こじらせオタ女の吉夢

ユラカモマ

こじらせオタ女の吉夢

 ふと気が付くとそこはゾンビと人の戦う異世界だった。しかも他の人は罹患りかんしてすぐゾンビになるやつにかかってるのに私だけ遅効性でゆっくりじんわり変わっていくのにかかっている。

(なぜに!!)

 そしてそれを理解してすぐに気付いた。これは明らかに現実離れしている。しかも来た瞬間から色々理解でき過ぎている。つまりこれはよく見かける異世界トリップではなく、ただの夢だと。

(ええ...ホラー苦手なんやけど。)

 私はホラーは怖くて見れない派だ。ついでにゾンビとかスプラッタとかも苦手だ。なぜにこんな世界観の夢を見るはめになっているのか。そこに関してはてんでわからないまま一見いつもと変わらない平和な日常が流れるように過ぎていく。でもやっぱり異世界(の夢)はそんな平和な日常を許してはくれない。

「じゃあ行ってきまーす。」

「いってらっしゃい。」

 家を出て駅に向かっているときだった。

「ヴおおおお!」

「ぎゃあああ!」

 腹の底から大声が出た。半分腐ってでろでろになったゾンビ二体に行く手を阻まれたのだ。そいつらは大人の男のゾンビのようで自分よりも二回りは大きい。

(どいてよ! 遅刻しちゃうじゃない!)

 それどころではない状況だがさすが夢、思考回路がおかしくなっている。ちなみにゾンビと戦っている世界線のはずなのに一般ピープルに武器の所持はなし。なぜに。

 しかし幸い救援が駆けつけてきた。

「大丈夫ですか?! ここは任せて逃げなさい!」

 それは白馬に乗った王子様、ではないがむしろそれより光輝く推しであった。

(なぜに!?!?)

 ばりばりの王子様キャラが西洋の騎士みたいな剣を持ってゾンビを斬り倒していく。確かにキラキラだけでなくいざというときは頼りになるところは彼の大きな魅力だが...

(彼ゾンビとか出てくる世界の住人じゃないよ!?)

 そこだけ許せない。なぜ彼に向き合っているのは私ではなくゾンビなのか。だがしかし、ゾンビは怖い。しかもせっかく助けてくれたのに足手まといになって嫌われるとか絶対やだ。私は全力でその場から逃げ出した。そしてこんな目に合っているが私もゾンビ予備軍なのだ。ゾンビ予備軍、デメリットしかない。


 日は過ぎた。ついに人類はゾンビとの決着をつける準備が整ったのだ。そして私の体もどんどんおかしくなっていっていた。傷が勝手に増えていって治る気配がまるでない。

(そろそろゾンビになっちゃうのかなー。)

 私は諦めの境地でこそっと部屋の隅の隙間に隠れて戦況をうかがっていた。今回は一般ピーポーも武器携帯済みだ。お母さんも友達も先輩も武器を片手にゾンビをなぎ倒していく。人類強い。

(ゾンビになるのはしゃーないとしてもあの人たちとは戦いたくないな。)

 そう思ってため息をついたとき、私は頭やばい高飛車女に捕まってしまった。彼女は黒いマントを被りさながらおとぎ話の魔女のような風体をしていた。そして私を腕を縛って吊るしてほにゃららの儀式の生け贄に! とわけの分からないことを言っている。でも正直そんな声はほぼ頭に入ってこなかった。だってその女の横にはさっき私を助けてくれた推しがキラキラとした御姿で立っていたのだ。そして彼は申し訳なさそうな顔で剣を抜き私に向かって振りかぶる。

(おおっ...そういう感じ? まあ、これならこれで悪くはないか...。)

 ずばっと容赦のない剣が私の肩から斜めに入る。ぼやけていく意識の中で女の慌てる気配がした。ゾンビ予備軍なんか使うからそうなるんだよと嗤って私の意識は闇に落ちた。


(まあ、夢だから目覚めるだけだけどね!!)

 ぱちっと目を開くとそこは自分の部屋。カーテンの隙間からは光が入ってきているが今日は日曜なので慌てる必要はない。...にも関わらず胸はドキドキと早鐘を打っている。幸せなときめきの方で。

(え? まさかあの夢のせい? 私殺されちゃったんだけど...まさか私、ああいうシチュもいけちゃうの?!)

 推しにられて目覚めたらなんか目覚めてた。うええ~、と変なうめき声をあげた私が気持ち悪いと妹にはたかれるまであと一分。

 



殺される夢ー転じて生まれ変わるを意味し願いが叶うといわれる吉夢である

 

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こじらせオタ女の吉夢 ユラカモマ @yura8812

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