学力カード

サラマン

第1話強いSSR

財政に行き詰まった日本。文部省がその対策として、学力が向上するカードを売り出した。学生たちは10枚のカードでデッキを組み、試験に挑むことができるのである。そのカードはくじ引き形式で売りに出され、子どもたちは大人たちにお金をせびっては、競って引き合ったのである。子どもたちはこのくじ引きのことをガチャと呼んだ。最高レアのSSRの排出率は0.001%と極小なものであったが、引ける者には引けるものである。

SSRが引けたAは同級生Bに自慢していた。

「見ろよB!引けたぜ、SSR樋口一葉!効果は”正答を一つ増やす”こんな強い効果見たことないぜ!」

「すげぇ!それで発動率は何%なんだ?」

「発動率は3%だな。だが、待って欲しい。これを大問だらけの試験で使うと期待値は一体いくらになるか!」

AのマウンティングにBは応じた。

「それなら僕のも見てくれよ。SSR与謝野晶子。発動率は5%。効果は”総合得点に総合得点の2%を加算”これは強い。センター試験で使うとどれだけ強いか君にも分かるだろう?」

Aはびっくり仰天した。

「B!それはカードのラインナップでスキル効果がシークレットになってるやつじゃないかい?シークレットカードだよ!シークレットSSRだ!」

Aははじめは興奮したが、次第に悔しくなってきた。

「くそう。お父さんにお金を貰って、もっといいSSRを引いてやる!」


子どもたちに大体のレアが行き渡った後、文部省は売上を伸ばすために新たに第二弾を投入した。子どもたちは新しいガチャに殺到した。

「SSR夏目漱石!こいつは凶悪だぜ。効果は”誤字脱字をランダムで3つまで修正する”発動率は驚異の10%!」

「10%!?」

Bは驚いた。

「これは下手に確率が低いカードより強いのでは!記述最強じゃないか」

Aの自尊心がムクムクと大きくなっていく。


更に第三弾が投入される。

「これは一体!?効果が大幅にインフレしている!」

「どうしたB。どんなカードを引いたか見せてくれよ」

「SSR福沢諭吉。発動率20%。”対象の正答を一問選び、その獲得点数を2倍にする”」

「2倍だって!?しかも、発動率20%!?」

Aはクラクラした。こんな強いカードを使って試験に臨まれた日にはもう勝ち目なんてない。

しかし、第三弾はそれだけではなかった。子どもたちの間でしきりに噂になっているSSRがあったのである。

「聞いたか?SSR森鴎外の効果。あれを福沢諭吉に使うとどうなるんだ?」

「いくら何でも強すぎないか?」

「うちのお父さんが私そっちのけでガチャ引いてるよ」

Aもそわそわしていた。というのもその森鴎外のカードの効果が”スキル一つを対象とし、そのスキルと同じ効果を発する”発動率35%というものだったのである。

もしこれをBが引いたりしたら・・・

AはBが金持ちであることを知っていた。

もし出るまで引いたりなんかしたら、35%で福沢諭吉の効果が発動することになってしまう。


学力カードが発売されてから一周年記念。文部省は全国の学生に記念カードを配布した。そのカードはSSR芥川龍之介。発動率60%。効果は”試験の残り時間が少なくなるにつれ、学力が上昇する”というものだった。これは学生一人に一枚ずつ配られたのだ。

このカードははじめ評判が良くなかった。発動率はいいものの、効果がいまいち実感できなったのである。学力が上昇するといってもどれだけ上昇するのか公式見解は示されていなかった。

Aはあることを思いつき、友人からこの芥川龍之介カードを買い漁った。

そして、自分のカードのデッキ10枚をすべて芥川龍之介にしたのである。

「とんでもないことを発見したかもしれない」

真剣な面持ちでBに語りかけた。

Aのデッキを見たBは驚きで声が出た。

「全部芥川龍之介!A、これはどれだけの効果があるんだい?」

「試験残り時間20分になると、それまで解けなかった問題が解けるようになるんだ。学力はうん、多分2倍はいってるんじゃないかな?これは誰にも秘密だぞ?」

それを聞いたBは急いで自分も芥川龍之介カードを買い漁った。

黙っていても、いずれは他の誰かも気付くものである。

この事実は学生の間に一気に広まり、芥川龍之介カードは100万円を超える値段で取引されるようになった。

「A、助かったよ。君が教えてくれたおかげで安く揃えることができた」

「ああ、これで試験に不安を覚える必要ないな。これならどんな大学でも入れそうだ」


これに対し、文部省には抗議が殺到した。抗議したのは大人たちであった。あまりに不平等。不平等である。結局はお金を出したものが試験でいい結果を残せるのである。連日デモが行われ、文部省はついに参ってしまって、学力カードの使用を全面的に禁止すること発表した。

「こんなことなら真面目に勉強していればよかった!」

AとBは大いに落胆した。

この後、学力カードに大金を費やした人達が文部省を相手に裁判を起こすことになる。だが、それはまた別のお話。


終わり。

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