第35話 占いはやめろ

『応援を待つ』ということは、遅かれはやかれマクミラン領に害をなそうとするものがやってくるわけで……


 果たしてそれは具体的にいつなのかとか、何人くらいなのかとか、どうった理由でやってくるのかとかを私は集中して会話を拾おうとする。


 マクミラン公爵家に滞在しているのだから誰に何を聞かれるかわからない状況だからだろう。

 肝心の知りたいことは一向に浮かび上がってこない。



 ぶっ倒れたのだから、こんな状況で加護を長時間使うのはよろしくないとわかっているのに少しでも有利に動くための材料が欲しくて、私は加護を使うのがやめられなかった。


 つーーーっと額に汗が流れたそのとき。

 そっと頬がぬぐわれて、ハッとした。



 部屋にいるのは私一人ではないことを。

 加護を使うのをやめると、私はベッドにへたり込んだ。



 一体どれほどの時間集中していたのだろう。

 それもノアが隣にいることを忘れるなんてことある?

 気が付けば息はあがり、私が思っていたよりもずっと体に負荷がかかっていたことを今更実感する。

 私まだおかしい……

 ノアは私の背を優しくなでると、ベッドのわきのグラスに水差しから水をそそぐとそれを私に差し出した。



「飲めるか?」

 差し出されたグラスを受け取り喉を通る水が心地いい。

 全てを飲み干して私は一息ついた。



 知らなければいけないことだらけだというのに、いつもとは明らかに違う体の不調が恨めしい、流石にこれ以上加護を使うことは危険だ。

 グラスを置こうとしてまたも体がふらついたのをノアが支えベッドに横にさせてくれる。

「ティア、聞いているか? おい?」

「えぇ」



「何をしているかまでわからないけれど。その何かをしようとしているのが今のティアにとって害になっていると思う。やめたほうがいい」

 ノアの言いたいことはわかる。

 ただ、今が無理をしてでも通すべき有事なのではとどうしても思ってしまってノアがたしなめたことについて私は黙り込んでしまった。



「私は信用できないかい?」

 私の横に転がり頬杖をついて私を見つめながらノアは首をかしげる。

「はい!」

 私はそれに即答した。


「うわ~ここまで潔いといっそすがすがしい。ただ今回は協力し合ったほうがいいと思う。それについてはどう思うかな? ここで私の申し出を拒むほどティアは愚かではないだろ」

 ノアの目が見開かれそういわれるけれど、だって胡散臭いものは胡散臭い。

「はぁ……」

 私は大きなため息をついて、それをみてノアが笑った。



「扉の前に先ほど人がいたことはお気づきですね」

「もちろん。私は優れているからね」

 なんて自己評価高いんだってセリフなのに、そうですねと納得させる能力があるのが憎たらしい。

「今回は私の横にノアがいてくれたから引いてくれたようです」

「寝室に私を迎え入れたかいがあったじゃないか」

です。こんな時間に私の寝室に彼らが足を運んだ理由まではわかりませんが。どうやら応援がくるのを待っているようです」



「ほぉ。それで」

 そういって、ノアは目を細めた。

 じろりじろりとその細められた目でみるとこちらはなんとも言えない気持ちになる。

「その応援とやらで何人くらいがどういった理由でここに来ようとしているのかは不明です。さて、私も手の内をあかしたのですから、後は助けてほしいところなのですが」

「占いの時も思ったが、実に興味深い」

「それ以上詮索するのはなしです」

「面白いことがあれば知りたくなる。それが私の性分だからね。じゃなければ退屈で退屈で死にそうだ」

 今をいろいろ必死に生きてる私には到底言えないようなセリフをノアはなんだかすべてをあきらめたような顔をしていった。

「――すべての種が明かされたら、あなたは私から興味を失うでしょうね」



「ティア……」

 ノアが再び驚いた顔をして私の名をよんだ。

「な、なにか?」

「君でもそういうことを言うんだね」

 HAHAHA、いがーい~とでも言いたげにノアがそういって私はイラっとした。



「よくそんな返しをするような相手と結婚を無理やりしようとしますね。表面的くらいはもう少し取り繕ってください」

「以後気を付けよう。さて……どうやら彼らの狙いは君のようだね。魅了が失敗した後も夜寝室に押しかけるのも、ティアが私に隠している隠し事と関係があるのかな?」

「個人的には、大勢の女性を大々的に袖にしたノアが私を目にとめたからの可能性が高いと思いますが。容姿がパッとしない、領地もうまみはない、なら他に何か特別な何かがあるのではとでも思ったのでしょう」

「特別な何かがやっぱりあるんだね」

 あのやりとりでなんでそうなるの? と私は驚く。



「私はヴィスコッティ家の人間にここに婿に来られたくないから邪魔をしていると思ったよ。魅了についても、リスタンと結婚せずとも私との婚約破棄さえなくなれば、ヴィスコッティ家はここを気にかけないと思うからね」

 私は加護をもってるから、それに敏感になっているだけなのかもしれない。

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