其方、我を何と心得る! ~我、邪神ぞ? 邪神ぞ??~
狗須木
最高の目覚め
吾輩は邪神だ。名前はまだ無い。
いや、あったわ。コイツコイツ、この体の名前が我の名前。
よっしゃあ! 名前、ゲットだぜ!
なんと幸先の良い出だしだろうか!
神に名は無い。
名を得てこそ神として一柱前である。
というわけで、我が名はデニス・ミシリエである。
どこにでもいる普通の邪神だ。
今日は晴れて人間の体を手に入れることができた記念すべき日だ。
「カァーッ! シャバの空気はうンめェなぁーッ!!」
周囲は心地好い闇に覆われている。
この世界の神の力が及んでいない証拠だ。
周囲は静まり返っている。
見渡してみても、人っ子一人いな…………あ、目の前にいたわ。まあいいや。
最高だ。最高の目覚めだ。
今世紀最高の目覚めだ。今世紀に目覚めたのこれが初めてだけど。
前回、この世界の神に敗北し、屈辱の封印を施されてから三百年が経った。
その期間の記憶は一切無い。
が、ここ十年ほどは封印が弱まったおかげか曖昧ながらも意識があった。
特に最近は世情をベラベラ話す変なヤツが封印された場所のすぐ近くにいたおかげで現世の知識もある。
いける! 今度こそいけるぞ!
今度こそ、我は――――この世界を、手に入れる!
「おい、そこの人間」
そのためには手足となる者が必要だ。
下々を従えるのは上に立つ者の定めである。
「我の下僕となれ」
「…………は?」
「我が名はデニス! この世界の神に仇為す邪神である! 我が下僕となりこの世界を支配す――――ッて、ちょ、待って! 痛っ! やめて! 殴らないで! 蹴るのもダメッ! 話は最後まで聞――――ッちょ! 痛いってばッ! やだこの子話聞いてくれない怖い助けてッ! 誰かッ! 誰か助けてええええええええッ!!」
この後めちゃくちゃ泣いた。
「私は神の僕です」
「うむ」
「邪神とは相容れません」
「そこを何とか」
「相容れません」
「ぐぬぬ…………」
この人間、強い。怖い。
いつの間にかベルトで両腕が後ろ手に縛られ、地面に放り投げられていた。
しかし、それでも、後には引けない。
吾輩は邪神である。
いつかこの世界を手に入れるのだ。
その野望を前にして、このようなところで挫折などしていられない。
――――負けられない戦いが、ここにある。
「だいたい、ここを何処だと思っているんですか。跡地とはいえ、神殿があった場所……神に最も近かった場所です。そこで邪神を名乗るなど……」
「ほう…………我がこの世界の神となった暁には別の場所に神殿を建てよ」
「建てません。そして貴方が神になることはありません」
「む…………其方、気に入った。我が下僕となれ」
「なりません」
「…………其方の願いを、何でも一つ、叶えよう…………どう?」
「なりません」
「ならば三つ」
「なりません」
「なんと強欲な…………ならば、好きなだけ叶えよう…………ね?」
「なりません」
強情なヤツだ。
だが、それがいい。
容易く進まぬからこその世界征服。
必ずやこの人間諸共、全てを手に入れてみせる。
吾輩は寛大なる邪神である。
この世界の神には仇為すが、他の罪無き命を奪いはせぬ。
この世界に恨みは無いのだ。
全て受け入れてみせよう。
「ならば、我を其方の家まで連れていけ」
「…………さようなら」
「え? え、待って。置いてかないで。ほら、我、腕、縛られてるんだけど。えっ、無視? 嘘でしょ。動けないんだけど。ねー! 待ってー! 我、動けなーい! 解いてー! これ、解いてよー! ねー! 待ってってばー! え、ほんとに待って! お願い! 置いていかないでッ! ごめんなさいッ! 謝るからッ!! 謝るからせめてコレだけでも解いてください!! お願いしますッ!! お願いだからッ!! ねええええええ!! 戻ってきてえええええええええええッ!!」
戻ってきてくれなかった。
泣いた。
しかし、受肉したばかりで疲れていたので、とりあえず寝ることにした。
休息は大事である。
そして、目が覚めると、そこは――――牢屋でした。
「目が覚めたか」
「ククク、我を閉じ込めるとは…………其方、やるな」
