師匠

第14話

「何か言う事はあるかい?」

「俺は悪くねぇ!ぐぇ!」


 小さなボディから繰り出されるノーモーション突進。

 ナビィから容赦ない鉄槌が下されて影人は呻き声を上げる。


「実際悪くないだろ?今回の件は正真正銘被害者だ」


 今回の件は影人はただ偶然巻き込まれたに過ぎない。

 その点で言えば確かに影人は悪くないだろう。


 だが、ナビィが怒ってる点とは少しだけズレている。


「ボクが怒ってるのは巻き込まれた後の対応だよ。どうして救援を呼ばなかったのさ」

「救援?あの状況じゃ無理だろ。密室だし、外に声なんて届きそうも無かった」

「何のためにスマホを渡したのか考えてよ!!起動画面の緊急救援要請の文字が見えないのかな!?」


 言われて影人はナビィから貰ったスマホを確認する。

 普通のスマホなら緊急通報と書いてあるべき場所に緊急救援要請の文字があった。


 何度も見てるのに気が付かなかったアホの極みである。


「申し訳ありませんでした」

「よろしい」


 ちなみにこの緊急救援要請を使用するとマジポが消費されるらしく、相手の危険度に応じて救援者にマジポが与えられる仕組みらしい。

 なお、借金になる場合もある。

 意図せずに巻き込まれた場合はナビィに相談すれば減額も受け付けてくれるようだ。


 今回の場合は影人は完全に意図せずに巻き込まれた形になるので消費マジポは少なくて済む。


「今日はこのくらいで勘弁してあげるよ。ところで……モンキートレインをどうやって倒したのさ。もしかして、覚醒してセカンドフォームになっちゃった?」


 若干の期待が籠もったナビィの視線を受けて、影人は視線を横にズラして言い難そうに答える。


「……普通に倒した」

「……え?じゃあ、凄い魔法を覚えたとか?視界に写る物全部凍らせる様な」

「何その終盤奥義……ただ、普通に戦って普通に勝った。そんな都合の良い展開なんてあるわけねぇだろ」


 悲しい事に強敵を打倒しても魔法少女雪華晶が覚えてる魔法は足止め魔法のみである。

 RPG的なレベルアップの概念はないのだ。


「勝った時点で十分都合が良い展開だとボクは思うけど」

「勝ったつってもなぁ……どうにも相手は復活直後で本調子じゃ無かったみたいだし、案外俺でも倒せるくらい物凄く弱体してたんじゃねぇか?」


 影人が考察を伝えるがそれで納得できないのかナビィは宙に浮きながら首を傾げる様にくるくると時計回りに回転する。


(それだとマジポの計算が合わないんだよね……)


 マジポの付与は機械的に行われている。

 それはシャドウの力を機械的に判定した物を利用している為、戦闘力に大きな差が生まれるとは考え難い。


 無論、魔法少女として欠陥だらけの雪華晶が単騎で討伐出来る訳がない。

 他の魔法少女が手助けをしたのならば、その魔法少女にもマジポが入る。

 しかし、魔法少女以外が手助けをしたとも考えられない。


 本当に運が良かったのかな?


 今のところナビィにはそんな結論しか出せなかった。


「あ、本題忘れてた」

「本題じゃなかったのか……つか、良い加減開放してくれ夜が明けるわ!!」


 ――――――――――――――――――


 本題とやらを待って一週間後。

 影人は魔法少女雪華晶としてハザマの中にいた。


 いつも暮らしている部屋の裏世界。


 外の景色さえ見なければ現実と間違えてしまいそうだ。


「……」


 雪華晶は棚に置かれた小物を摘むとそっと位置をズラす。

 ナビィを待っている間に暇を持て余した雪華晶は少々気になっている事を試していた。


「現実には影響はない……筈。何時元の位置に戻ってるのかしら?」


 このハザマと言う空間は現実世界と構造物との配置がリンクしている。

 雪華晶はこのリンクがどう言うタイミングで行われたのか知りたくなったのだ。


 部屋の散らかり具合を見れば少なくとも1日以内には行われているようだが……


「やぁ!おまたせ!今度こそキミが大人しくしててくれてボクも嬉しいよ!」


 ナビィが現れて早々言ってきた言葉に雪華晶は眉根を寄せる。


「ひ、皮肉かしら?」

「……キミはどうもトラブルを引き寄せる体質みたいだからね。ボクとしてはさっさと運気上昇を購入する事をオススメするよ」

「まさしく、幸せの壺を押し売るカルト宗教ね」

「ちょっとくらい信用してよ!キミは一度も使わずにマジポを発酵させるつもりなのかい?」


 今のところ欲しい物も無いので大量のマジポがアプリの中で腐っているのも事実。


 雪華晶はスマホでマジポギフトのアプリを開く。


 信じてはいない。

 信じてはいないが……


「えい」


 雪華晶は運気上昇を購入した。

 腐らせるのも勿体ないので気が向いたら使うようにするつもりのようだ。


 購入するとスマホの画面から小さな光の玉が出て来て弾けて消える。

 エフェクトだけはいっちょ前に魔法っぽいのが少しだけ腹立たしい。

 一応、これで効果が発揮されたらしいが果たして効果を実感できる日は来るのだろうか。


「さて、それじゃあ行こうか」


 雪華晶とナビィは窓から飛び降りてハザマの世界を駆けて行く。

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