第27話 私は見誤っていた

「変わり者の方だったようです……」

 私が視線をそらしつつそういうと。


 失礼なことに、私よりも母の方が驚いた顔をしたのだった。



 とりあえず私の母はノアが私の加護を知って選んだわけではないということを、加護もちの私が保証したことで納得した。

「ということは、この婚約はヴィスコッティ家が承諾したものでは……?」

 母がおそるおそるといった様子でそういった。

「当然ありません……なので、どうしたらいいと思います?」

 私がそういう。

「二人とも大丈夫ですよ。先ほどから言っていますが父は私の結婚を誰よりもさっさとしろって望んでましたから」

 私たち親子のことなどつゆ知らず、ノアはのんきにそういった。


「「はぁ」」

 思わず母と二人でため息をついてしまった。


 

 加護のことがばれていないなら、これどうやって納得させるの? と母が純粋な目で私をみてきた。

 はて、さて。どうやって納得させたものか……




 状勢的にさっさと婚約してしまってヴィスコッティ家の後ろ盾があると早めに匂わせたほうがいいと思うんだけれど。

 ノアは大丈夫というけれど、絶対に大丈夫じゃないに決まっている。




 その時だ。

「大変でございます」

 セバスがただならぬ様子で走りこんできた。



「いったい何事です。お客様もいらっしゃるというのに」

 母がセバスをいち早くたしなめる。

「もうしわけありません。ですが……あの一大事でございます。マクミランの広場にぞくぞくと転移スクロールで人が」


 1枚がとても高価な転移スクロール。

 公爵家である我が家だって、そうそう使えるものではない。

 だから、転移スクロールをつかった移動なんてめったにあることではないのに、バンバン転移スクロール特有の金の粒が現れているとしたら、それはもう異常事態だ。



「ヴィンセントがばらしたか」

 ノアが舌打ちをしてぼそりとつぶやいた。


「どどど、どうしょう」

 いずれヴィスコッティ公爵とは話をしなければいけないとは思っていたけれど、こんな風にガンガン乗り込まれるだなんてまさに予想外。


 ヴィスコッティ公爵様をはじめとして何人かがマクミラン領入りをした。

 ヴィンセントがノアの婚約者は私だとすでにばらしたとしたら、彼らが目指すところは我が家である。



 すでに母もそのことに気が付いたようで、いち早く立ち上がるとドレスの埃をはらって玄関に向かう。

 私もそのあとを追った。



 すぐに見覚えのある赤毛がみえた。

 ノアの従者ヴィンセントである。

 そしてその後ろに、威圧感を放っているあの人物こそノアの父親であるヴィスコッティ公爵様だ。



 そしてその後ろには十人もの人がいた。

「ノア!!」

 魔力を声に乗せたのだろう。

 空気がビリビリと揺れるほどの声量に私は思わず自身の耳を覆った。



 戦場では魔力で身を守れない者までいちいち相手にしていられないので、こうして初動で止める手として有名な手ではあるものの。

 私はそれを見に受けたのは初めてのことだった。

 声に乗せられた威圧をかねた魔力に私も少なからず魔力を持っている身であるのに体が硬直した。


「少し失礼」

 ノアはそういって私の耳を抑える私の手に自身の手を重ねると、私の身体にかかる圧が薄れ急に体が軽くなる。


「父さん。婚家にこういうことをされては困ります。うちと違って魔力を持たない者もここには大勢いますので」

 私の前に立ちはだかりノアはそういう。

「このバカ息子!!」



「結婚相手をさっさと見つけろといったのは父さんじゃないか。ということで私は婿に行きます」

 どうやってヴィスコッティ公爵様に言えばと悩んでいたことを、一切のオブラートになんか包まずにノアがはっきり言ってしまって。

 もうどうすんだこれ状態で私は立ち尽くしていた。




「結婚をしろとはいったが、婿に行けだなんて一言も言っておらん!」



「ティアは一人娘で私は次男。家督は兄さんが継ぐとおっしゃっていたからちょうどいいじゃないですか」

 ちょっとちょっとちょっと、二人でドンパチやる分には勝手にしてくれればいいんだけれど。


 私を間に挟んだ状態でやるの本当にやめて。


「こいつと話し合いしようとしたのが無駄だった。捕まえろ。最初から手加減など一切するな」

 公爵様がそういうと後ろに控えていた人が明らかに詠唱を始める。

「え?」


 ちょっと、まずいんじゃない? 

 私ここにいるんだけれどと私の耳を抑えているノアをみたら、ものすごくめんどそうな顔をしていた。

 一度めんどそうに眼を細めた後、ノアはじっと何をするわけでもなく前を見据えた。


「ちょっとちょっと」

「黙って」

 そのとき目の前から大きな氷塊が飛んできた。



 嘘でしょ!?

 もっと驚いたのはその後のことだった。


 ノアが右手を差し出すと、その氷塊が細かく砕け散ったのだ。


「は!?」

 意味が解らない。

 あっけなく、本当にあっけなく氷の塊が細かく割れた。



「そっちがその気ならこっちもやり返します」

 にこやかに一言いうと、途端に顔に熱波が襲い。

 火球がいくつも公爵様に向かって飛んでいく。



 飛んで行った火球は先ほど私の目の前でノアがしたように、公爵様の後ろに控えていた人が3人ばかしでてきて打ち消した。



 我が家の敷地内でとんでもないことが起こっている。

 公爵様がカンカンに怒る理由を私はこのわずかなやりとりで理解した。


 奇人と呼ばれているけれども、彼の実力は本物で。

 私が思ったよりもずっとずっと魔法に優れた天才なのだと。

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