「文官デニス・ミシリエ。昨夜は随分と錯乱していたようだな。今もまだ正気ではなさそうだが…………何してたか、覚えてるか」
「無論」
「まったく、通報を受けて駆け付けた時は驚いたぞ。心臓に悪い眠り方しやがって…………とりあえず、移動するぞ。ほら、出ろ」
「どこへ行く」
「医務室。今日は仕事休んでいいから、頭の検査してもらえ」
なかなかの手応えだ。
これは…………この世界を手に入れるのも、遠くないかもしれない。
前回、この世界に降り立った時は、邪神と名乗った瞬間にボッコボコにされた。
この世界の神の力が十分に強かったのもあるが……文字通り、一瞬で封印された。
だというのに、今回は実に順調だ。
一晩明けたが、今だ自由の身。
既に二人もの人間と会話した。
実質、我が信者を二人確保したようなもの。
最高だ。実に最高の目覚めだ。
我が邪なる神生において最良の目覚めだ。二回しか目覚めてないけど。
「其方、名を何と言う」
「俺? ジェレミー。んじゃ、ここ医務室な」
「ジェレミー。其方を我が下僕と認めよう」
「はいはい、じゃあな」
「……え? あ、うん……」
リアクションが薄すぎてビビった。
まだ、話、終わってなかったんだが…………。
とにかく、この、医務室とやらに入るとしよう。
ここに新たな下僕がいるのだ。
三人目の、下僕。
ひとつ、深呼吸をして――――扉を、蹴破るッ!
「フハハハハ! 人間、頭が高いぞッ! 其方、我を何と心得る!」
「ああ、デニス・ミシリエ殿ですな。どうぞ、こちらの席におかけなさってください」
「む? うむ。苦しゅうない」
「では、まずは簡単に問診をいたしましょうか」
「ククク、よかろう。我は気分が良い。何なりと聞くがいい」
「ご気分はいかがですかな? 頭痛、吐き気などございませんかな」
「無い」
「少々、お手を拝借しても?」
「構わぬ」
「その間、熱を測りましょうか。これを口に」
「むぐ」
どうやらこの人間、敬虔な信徒のようだ。
今までの二人と違い、吾輩を隅から隅まで知ろうというその態度……気に入った。
臣下として重用するのも吝かではない。
「はい、結構です。最近、何かお悩みでも?」
「ふ、くくく、悩み? 我が、何かを悩むように見えるか?」
「そうですねえ…………邪神、だとか」
「然り! 我は邪神である!」
「いつからそのように?」
「いつから、だと? く、くくく、クハッハハハ! 愚問! 我は元より邪神よ! しかし、そうだな。そこまで言うのならば聞かせてやろうではないか。さあ、人間よ、清聴し、刮目せよッ! 我が声を、我が姿を、そして我がここに至るまでを、後世へと語り継ぐがいいッ!!」
この後めちゃくちゃ話した。
とはいえ、受肉後間もないため、本調子ではない。
活動を続けるには体への負担が大きい。
しばらく休息することとした。
が、安眠は突如として破られる。
「デニス?」
「にゅ…………貴様、我が眠りを妨げるとは…………」
「ふふ、何ソレ。でも元気そうでよかった。僕のこと、分かる?」
「…………人間」
「ふッ……う、うん、そうだけど……ッ! く、ふ……ッ!」
「…………其方、我を何と心得る。我は邪神ぞ?」
「うん、うん、そうだね。うん……僕は、勇者だよ、うん……ふふっ」
「勇者……だと……?」
「そうだよ。ほら」
勇者を名乗る人間の手に聖剣が現れる。
なるほど、本物らしい。
本物の勇者が、直々に、我の元を訪れるとは…………ッ!
最高だッ! 最高すぎる目覚めだッ!!
もはや成功は約束されているッ!!
歓喜に打ち震えていると、勇者が聖剣を我が額にブッ刺した。
「…………何をする」
「あー、いや、邪神なら、これで倒せるかなー、って」
「聖剣など効くはずがなかろう。我は邪神ぞ」
「そっかあ、うーん、そっかあ……」
「まあ、よい。勇者よ」
「うん?」
「我がこの世界を支配する。まずは手始めに魔物を滅ぼすぞ。手を貸せ」
そして、この世界の崩壊を止めぬ愚かな神を、その座から引きずり下ろすのだ。
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