!? ど、どうして?」

 メタボ親父が驚いてる。

「お、お父さまぁ」

 あらあら、不安で涙を浮かべちゃって。

 この娘、可愛いわねー。

 まだ十歳なんですって?

 将来はきっとすごい美人になるでしょうねー。

「なにをするつもりだ!?」

 そんなの決まってるじゃない。

 ジルド、この娘を鎖に繋いで。

「ああ、分かった」

 わたしはヤキゴテを手にする。

 ほーら、早く言わないと、可愛い娘が大変なことになっちゃうわよー。

「わ、わかった! 言う! 白状する! だから娘には手を出さないでくれ!」

 あー、やっと喋る気になったのね。

 始めから白状していれば無駄な時間を使わずに済んだのに。

 それで、いったいどんな計画だったの?

「各地の抵抗軍と連絡を取って革命を起こすべきではないかという意見が出た」

 抵抗軍?

 革命?

 なに言ってるの、あなた。

 反乱軍でしょ。

 ムホンでしょ。

 言葉の使い方には気を使いなさいよ。

 でないと、こういうことになるのよ。

「ギャアアアアア!」

 可愛い子供の腕にヤキゴテを押しつけてあげた。

「あああ! 止めてくれ! 止めてくれぇ!」

 わかったら早く言い直しなさいよ。

「わかった! 反乱軍だ! 謀反だ!」

 それで良いのよ。

 で、意見が出てどうしたの?

「私は反対した。そんなことをしても解決しないと」

「イギャアアアアア!」

「あああ! なぜだ!?」

 嘘を吐くからよ。

 意見が出て賛成したんでしょ。

「ううぅ……そうだ、賛成した」

 それで、反乱に加わる反乱軍は誰なの?

 どこにいるの?

「まだそこまで進んでいない。反乱の話が出た時に、兵士が来て捕まった」

「ギイヤアアアアア!」

「本当なんだ! 会議室にいたので全員だ!」

 あらあら、あなたのお父さんって酷い人ね。

 実の娘がとっても痛がってるのに、まだ自分がなにもしてないって言い張るのよ。

 こうなったら……うふふふ。

 わたしは可愛い娘の顔にヤキゴテを近づけてあげた。

「お、おい、なにをするつもりだ?」

 ほーら、このままだと将来美人になれる可愛い娘の顔が火傷しちゃうわよ。

「知らないんだ! 反乱軍がどこにいるかなど私は知らないんだ! 知らないものを白状することなどできないんだ!」

「グギャアアアアア!」

 キャハハハッ。



 キース・リグルドの娘の顔に満遍なく焼き鏝を押しても、彼は白状しなかったことから、本当に知らないのだと判断し、リリア・カーティスはようやく拷問を止めた。

 同じ牢獄に入れられた二人は、苦痛を押し殺し、すすり泣く。

「ああ……私の娘……私の可愛い娘……許してくれ……どうかお父さんを許してくれ……」

 キースは愛しい娘を抱きしめ許しを乞う。

 ここまでされては、普通の医者は勿論、魔法の治療キュア治癒ヒーリングでも治せない。

「……お……お父ざまぁ……」

 頬も唇も顔じゅう全てを焼かれた少女は、まともに言葉を発することさえできなかった。

 それでも、必死に言葉を紡ぐ。

「ぎ、ぎにじないで……お父ざまは……良いごとを……じようど……じだだげ……なんだがら……」

「ああぁ……ああああぁ……おのれぇ……リリア・カーティス……悪魔め……よくもこのようなことを……許さん……許さんぞぉ……必ず報いを受けさせてやる……必ずだ……」

 ここに怨嗟の産声を上げた復讐鬼が誕生した。

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