最高の目覚め

山本航

最高の目覚め

「お早うございます。ユウキ君」

「どうして君が僕のベッドの中に?」

「好きだからです」

「動機じゃなくて」

 朝、目が覚めると隣の家に住む幼馴染、一つ年上の高校生ミユキが幸せそうに微笑みを浮かべてベッドの中にいた。

「好きだと言ってくれるのは嬉しいし、申し訳ないけど、あと何度も伝えているとは思うけど。僕、君と付き合うつもりはないんだよ」

「話を逸らさないでください!」

「真正面から話してたと思う。とりあえずベッドから出てくれない?」

「全裸の子を寒空に!?」

「そこまで要求してないし何で全裸なんだよ」

「好きだからです」

「動機じゃなくて」

 僕が後ろを向いている間にミユキにベッドから出てもらい、適当な服を着てもらうことにする。

「もういいよ」と楽し気にミユキは言った。

 そう言われて僕もベッドを出る。ミユキはどういうわけか学生服を着ている。

「それ、これから僕が着ないといけないんだけど」

「そうなんじゃないかと思いました」

「じゃあただの嫌がらせだ」

「代わりに私のを着てもいいですよ」

「パジャマで隣の家に制服を借りに行けと? というか今気づいたけど全裸で隣の家にやってきたのか君は」

 ミユキが僕のことを好きであることはとても嬉しいし、古くからの幼馴染以外に誰かが僕を好きになってくれるあてはない。にもかかわらず、どうしてこうも僕はミユキを拒否するのかというと、僕の方が一度ふられたことがあるからだ。

 その後、僕のことを好きになってくれたミユキの変わりようを喜ぶことは出来なかった。僕の中で何かが変わってしまったらしい。あるいは変わらなかったと言った方が正確かもしれない。

 ミユキは朝食を作ってくれていた。まるで甲斐甲斐しいパートナーだ。どれを食べてもとても美味しい。ミユキはものぐさな僕と違って昔から家事を手伝う良い子だったから、こうして得意になったのだろう。

「とても美味しいよ。ありがとう」と僕は素直に感謝する。

「どっちに対する美味しいですか?」

 そう言ってミユキは恥ずかしそうに胸を隠すように抑える。

「朝から下ネタかました覚えはないし、いただいた覚えもないよ。朝食を美味しいって言ったの」

 僕は黄金色の卵焼きを次々に口に放り込む。たかが卵焼きと侮ることは出来ない。まともにスクランブルエッグも作れない僕からすれば魔法の腕だ。

「良かったです。まあ、大したものではありませんが、末端価格100グラム30円で取引される卵で作った卵焼きは美味しいですか?」

「途端に不穏な食卓になっちゃったね。普通に美味しいから妙なこと言わないでよ」

「あと、そのお味噌汁は……。あ、言わない方が良いのかな」

「うん、いや、うん、言わなくていいや。怖いから」

「隠し味に、あ、いや」

「小出しにしないで」

 朝の身支度をほぼ全て終え、後は着替えだけだ。ミユキは一人、玄関で靴を履いていた。

「え? マジで交換するの?」

「今日だけ! 今日だけで良いですから!」

「いや、何のために?」

「好きだからです」とミユキは言った。

「別にいいけどさ」と僕は言った。

 いつの頃からかミユキは目覚めてしまった。

 逆に僕は、ミユキの前では今でも僕なんて言っちゃってるけど、ただの女の子でしかなかった。

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