俺より可愛い奴なんていません。3-19


長く行われたミスコンも残す参加者は、5人となり、終わりがそろそろと見えてきていた。


やってみないと、正直どこまで時間を取られるか分からないと考えていたが、事前によく打ち合わせをしていたかいもあってか、時間の方も予定通り進んでいた。


途中、トラブルもあったものの、大きく支障を出すことはなかった。


そんな終盤に差し掛かり、更なる盛り上がりをみせるミスコンの会場に、息を切らして丁度、辿り着いた男子生徒3人がいた。


「お、おいッ! 中島(なかじま)ッ! 今、何時だッ!?」


「え、えっとぉ……、12時 10分だな……」


走ってきた3人は、息を切らしながら会場に到着していた。


到着するなり、山田(やまだ)は、友人の中島に時間を確認し、中島も桜祭(おうさい)のため、腕時計をしていたため、スグに確認すると山田に報告するように答えた。


「間に合ったな……はぁ〜……良かった〜…………」


中島に時間を聞くと、山田は大きく息を吐き、安堵の表情を浮かべ答えた。


「大和(やまと)も良かったな? 抜けれて……」


中島はもう1人、この場に走ってきた友人の神崎 大和(かんざき やまと)にも喜びを分かち合うようにして、そう問いかけた。


「い、いや……、俺は正直、行けなくても別に良かったんだけどな……」


喜びを分かち合う中島と山田の中、大和は体をくの字に折り曲げ、両手をそれぞれ両ひざにつき、走ってきた事で息を上げながら答えた。


「え? いや、お前、ミスコンだぞ?」


山田は「コイツ、正気か?」と言わんばかりに大和に尋ねた。


山田の問いかけに、やっと呼吸が安定してきた大和は体を起こし、答え始めた。


「確かに、前までの俺ならミスコンって名前だけで食いついたろうけど……俺……、もう彼女出来るし……さ…………」


大和は平然と最初は答えていたが、最後の方になるにつれ、何故か照れくさそうに答え、頬なんかも少し赤らめていた。


大和のそんな反応に、山田と中島は朝、大和が言っていた女の子に告られた話を思い出し、怒りが再発し、何よりも男である大和が、頬を赤く染めながら答えたのが余計に腹が立った。


「くッ……こ、コイツ……今すぐここで亡きものにするか…………」


山田は怒りの余り、呟きつつ実力行使に出ようとしたが、山田の行動で、同じく頭に来ていた中島は、逆に冷静になった。


「ま、まて! 山田!! あ、明日だッ……! 明日になれば…………」


山田の進行を妨げるようにして、手を伸ばし、冷静になった中島は大和には聞こえないような声の大きさで、山田の進行を止めてそう告げた。


「そ、そうだな……明日、明日まで我慢するか…………」


中島の言葉を聞き、一時的に山田は冷静さを取り戻した。


しかし、視界にチラチラと映る、ニヤけた表情を浮かべる大和を見るとやはり、苛立ちはつのる一方だった。


山田は無理やり、なるべくニヤける大和を視界から外すように心がけた。


「あの、ニヤけた面も今日限りだ……、明日は全力で俺たちなりのフォローをしてやろう…………」


悔しいやら羨ましいやらで、凄い表情になって大和から視線を逸らす山田に、同情するような形で中島は話しかけ、結束を誓うため握手を求めた。


差し出された中島の手に、山田は反応し、自分も硬い決意を伝えるため、力強く中島の手を握った。


「な、何してんだ……? お前ら…………」


中島と山田の利害の一致から熱い友情が生まれている中、ニヤニヤとしながら、明日の事を考えていた大和がやっと我に返り、今度は男同士で熱く握手を交わしている2人を見て、気持ち悪いものでも見たかの表情で、若干引きつつ、中島達に声をかけた。


