第30話

大塚静江は、第二の事件について語るのは、次の日にしてくれと言った。


表情からも疲れが溢れ出ていたので、大塚は静江の要望に答えた。


幸い、同じ宿に部屋が取れたので、ひとまず大塚と父親は、自室に落ち着いた。

部屋に入り、お茶を一杯飲んだらいっきに疲れが出てきた大塚は少し朦朧とした。

その脳裏には、静江の話したことだけが走馬灯のように浮かんできた。


静江がピアノ教師を刺し殺した。

ナイフはどうしたのか。


あらかじめ用意したことならば、計画的な殺人ということになる。そこまですることが少女だった静江に出来るのだろうか。しかも、身代わりとなった犯人は付き合っていた同級生だ。

その彼は自殺している。

そんな過酷な情況を中学生の少女が作り出せるのだろうか。

もしそれが出来るのであれば、彼女はモンスターだ。


父親も静江の告白について噛み締めるように思い出していた。

大塚と同じように、静江の告白の矛盾点を考えていた。


二人は一風呂浴びた後、すぐに眠りについた。

東京から来た疲れと、静江の告白のショックで疲れ果てていたからだった。



次の日は厚い雲が空を覆い、いつでも冷たい雨が降り出しそうな天気だった。

朝食を運んできた仲居が、静江からの手紙を預かったと大塚に渡した。

手紙は分厚かった。


「静江さんはもうこの宿にはいないようです」



「何だって!」


父親は目が飛び出すほど驚いた。


その手紙には、朝早く旅立ちますという書き出しで始まっていた。

突然、旅立つ無礼を詫び、第二の犯行について詳細に書かれていた。


それによると、殺された俳優は静江のストーカーで、いつ危害を加えてくるか分からない情況だったこと、犯人である助監督とは、付き合ってはいなかったが、一回だけ男女の関係になったことがあること。それは、静江に好意を持っていた助監督を犯人にして、俳優を殺させるためだったと書かれてあった。

それ以上、詳しいことは書かれていなかった。


大塚と父親はまたも静江に振り回されるかたちになったことを腹に据えかねていた。


「静江はどこに行ったんだ」


「分かりません。それより、昨日の話も、今日のこの手紙の内容も私にはどうも腑に落ちないような気がしています」


大塚は父親の返答を待つような顔をしていた。


「俺も一緒だ。彼女はそこまで出来るのだろうかとずっと考えていた」

「どうしますか」

「もう一度、洗いなおすか」

「でも、もう事件のことは調べつくしたでしょう」

「彼女の両親は生きているのだろうか」

大塚は、はっとした。

そこはまったく考えていなかった。

「かなりの歳でしょ、生きているとしても」

「調べよう」

大塚たちは急いで支度をして、帰京の途についた。




#31に続く。




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