風船の夢を観たツキノワグマが冬籠りから目覚めたら・・・

アほリ

風船の夢を観たツキノワグマが冬籠りから目覚めたら・・・

 ぐぅ~~~~~~~~~~~~~~・・・


 ぐぅ~~~~~~~~~~~~~~・・・


 ぐぅ~~~~~~~~~~~~~~・・・


 ぐぅ~~~~~~~~~~~~~~・・・



 

 図体の逞しいツキノワグマのプシェは巣穴の中、ぐっすりと冬籠りをしていた。


 豪雪が降りしきる厳冬の外。春はまだ遠く。

 ツキノワグマのプシェは鼻をモフモフのお腹にあてがって熱いケモノの吐息のエアコンで身体を温めながら、快適にしばしの長い夢の中を過ごしていた。



 ・・・・・・



 ぷぅ~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~!!



 ツキノワグマのプシェは鼻から吐き出す熱い吐息の延長線なのか、


 赤いゴム風船の吹き口を口にくわえ頬っぺたをめいっぱい孕ませて、思いっきり息を吹き込んで大きく、大きく、大きく、大きく膨らませていた。



 ぷぅ~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~!!




 ツキノワグマのプシェは、一息、一息、息を吹き込んでゴム風船を大きく、大きくしていく旅に、喜びと興奮までも大きく大きくまるで風船のように膨らんでいった。




 ぷぅ~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~!!



 ツキノワグマのプシェの膨らせている赤い風船はやがて、ネックの部分まで膨らみまるで洋梨状にパンパンに大きく大きくなった。


 「この位膨らめばいいかな・・・」


 ツキノワグマのプシェは、赤い風船の吹き口を爪で掴んで上に向けるとそっと放した。



 ぷしゅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!ぶおおおおおおおおおおおお~~~~~~~~~~~~~~!!!しゅるしゅるしゆるしゅるしゅるしゆるしゅるしゅるしゆる!!!



 ツキノワグマのプシェの放った赤い風船は、吹き口からゴムの弾力でツキノワグマのプシェの吐息を吹き出しながら、一面の大きな風船や小さな風船、いろんな形の風船が敷き詰められた『ゴム風船の世界』を飛び回り、ヘナヘナとしおしおになって萎んでツキノワグマのプシェのマズルの上に堕ちてきた。


 「こんなにゴムが伸びちゃった。」


 ツキノワグマのプシェは、爪でマズルから萎んだ風船を摘み取ると、艶光する茶色い鼻に宛がってクンカクンカの匂いを嗅いで、うっとりと目を閉じた。


 「いつか、山野を親兄弟と散歩したとき、一面の花畑で嗅いだ美しい鼻の匂い・・・」


 ツキノワグマのプシェは、ふと親兄弟の事を思い出していた・・・


 

 ・・・・・・



 ツキノワグマのプシェは、みなし児クマだった。


 仔熊時代に、親兄弟をハンターに撃ち殺されたのだ、


 「何で、俺の母ちゃんと弟が人間に殺されなきゃいけないんだ!!

 俺たちが何か悪いことでもしたんか?!」


 ツキノワグマのプシェと親兄弟は、ただたまたま人里を通り過ぎていただけだった。


 何も人間に危害は加えることもしていないのに、人間のハンターはツキノワグマのプシェと親兄弟に銃を向けたのだ。


 親兄弟がプシェを庇った隙に、とっさに逃げ延びた事への虚しさを募らせながら、この親グマの忘れ形見であるこの巣穴で独りで過ごして居たのだ。

 

 

 ・・・・・・・



 「母ちゃん・・・ヨシェ・・・」


 

 ほぉ~~~~~~~~・・・



 「ん?」


 いっぱいの風船の山の中から、優しく息を吹く音が聞こえてきた。



 ほぉ~~~~~~~~~~~~・・・


 ほぉ~~~~~~~~~~~~・・・



 その伸びやかな吐息の響きと共に、ムックリと巨大な風船がどんどんどんどん膨らんでいくのをツキノワグマのプシェは、見て驚いた。


 「母ちゃん!!」



 ほぉ~~~~~~~~~~~・・・


 ほぉ~~~~~~~~~~~・・・



 プシェの母グマが風船の山から掻き分けきて、巨大な風船を口で膨らませながらノッシノッシとやって来たのだ。



 ほぉ~~~~~~~~~・・・


 ほぉ~~~~~~~~~・・・


 ほぉ~~~~~~~~~・・・


 ほぉ~~~~~~~~~・・・



 「母ちゃん!!」


 ツキノワグマのプシェは、思わず叫んだ。


 「プシェ!プシェだわ!!プシェ!!本当に生きててよかったわぁ!!」



 ぶぉぉぉぉーーーーーーーー!!ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!!



 「あらやだ!!あたしがプシェの為に一生懸命膨らませた風船が!!」


 母グマは、プシェに逢えた事に夢中になって思わず口から吹き口を離してしまい、萎んでいく巨大風船を慌てて吹き口を抑えようとしたとたん・・・



 ぱぁーーーーーん!!



 ツキノワグマのプシェは、母グマが膨らませていた巨大風船を鋭い爪で慌てて押してしまいパンクしてしまった。


 「ごめんねー!私、ドジで~。」


 母グマは割れた巨大風船を懐に仕舞った。


 「母ちゃーーーん!!」



 ドドドドドドドドドドドドドド!!



 ブシェは、感極まって照れ臭く恥じらう母グマの懐に駆け寄って抱き締めようと駆け寄ろうとした。



 ぷぅ~~~~~~~~~!!



 「ごふっ!!」



 ごつん!!



 突然、弟グマが風船を膨らませてながら立ち塞がり、思わず激突してしまった。


 

 ぷぅ~~~~~~~~~~!!



