夢の中と書いて夢中
夏木
夢みたこと
何度も繰り返してきた。
仲間が次々とこの世からいなくなるのを。
老衰、病気、戦死に自殺。
終わらない戦争で仲間はどんどんいなくなる。
今日は元気に会えたからと言って、明日も会えるとは限らないのだ。
何十回も目の前で死んでいった仲間を見た。だからもう慣れたものだと思っていた。しかし、人の死に慣れなど存在しないことを知った。
「俺を、置いていかないでくれ……なあ……」
目の前のベッドには目を閉じたまま動かない彼女。
突然国が攻められ、敵兵が夜に侵入したのだ。
多くの者は眠っていた。男女、年齢問わずに無惨にもその者たちに銃を向けたのだ。そして二度と目を覚ますことはなかった。
その夜、彼女はまだ眠ってはいなかった。
いち早く敵に気づいた彼女は、孤児院へと向かった。そして子供達を守るために敵に立ち向かった。亡くなった孤児院の子供達もいるが、生き残った子から話を聞いたのだ。彼女は勇敢で優しい人だったと。
俺はその日、近衛兵として城にいた。城下の異変にはすぐに気づいた。彼女を心配して駆けつけようとした。しかし、上官の指示もあって叶わなかった。
それが今の現状に繋がった。
死んだ者は生き返らない。
自分が彼女に何も出来なかったことが悔しい。
彼女に何かをしてあげただろうか?
彼女は幸せだっただろうか?
彼女はなぜ死ななくてはいけなかったのか。
彼女が死ぬ理由なんてないだろう。
理不尽じゃないか。
ダメだ、彼女を殺したやつを殺さなきゃ。
生きていたかった彼女の恨みを晴らすためにも。
彼女の亡骸の隣で泣き続けた。
「あなたは私の誇りよ」
聞き慣れた声がする。大好きな彼女の声だ。
「私はね、あなたがいるから何でも頑張れるの」
色とりどりの花が咲き乱れる美しい花畑に立つ彼女は、こちらを見ながら話す。
彼女の姿も声も確認できるのに、声を発することができない。自分の手も足も見えない。
「いつも言ってたよね? みんなを笑顔にしたい、みんなが安心して暮らせる国にしたいって」
――そうだよ、俺はそんな国にしたくて兵士に立候補したんだ。
「私もそういう国に住みたいな。そんな国を見たいな」
――でも、でも君はもう……。
「敵が攻めてきたことを知ったとき、私は未来に繋げなきゃいけないって思って孤児院に行ったんだ。こんな非力な私だもの、もっと未来がある子供達を守らなきゃって」
彼女は俺の方へゆっくりと近づいてくる。
「私は守れたかな?」
――守った子がいるよ。あの子はきっと君みたいに優しくなる。
「自分でも、もう死んじゃってることはわかるよ。私は天国にいくのかな? それとも地獄かな?」
――どちらにも行かないで。
「どっちにせよ、私はあなたが心配で待ってたの。あなたは私のことになると夢中になって、何でも無理しちゃうから」
――君が大切なんだ。
「私がいなくなってしまったら、きっとあなたは復讐しようとすると思うの」
――もちろんだ。君のためにも。
「それは私のためでもあなたのためにもならないわ。私はそんなのを望んでなんかいない。あなたは、あなたが目指した国を作って」
――君がいなきゃだめだ。
「私は直接その国を見ることはできないけど、あなたがその国を作って、そして、天寿をまっとうしたとき、その時にお話を聞かせて。またここで会いましょう」
彼女は俺を優しく抱きしめた。
俺は俺の姿を見ることは出来ないが、彼女には見えていたようだ。
彼女のぬくもりが伝わる。とても温かく、優しい気持ちになれた。
「私はここでずっと待ってる。だからあなたは生きて」
俺から離れた彼女は、俺の肩を押した。
すると、谷底へと落ちていく。
最後に見えた彼女の口元が五文字の言葉を紡いだ。
体が落ちていく感覚から、ハッと目を覚ます。
そこは変わらず、彼女の亡骸が目の前にある。
彼女の髪には、花弁が何枚もついていた。
眠ってしまう前には無かった花弁。それを一枚とって俺は彼女の閉じた瞳を撫でた。
夢で彼女に会えたのは偶然だろう。夢の中ならば俺の思い込みかもしれない。だが、花弁が夢が夢でないことを物語っているようだった。
生きることが叶わなかった彼女の分の未来を預かった。
彼女の未来だけじゃない。
今までの仲間の未来も預かっているんだ。
復讐心に駆られ、それを遂げたとしても何も変えることもできないだろう。
俺は生き尽くして、そして彼女に誇ろう。
看取った全ての者達に、その後の未来は明るかったんだと告げよう。
冷たく動かない彼女の手を握り誓った。
夢の中と書いて夢中 夏木 @0_AR
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