明日からやり直します

よたか

また失敗みたいなので、明日からやり直します。

 ── また失敗みたいなので、明日からやり直します。──


 全人類、一斉に天啓が下されました。気のせいとか勘違いとか色々な言い訳もできるでしょうが、この言葉に異論を唱える者は誰一人としていませんでした。


 しかし、神様さまはいつも言葉足らずです。『やり直す』とは具体的に世界を終わらせるのか、人類を絶滅させるのか、環境を変えて減らすだけなのかだれにも理解できません。

 そして一番問題なのはどこの明日なのでしょうか?

 グリニッジ天文台の世界標準時で日付が変わったタイミングでしょうか? それとも日付変更線の一番最初。もしくは各地の日の出とともに〝やり直し〟が始まるのでしょうか?

 〝明日〟についてはそれぞれ好き勝手に判断するしかありませんでした。


 多くの人たちは自暴自棄になり、好きなだけ食べて、好きなだけ暴れる人もたくさん現れました。一方、最後までプライドを持って行動しようと心がける警察官や聖職者も少なくありませんでした。

 世界中が混乱した状態のまま、日付変更線の西側で最初の〝明日〟が訪れようとしていました。

 23時57分、ここで世界が終わるかもしれない。

 どこからともなくカウントダウンが始まります。そして日付が変わった瞬間……。何も起きません。無事に地球は回っているようです。

 それからたくさんの人たちが、西へ移動しはじめました。


 極東の人たちの船を出して日付変更線を目指します。しかし、船の都合がつかない多くの人たちはユーラシア大陸を西へ移動して行きました。昨日まで緊張状態にだった国境にももう誰もいません。

 たとえ車で移動しても1時間で1,500キロ移動することはできません。人々はいろんな場所で次々に〝明日〟を迎えてしまいます。

 それでも、明日が終わる時に〝やり直し〟が始まるならまだ少しだけ生きながらえることができそうです。

 多くの人たちが西への行進を続けました。


 欧州の人たちは海岸線に立ち尽くし、うらめしそうに大西洋を眺めていました。すでに船もなくなってしまい、海を渡る方法がありません。そのうち1人が海に向かって歩き出しました。それを見ていた人たちも引っ張られるように自ら入水して行きます。

 アメリカで作られた動物ドキュメンタリー映画の『増えすぎたレミングスは数を減らすために身投げします』と言ったナレーションの様子そのままです。ただ、その映画はスタッフが放り投げていた〝やらせ〟であることが後からバレてしまいました。レミングスが身投げすることはなかったようです。

 だけども人間は体を波に預け、海に命を捧げて行きました。


 アメリカ東部では多くの商店が襲われ、町のあちこちで銃撃戦が発生していました。笑いながら銃を撃ち、大げさに騒ぎながら倒れていく姿は命をかけた死闘というよりも、ゲームのようでした。

 西海岸のあちらこちらの都市でも混乱は続いていました。東部と違って敵味方がはっきりした銃撃戦でした。機関銃を撃ちながら車で突っ込んでくる人たちを住民たちは狙撃し続けました。


 やがて世界中で〝明日〟が終わる頃には、50億近くの人々が亡くなり、10億人は重傷を負っていました。

 自暴自棄にならずに住んでいた場所で最期の時間をいつも通りに過ごす覚悟をした人だけが残りました。そして世界中で〝明日〟が終わる3分前。もう電気もなく動く機械はほとんど残っていませんでした。残った人々は近くにいる人たちと肩を寄せ合い、自分たちの人生が終わる時までお互いに感謝しあって、穏やかに最後の3分を過ごしました。



「どうして、あんな天啓だしちゃったんですか? 人類大混乱ですよ」

「人類が好き勝手やってるから、ちょっと困らせてやろうと思って」

「ちょっとやりすぎじゃありません?」

「まぁまぁ。ところで地球カレンダーって知ってる?」

「なんですか。突然。地球が生まれた45億年前を1月1日0時と決めたやつでしょ」

「そうそう。それからすると人類は12月31日の夕方に誕生したんだって」

「らしいですね」

「石器とか使い始めて、増え始めたのは23時57分ごろなんだって」

「ちょうど3分程度のことなんですね」

「そうそう。でね、その地球カレンダー〝明日〟から、全部やり直そうと思ったんだよ」

「5000年くらい先の事ですよね」

「うん。まだ先の事なんだけどね」

「それを人類が24時間だと勝手に勘違いしちゃったと」

「そういう事だね」

「そんな事しなくても人類は、5000年も持たないのでは?」

「そうだけどさ、人を押しのける奴らは自滅して、温和な人たちだけ残ったからもっと長く続くかもしれないよ」

「まぁ、結果オーライかもしれませんね。こちらでは何もしませんでしたが、勝手にやり直してくれましたから」

「それに、この状況で生き残れる人類は半分いないと思うよ10年後には2億くらいに減るんじゃないかなぁ」

「ここからどう進むのかちょっと楽しみじゃない?」

「それは否定しません」

「じゃ、人類に乾杯!」

「そうですね。乾杯」

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明日からやり直します よたか @yotaka

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