 弟グマのヨシェは、ムックリと起き上がると尚も青い風船を膨らませてながらズンズンズンズンと迫ってきた。


 「ヨシェ・・・ごめんね、ヨシェ・・・俺だけ逃げて怒ってた?!」


 「ううん?そんなこと無いよ!!」


 俺グマのヨシェは口から風船の吹き口を離してニヤリとてこう言うと、また青い風船を膨らませながらズンズンズンズンと迫ってきた。


 

 ぷぅ~~~~~~~~~!!



 ズンズンズンズン・・・



 「そうだ!!」


 プシェの手元に、オレンジ色の風船があったのだ。


 ツキノワグマのプシェは、オレンジ色の風船の吹き口を爪でほどくと、口にくわえて更に息を吹き込みながら逆にズンズンズンズンと押し戻した。



 ぷぅ~~~~~~~~!!



 ズンズンズンズン!!




 ぷぅ~~~~~~~~!!



 ズンズンズンズン!!



 ぷぅ~~~~~~~~!!



 ズンズンズンズン!!




 ぷぅ~~~~~~~~!!



 ズンズンズンズン!!



 ぱぁーーーーーん!!


 ぱぁーーーーーん!!



 ごつん!!


 ごつん!!



 「いてっ!!」


 「いてっ!!」



 お互いの風船が割れたとたん、プシェとヨシェはお互い頭をごっつんこ!!とぶつけてしまった。


 「ぷーーーっ!ぷ・・・ぷぷぷ・・・」


 「くーーーっ!く・・・くくく・・・」


 「ぎゃははははは!!」


 「がっははははは!!」


 プシェとヨシェのツキノワグマ兄弟は、沢山の風船の山の中を走り抜け、沢山の風船を弾き、沢山の風船の集まる中でじゃれあい、おどけて、はしゃぎまくった。




 ほぉ~~~~~~~~~~・・・


 ほぉ~~~~~~~~~~・・・


 ほぉ~~~~~~~~~~・・・


 ほぉ~~~~~~~~~~・・・




 「坊や達!!私が膨らませたでっかい風船!!いくわよ!!」



 ぽーーーーーん!!



 母グマは、大きく膨らませた巨大風船を手の甲でキャッ!キャッ!とはしゃぐクマ兄弟のもとへ弾いた。



 「わーーーーい!母ちゃんが膨らませたでっかい風船だ!!」

 

 「母ちゃんの風船!!母ちゃんの風船!!」


 忽ち、プシェとヨシェのクマ兄弟は、母グマと一緒に巨大風船でバレーボール遊びが始り、お互い歓声をあげて母グマの巨大風船を突いて遊んだ。


 それからも、母グマと弟グマのヨシェとの風船遊びは続いた。


 風船を膨らませたり、


 風船を飛ばしたり、


 風船を突いたり、


 風船を萎ませたり、


 風船を割ったり・・・



 この夢のような時間は、永遠に続くと思っていた。


 永遠に・・・


 永遠に・・・


 永遠に・・・



 やがて、巣穴の外が段々春めいてきた頃・・・



 「プシェ、プシェ、」


 ツキノワグマのプシェが振り向くと、


 母グマは、赤い風船を。


 弟のヨシェは、オレンジ色の風船を。


 其々爪できつく結んだ吹き口を摘まんで持って、片手の爪を風船の表面に突き立てて立っていた。


 「私達、夢の中で何時でも遇えるよ。何時でもプシェと一緒だよ・・・!!」



 ぷすっ!ぷすっ!



 ぱぁーーーーーん!!ぱぁーーーーーん!!



 ・・・・・・



 「はうわ!!」


 ツキノワグマのプシェは、仰向けになって膨らませていた鼻提灯が大きく膨らんだとたんにパンクした瞬間、目を覚ました。


 「母ちゃん・・・ヨシェ・・・」


 冬眠から目覚めたツキノワグマのプシェは、眠そうな目をしょぼつかせて辺りを見渡した。


 「そうなんだ・・・もう今は母ちゃんもヨシェも・・・居ないん・・・ん?!」


 優しい春風が、巣穴の中まで吹き込んできたその時、巣穴の入り口からの木漏れ日に照らされた2つの割れた風船を見付けた。


 「この風船・・・まさか・・・?!」


 ツキノワグマのプシェは、目を疑って巣穴の入り口へ這い寄った。


 「この割れた風船は・・・!俺が冬眠から覚める直前に・・・!母ちゃんが・・・!!弟のヨシェが割った風船だ・・・!!」


 感激したツキノワグマのプシェは、その割れた風船を拾い上げると、きつく結ばれた吹き口の匂いをクンカクンカと嗅いだ。


 「母ちゃんとヨシェの匂いだ!!」


 その瞬間、ツキノワグマのプシェの目から大粒の嬉し涙が溢れた。


 「本当に・・・俺は・・・母ちゃんとヨシェに逢ったんだ・・・!!

 冬眠の中の夢ではなくて・・・本当に俺は・・・!!」


 ツキノワグマのプシェは、その2個の割れた風船をギュッと抱き締めると、巣穴の奥に割れた風船を置くとこう言い聞かせた。


 「奇跡は、起こる。奇跡は、思えば起こる。

 母ちゃんがよく言ってたね・・・

 これから、何時でも一緒だよ。

 ここで見て守ってて!母ちゃんとヨシェ!!」

 ツキノワグマのプシェは巣穴から這い出ると深く息を吸い込み、プシェ自身が風船になった気分で春の森の中へノッシノッシと歩いていった。




 ~風船の夢を観たツキノワグマが冬籠りから目覚めたら・・・~


 ~fin~



 


 










 


 

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風船の夢を観たツキノワグマが冬籠りから目覚めたら・・・ アほリ @ahori1970

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