第9話 勘違い

 その後、ノアと従者の言葉がいくつも浮かび上がり、私の目に彼らの言葉の真意を見せる。


 ウソ



 ウソ



 ウソ


 すがすがしいほど、お世辞は嘘だらけだ。

 まぁ、こういうのは慣れっこだけれど。



 ようやく、メイドがそろったようで遅ればせながらお茶の準備が行われてほっとする。

 お茶がでてくれば、とりあえず間が持たない時はお茶を飲めばいいのだ。

「ところで、そろそろお二人がなぜマクミランに来られたかうかがってもかまいませんか?」

 やんわりと私は理由を聞きだす。

 ちらりとセバスに目配せをすると、セバスがこくりとうなずく。

「えぇ、それは……」

 ノアはそういって飲んでいるカップをテーブルにおいて話をしようとしたその時だった。

 部屋の扉が開けられたのだ。



 えっ、メイドはこの場にはこれ以上必要ないし何事? と思っているとそこにいたのは息を切らせた私の父だった。

「娘に来客だというから急いで帰ってきたのだが、君だったか。噂はいろいろきいているよ。ノア君」

 父はなれなれしくノアを君ずけで呼ぶ。

 どういうこと? ノアの訪問は私の占い師とは全く関係がないの? 父がらみなの? さっぱりわからなくて私は不思議な顔になる。

 ノアと従者のほうをみると、そっちも不思議そうな顔をしていた。

 あっ、これダメなやつ……私の父が一人空回りしてるいつものパータンじゃないかなってほんのり思った。

「これはマクミラン公爵様、このように改まってご挨拶するのは……」

 ノアが立ち上がり、目上である私の父に挨拶をしようとした。

「いやいや、そんな堅いことはいいからいいから。ティア。お父さんの言ったとおりだろう」

 立ち上がろうとするのノアの肩を押さえて父はノアを椅子に座らせる。

 そして私に向き直るを父は親指をグッと立てた。

「ん?」

 父の言いたいことがさっぱりわからず私は首をかしげた。


 こういう時はとりあえず加護だ。

 まぁ、私の父がこの場で嘘をつくとは思えないけれど。

「だから、釣書だよ。父さん、ちゃーーーんと、もうずいぶんと前になるけれどヴィスコッティ家の次男がお前と年頃が変わらないと聞いて、なんとか暇な時にでも釣書に目を通してくれって渡したんだよ」

 父の文字が浮かび上がり、ホントホントホントが並ぶ。

 私は2回もでてきた釣書という言葉で父が言いたいことを理解した。


 父はノアが私の釣書をみた結果、婚約ひいては結婚のお話を前向きにお受けする返事をするために、はるばるこんな僻地まで従者をつれてやってきたと思っているのだ。


 いやいやいや、マクミラン領は山岳だらけでめぼしい産業ないし、それだけではなく、高魔力もちの魔術師もここ十数代とーんと産まれてない。

 私はたまたま魔力量はあったけれど、制御するような繊細なことにはちっともむかず才能の片鱗はまったくない。

 たぶん、もう家から優れた魔導師とかはでることはないと思うと言えちゃうくらいだ。


 一方、ノアの家であるヴィスコッティ家は領地も王都に近く、何人もの高魔力もちを代替わりする度に排出するような名家だ。

 しかも画期的なスクロールという魔法を使うことのできない人でも購入すれば魔法を使えるアイテムを数世代前に生み出したことで、その売り上げだけでどれほどの金銭を得るのかすら計り知れない。



 うちにもセバスチャンが変化の魔法の優秀な使い手としているが、あれはたまたま家の祖父がスーパーファインプレーでセバスに恩をきせることができたから家に仕えてくれているだけだ。


 同じ公爵家というくくりではあるが、ヴィスコッティ家が次男坊とはいえ高魔力らしいノアを婿にやってまで、マクミラン領と仲良くしたいなどと思うようなメリットは何一つない。

 家同士のことだけではない、ノア自身もわざわざ私の家を選んで婿にくるメリットがひとーーーつもないことが、いくら僻地の令嬢でもうちにも鏡があるからわかる。

 私の釣書と写真をみて彼がよし、婿に入ってでもティアと結婚したいなんて思わないことがね……

「いや、あのお父様……訪問理由はいろいろありますし。そんな話をしにきた雰囲気ではないかと……」

「ティア、お前に足りないのは自信だ。なっ、ノア君」

 父いい加減黙れって思うけれど、父はノアのほうを振り返ってきっとめちゃくちゃいい笑顔を浮かべているに違いない。



 告白もしてもないのに、振られるというつらいことがこれから起こるとわかって、私は身体を小さくして下を向いて、ハッキリ父におっしゃってくださいと右手を差し出しノアにさっさと、誤解ですと言えと促した。

 ノアは私の合図をみて、何かを言おうとしているが、こりゃいい婿きちゃったぞ! とテンションがあがった饒舌な父の一方的なトークに言葉をはさめない。



「いや、君の噂はパーティーに出るたびにいろいろ聞いたもんだ。物ごとを面白いかつまらないかで決める奇人だとか。山のような釣書には目の一つも通さない男色家だの。社交界では女をとっかえひっかえして、社交界の花を次々と摘み取っているだの。いや、散々な噂ばかりだったが……それは皆やっぱり噂だったんだな」

 父の口からこぼれ落ちるのは、もうご本人を前にした完全に悪口である。

 ノアの後ろに控えていた従者ヴィンセントに至っては、途中で口もとを押さえて下を向いてしまっているし。

 ノアはというと、とってもいい笑顔を父に向けたまま、さきほどから微動だにしていない。

 私はというと、父の後ろから、家の父が大変失礼なことをしてしまい申し訳ありませんの気持ちで両手を合わせていた。

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