「なに……ただの同盟だ。お前は気にするな……」


大和の割と真面目な問いかけに、山田は事情を知らない大和にとって訳の分からない事を口走った。


大和は、当然内心で「はぁ?」と呟き、何言ってんだこいつ状態だったが、山田が理解不能な事を言うのはいつもの事だったので、特に気に止めることも無かった。


「まぁ、同盟でも、なんでもいいけど……いいのかよ、ミスコン見なくて……」


大和は、山田の言葉を適当に流し、当初の目的であるミスコンの話題を振った。


大和の言葉に、山田と中島はそれぞれ「そうだった」と口に出し、慌てた様子で、ミスコンが行われる舞台に視線を送った。


山田と中島、そして大和が視線を送ったミスコンの舞台には、桜木高校の制服を着た、本校の生徒だと思われる男子生徒1人が舞台に立っていた。


マイクを持って、先程から何かを喋っている舞台に立つ彼は、スグにミスコンの司会者なのだと3人は理解した。


そして、男しかいない舞台を見て、3人はある考えが過った。


「な、なぁ……もしかしてだけどさ、終わったなんて事……無いよな?」


山田は、過った考えを不安の余りスグに口に出し、2人に尋ねた。


「い、いや、どうだろ……発表終了の時間よりも40分も前だし、全員発表し終わったわけじゃないと思うけど……」


「そうだよな、俺も葵(あおい)から聞いた話だと、時間押しちゃうかも分からないって言ってたから、ここまで早く終わるとも思えない」


山田の声に、中島と大和は反応し、山田に聞かれたことで中島は再び確認するように腕時計を見て答え、大和は葵が以前、呟いていた事を思い出しながら答えた。


「アァ〜ッ……クッソォォッ! これで終わってたらマジでお化け屋敷のせいだぞぉぉ〜……」


山田は声を荒らげる事は無かったが、悲痛な叫びを上げ、こうなった現況であるクラスの出し物を呪った。


大和達、2-B組の出し物はお見合い式お化け屋敷というもので、当日もクラスの生徒達も仕事があり、当番制でお化け屋敷の仕事をやりくりしていた。


山田と中島と大和は、初日であるこの日、朝からの当番だった。


お見合い式だけではお客が集まらない心配があるということから、準備段階で少し仕様を変え、普通に同性同士でも回れるというオプションを付けた事で、普通に盛り上がってしまい、お化け屋敷としては大盛況だった。


そのため、朝からでも行列は物凄く、本来ならもう少し早くに抜けれた所を大和達は抜けれず、この時間までクラスの出し物の仕事をしていた。


「た、確かにあんなに盛り上がるとはな……、それに、お見合い希望レーンと普通にお化け屋敷を友達なんかで楽しむレーンとで分けたけど、圧倒的に後者の方が人気だったもんな…………」


「お化け屋敷としては、評価されてるって事だろ? 正直、自分で言うのもあれだけど出来良いし……普通に怖いし…………」


中島が当時の事を思い出しながら答えると、大和もそれに反応した。そして、大和が答えた事で、中島は何かを思い出したかのように、ニヤけながら話し始めた。


「でも、あれは笑ったな〜……。お見合い式がみんな恥ずかしがってか人が並ばないからって、神崎と山田が何度もサクラとしてレーンに並んだの…………クククッ……今、思い出しても笑えるッ……」


「なッ! お前、あれ超恥ずかったんだぞッ!! 結局、女子は並んでくれないし……、なんで並ばされて辱めを受けた挙句、神崎とお化け屋敷回んなきゃなんねぇんだよッ!!」


中島がお腹を抑えながら、笑いを堪えながら話すと、山田がその時の事を思い出し、感じていた怒りをぶちまけた。


山田が怒りを顕にした事で、中島は遂に笑いを我慢できず、声を上げ笑いだし、大和は思い出しなくない過去だったのか、片手を額に当て、完全に落胆していた。


「にッ……にしゅッ………2周……してたよなッ?」


中島は笑い過ぎて、上手く言葉を発せられなくなっていたが、何度も言い直しながら、やっと発音していた。


「2周じゃねぇよ! 3週だッ!!」


山田が怒りながら否定すると、中島は再び大きく息を吹き出し、大笑いしていた。


「や、山田……もういいよ、やめよう、虚しいし……ミスコン見よう……。ミスコン見て元気だそう」


山田と中島のやり取りに、何も発せず落胆していた大和が山田の近くへと寄り、山田の肩をポンポンと軽く叩き、完全に沈んだ声で山田に呼びかけた。


大和の言葉に、山田はやっと落ち着きを取り戻し、「そうだな」と小さく答えると、2人でミスコンの方へと視線を戻した。


ミスコンの舞台を見つめる2人の背中はどこか、とても寂しげで、中島はその後ろ姿を見て、余計に笑っていた。


中島の笑い声は、2人には聞こえていたがこれ以上、自分が傷つかないためにも、聞こえないふりをして、無視をし、そのまま会場を見つめていると、司会者の言葉が耳に入ってきた。


「はい! 私の話もここまでにして、次の参加者の発表へと移りましょうッ!!」


司会者の声で、大和と山田は一気、表情が明るくなり、気持ち的にも沈んでいたため、とても救われたような気がした。


「ここまで、長らくやってまいりました今回の桜祭のミスコンですが、次の参加者は正直言って期待大です!! それもそのはず、次に登場する女性は、普段でもこの桜木高校では大の人気を博します」


司会者の言葉に、山田と大和はお互いの顔を見渡し、山田と大和に限らず、訪れている会場の観覧者達の期待も大きくなっていく。


「勘のいい方ならもうお気づきかもしれませんね…………。さぁ、長話はここまでですッ!! 登場していただきましょうッ! 2-B組、二宮 紗枝(にのみや さえ)さんですッ!!!」


司会者の言葉に会場は大きく湧き、スポットが参加者が登場する場所へと当たった。

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