魔法少女ハナコ・アンダースン 反物質爆弾:最後の3分間
kumapom
第1話
危機が迫っていた。
「早く!早く!」
タヌキ……いや、タヌキのような姿をした宇宙生物、ポンキーが腕を引っ張る。
部活に行こうとしたら、連れてこられたのだ。
「ポンキー!あまり引っ張らないでよ!」
ポンキーに連れてこられたのは、駅前の廃工事現場。工事途中でイザコザがあったらしく、工事が途中で止まっている場所だ。
「あれだよ!爆弾!反物質爆弾!」
ポンキーが指差す建物の鉄塔の先を見ると、なにやらピンク色にボーッと光る物体がある。金属で丸くて、ご丁寧に緑色のランプが明滅している。分かりやすい。
こんなことをするのは、いつものあいつら、悪の組織「鯱鉾団」のやつらに違い無い。
私の名前はハナコ・アンダースン。埴輪高校、通称ハニー高校に通う1年生。
ひょんなことから、このタヌキ……もとい、ポンキーに出会ってから魔法少女をやっている。
「あれが爆発したら、この街……いや、もしかしたら、この星が木っ端微塵だよ!早く!時間が無い!」
「ポンキー、爆発までの時間が分かるの?」
「爆弾からエネルギーの波が押し寄せてる!僕には分かるんだ!」
「あと、どれぐらい?」
「4分かな?それぐらい!今から変身すれば間に合うよ!」
さすが宇宙生物、センサーが違う。
「早く!この貯金箱に500円を!」
そう、ポンキーの魔法は有料だ。毎回魔法少女になる度に500円を入れている。
「まかりませんか?」
「毎回言ってるけど、一銭もまけないよ!魔法少女になるには代償が必要なんだ!」
何となく、それらしい言葉に納得してしまいそうになるが、つまり一回500円である。
「早く!時間が無い!あと3分!」
ポンキーに急かされるように、首から下げた宇宙合金製の貯金箱に500円玉を入れる。
「毎度あり!」
高らかな音楽と共に、制服が原子に分解されて魔法少女スーツに蒸着する。
そして胸ポケットに装着される三枚の魔法カード。
ポンキーの魔法少女のスキルはガチャである。
毎回、使えるスキルがカードの形で供給される。スキルを使うときはこのカードを引き、ベルトに差して使う。
大概使えるスキルなのだが、たまにどう使って良いのか分からないスキルもある。
そして、身体能力も常人の10倍ぐらいまで強化される。
「さて、ちゃっちゃと片付けちゃいますか!」
状況を詳しく確認する。
「爆弾の先にピカピカ光ってるの見える?」
「うん、分かるよ。ランプでしょ?」
「そう!あれが起爆装置だよ!あれを壊して!」
「分かった!」
一枚目のカードを引く。
『目からビーム』
あ、使える使える。いくぞー!
腰のベルトにカードを挿入する。視界に照準が表示されるようになった。
狙いを定めてー。ビーム!
目から放たれたオレンジ色のビームが起爆装置に突っ走った。
ボィン!
妙な音ともにビームが斜めに弾かれた。
「あーっ!バリヤーに弾かれた!あまりダメージいってないよ!」
そうポンキーが言った。
ならば二枚目。カードを引く。
『スパイラルアロー』
よし。使える。
カードをベルトに入れるとピンク色の弓と螺旋状の矢が現れた。
狙いを定める。ショット!
光を放ち渦巻くピンクの矢が飛び、起爆装置を貫通した。
「やった!」
思わず拳を握って叫んだ。
しかし、ポンキーはしかめっ面で起爆装置を見つめている。
見ると、緑色のランプがまだピカピカと光っていた。
「貫通したけど、まだ起爆措置は生きてるね」
ポンキーが言った。
「まだ一枚あるよ!」
私はそう言って三枚目を引く。
『稲作』
「……」
「……稲作って?」
念のため、ポンキーに聞く。
「……稲を作ってお米を作るんだよ」
ポンキーの頬を掴んで思いっきり横に引っ張った。
「いだい!いだいから!やめふぇぇ!」
「……なんでハズレを入れるの!どうすんの!どうすんの、ねぇ!」
しゃがみこんで頭を抱えて考える。いや、考えてももう弾は無いんだけど!
どうしよう!どうすればいいの!
「まだ、君には魔法少女のパワーがあるよ!」
ポンキーが言った。
「そんなこと言ったって、もう弾は無いよ?」
「君は忘れているよ。魔法少女はスキルだけじゃ無い。身体能力があるんだ」
「身体能力?」
「そうさ、常人の10倍の筋力が今の君には備わっている!」
気付いた。そうか。まだこの体が。
「起爆装置に向かって、何か硬いものを投げればいいんだよ!なるべく硬いやつを!」
ポンキーが言う。
「そうだよね、そうすればいいよね!」
焦りながら、周りを見渡して硬いものを探す。硬いもの……硬いもの……。
そしてある物が目に入った。
「やめて!それボクの!とらないで!」
「緊急事態なんだから!」
私はポンキーの宇宙合金製の貯金箱を取り上げ、振りかぶり、ポイッと投げた。
鋭い弧を描いた貯金箱はパッカーンと良い音を立てて起爆装置に当たった。
起爆装置は金属音を立てて転がり落ち、爆弾は止まった。
世界の平和は保たれた。
次の日、ポンキーは不機嫌だった。どうやら500円玉が一枚見つからないらしい。
しょうがないので2枚ほど500円玉をあげた。機嫌は直った。
魔法少女ハナコ・アンダースン 反物質爆弾:最後の3分間 kumapom @kumapom
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