頼む間に合えー!

@Wisyujinkousaikyou

第1話 間に合えー!

「もう一度クラス番号名前、書き忘れないか確認して下さい」

この言葉から約二分。

今、俺達は戦場にいる。

この戦いに負ければ俺【鹿間 馬瑠(しかま ばる)】はリピーターになっちまう。

さかのぼること一か月前。

「バル! どうするの! 今までさんざんさぼって来たんだから、次はちゃんとやらないと!」

こいつは俺の幼馴染【天木 才華(あまき さいか)】。

眉目秀麗で成績優秀。

「はぁ、うっせーな。別に俺はいーんだよ」

俺がサイカに言っていると、

「しかまー!ちょっとこーい!」

教室の外から俺を呼ぶ声がする。

「はーい、はーい、なんすかー」

俺が出ていくとそいつは

「お前、次頑張らないと、リピーターだぞ?」

「え、マジ?」

「うんマジ。ガンバ」

俺は教室に戻り、

「サイカ……助けて……」

と頭を下げる。

「はぁ、しっかりしてよ! 仕方ないわね、家に来ていいわよ。しっかり教えてあげるわ」

「あざぁっす!」

それから俺は一生懸命鍛錬した。

年の初めからサイカに教えてもらい、しっかり全てを網羅した。

こうして迎えた今日この日、サイカのためにも自分のためにも絶対に負けられない。

「ようし、今から配布する。まずは名前を書いて表の注意事項を読んで待っていなさい」

そして、重い鐘の音と共に戦闘が始まる。

今回は、闘技場で化け物を倒す感覚に近い。

闘技場の門が開き、最初の化け物に立ち向かう。

「やってやる!」

俺の目の前に現れた化け物は四足歩行で狼のような見た目をしている。

「? なんだ、簡単そうじゃね?」

俺が歩いて近づくと、化け物は大きく口を開け、こちらに攻撃してくる。

『次の値をも求めよぉぉぉぉぉ! sin90! cos135! tan120!』

「うぉ! いきなり情報量がすくねーって、これサイカに教えてもらった気がするな。ここをこーして、確か……1、‐1/√2、‐√3、じゃないか?」

俺は比較的あっさり次の敵へと向かっていく。

今度はさっきの狼を少し大きくしたような感じ。

その後の問題も俺はサイカの教えのおかげで難なくこなせた。

時は進み、試験終了約二十分前。

「へっへーん! 余裕だぜこんな問題!」

とページをめくり続けている時だった。

『円oに内接する四角形ABCDはAB=2,BC=3,CD=1,∠ABC=60を満たす! この時の線分ACの長さ、辺ADの長さ、四角形ABCDの長さを求めよ!』

突如現れた応用の化け物。

とにかくさぼってきていたバルはサイカに基礎のみを教わってきたため、応用への対応力は皆無だった。

「クソ! 応用かよ! それに過去の知識も必要なタイプか! こいつをどう倒せってんだよ!」

文句を思いながらもペンを持つこと十五分。

いくら攻撃しても、全く突破の道が見えない。

「五分前です。もう一度クラス番号名前、書き忘れがないか確認してください」

担当の先生(支配者)が声をかける。

クソ!

時が刻一刻と過ぎていく。

「あぁもうだめか……ん? 待てよ! わかったぞ」

勢いよく顔をあげて時計を確認。残り三分。

「間に合え! 三角形ABCにおいて余弦定理より……」

俺のペンの動きが突如俊敏になる。

間に合ってくれ!

長い証明を書いている間、俺は時間の事しか考えられなかった。

もう答えは出ている! あとは時間との勝負! あとちょっと! あとちょっと!

「以上より四角形ABCDは2√3!」

それと同時に

キーンコーンカーンコーン。

と鐘が鳴り響く。

ふぅ、ぎりぎり間に合った……。

俺の右手は汗を拭きだしていた。

その汗をズボンでふき、サイカの方を見る。

「やったぞ!」

と言わんばかりに俺が親指を立てると、サイカはこちらに微笑んだ。


そして数日後。

「今日はテストを返すぞー」

順番に生徒の名前が呼ばれていく。

「天木才華! 満点だ。おめでとう」

やはりサイカはすごい。

そして……。

「鹿間 馬瑠! やればできるじゃないか。満点だおめでとう」

クラス中からどよめきが聞こえる。

「よっしゃーーーーー!」

俺は大声で喜んだ。

その日の帰り道。

「いやー、サイカのおかげで助かったわ!」

「ふん、私の……が学年最下位じゃいやだしね……」

サイカの声が急に小さくなった。

「?なんか言ったか?」

「なんでもないわよ!」

サイカは顔を真っ赤にして速足で帰っていった。

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