俺より可愛い奴なんていません。2-14
「ちょ、ちょっと二人とも〜??
なんでわざわざ私たちが昼休みに生徒会に直談判しに行っているのかな〜??」
加藤 綾(かとう あや)は先頭を歩く、橋本 美雪(はしもと みゆき)と二宮 紗枝(にのみや さえ)に問いかけるようにして、話しかけた。
美雪と紗枝は、ミスコンの主催を生徒会にバックアップ出来るのではないのかとそう結論付けると、スグに行動へ移し、教室を出て、生徒会室に向かうため廊下を歩いていた。
紗枝も美雪も何とか忙しそうにしている葵に手を貸せないかと考えていたが、綾からしてみれば、どうして彼のためにわざわざ昼休みを使ってまで生徒会に直談判に行っているのか、理解出来なかった。
「私は、昔ちょっと立花君に助けられた事があってね。それの恩返し。
それと、今、立花君の手動でウチのクラスの男子はミスコン主催の為にかなり駆り出されているって聞いたから、そこを含めても、今後クラスの出し物を本格的にやっていく中でちょっとね…………」
紗枝はこれから先、クラスの出し物をやって行かなくてはならなくなって来る中で、このままでは男子だけあっちこっちと駆り出される事と、どちらかの進行が遅れをきたしたりするのを少し懸念していた。
自分の個人的な理由として、昔助けられた事あり、紗枝にとっては恩返しも兼ね、今行動する理由としては充分な動機があった。
「それじゃ、橋本さんは?」
綾は今度は、紗枝と同じように率先して葵を手助けしようとする美雪に同じように質問した。
「んん〜? 何でしょうね…………。でも、1番は彼が主催するミスコンに出てみたくなったっていうのが1番かもしれないですね!」
美雪は色々な動機考えた。
例えば、彼に恩を売っときたいなど、何だかんだでこのように助け合うような状況が短い期間で何度もあったため、自然と手助けしようと行動したのかなどと様々な事を考えたが、今まで彼と話した中で、自分に出てもらうように必死に説得されてきた事が動く理由として大きかった。
彼の熱意に乗せられ、最初はあまり気乗りしなかったミスコンに少し興味が出てきていたというのが、1番の原動力となっている気がしていた。
「えぇ〜、ちょっと意外だな」
美雪の答えに綾は声を出し驚き、紗枝も少し意外といった様子で美雪を見つめていた。
「でも、確かに分かるかもな、橋本さんの言うこと。立花の熱意凄かったもんねぇ〜、絶対に後悔させないばりに誘ってきたし……」
「そうだね……私も何だかんだで楽しみなのかも」
美雪の答えを聞いた二人も、美雪の気持ちが何となく分かり、自分の中にも似たような感情がある事に気づき始めていた。
「じゃ! いっちょやりますか〜。ここまでして劇的な変化しなかったら立花訴えてやる」
綾はそういって、前を歩く2人に早足で追いつき、歩幅を合わせ、今まで少し乗り気じゃなかったが、葵に悪態を付きながらもやる気を出した。
そんな会話をし、3人の意見は一致し、生徒会に向かっていった。
◇ ◇ ◇ ◇
他とは少し違う、少し格式ばった、木製の濃い茶色をしたドア枠をした、他の教室とは少し違う作りの扉の前で美雪達は立ち尽くしていた。
その教室に入るための扉の上には、これまた少し格式ばったような木製の板っぱで作られている表札には、黒く達筆な字で『生徒会室』と書かれていた。
元々、この桜木(さくらぎ)高校の校長が、校長室として使っていた部屋だったため、その名残か、至る所が少し高級感が漂い、他の教室が何処にでもあるような普通の教室の作りのため、余計に品格を感じた。
滅多に入ること無く、そんな漂いすら感じさせるその教室を前に、美雪達は少し怖気付いていた。
何故か、少し悪い事をしているような、そんな気分すら感じさせた。
「き、来たね…………」
部屋の前で立ち尽く3人の中で、ようやく綾が生唾を飲んだ後、言葉を発した。
「なんか、元校長室ってだけあって、入りにくいよね……」
綾の言葉に答えるようにして、紗枝は素直な感想を述べ、2人も同感だったため、生徒会から目を離す事無く、静かに首を立てに振り答えた。
「じゃ、じゃあ入りましょう」
美雪の言葉に、他の2人にも一気に緊張感が走り、美雪が生徒会へ入るために扉に手を伸ばせば伸ばす程、3人の中でピリ付いた空気が流れた。
そして、美雪は軽く扉に2回ノックをした。
軽い音が部屋の中に響き、美雪がノックをするとスグに中の者の返事が返ってきた。
「どうぞ〜」
「はい。失礼します」
優しい女性の声が部屋から美雪達に向けられ発せられると、美雪は返事を返し、扉を開き始めた。
美雪達が扉を開き、部屋にぞろぞろと入っていくと、そこにはコの字に並ばれた机と、それぞれの自分の席に座る数人の生徒会役員が座っており、美雪達の丁度正面に対して生徒会長と思われる1人の女性が座っていた。
「いらっしゃい」
生徒会長と思わしき女性が、ニッコリと微笑みながら、生徒会室に入ってきた美雪達を歓迎するようにそう言った。
その女性はやはり、生徒会長であり、生徒会長の前にある机には、生徒会長と書かれた立札が置いてあった。
彼女の名前は、並木 麗華(なみき れいか)。
美雪達の一つ上の学年にあたる3年生であり、いろんな意味で凄まじい人であり、多くの男子、女子共に両方から熱い信頼と尊敬をされているその様な人だった。
まさしく容姿端麗で、髪は美しく腰の辺りまで伸びた黒髪で、目はキリッとしたキレ目であり、その目で見つめられると何故か背筋がピンと伸びるようなそんな緊張感を持っており、漂いは本当に何処かのお姫様かと思うくらいに、品があり、静かな漂いでだった。
「き、綺麗…………」
綾は会長を目の当たりにすると、思わず声を漏らした。
「フフフッ……ありがとう」
綾の驚いた表情で思わず零した言葉に、麗華は嬉しそうに微笑みながらニッコリとしたままお礼を告げた。
まるで動揺しないその対応に、麗華が常にその様な言葉を掛けられていて、慣れているようなそんな気すら感じさせた。
「そちらに腰掛けて頂いてもよろしいかしら?」
麗華は優しい声色のまま、美雪達にそう告げると、美雪達はそれに素直に従い、麗華に指示されたソファに3人で腰掛けた。
美雪達の前には長机が置かれており、その奥に対するようにして美雪達の座るソファと同じものが置かれていた。
麗華が反対に座るまでの間、美雪は改めて生徒会室を見渡すと、立札が置かれているところにいくつかの生徒が座っており、昼休みという事もあり、空席もいくつかあった。
部屋の中もいくつか、校長室だった名残のような物がいくつか残っており、部屋の隅の窓際には、観葉植物のような物が置かれていたり、美雪達の座るここはまさに校長室の名残そのものだった。
「さてっと……」
麗華は可愛らしくそう言いながら、美雪達の反対側に腰掛けると美雪に改めて向き直った。
「ご要件は何かしら?」
透き通るような声で、麗華は問いかけると美雪が緊張した面持ちで答えた。
「あ、あの。今回、生徒会にお願いしたい事があって来ました」
「……えぇ、何かしら? できる限りの事はお引き受けしますよ」
真剣な美雪の言葉に麗華は真摯に受け止め、誠意を持って答えた。
そして、美雪は意を決して麗華の胸を借りる形で、頼み事を話した。
「桜祭(おうさい)で生徒会が提示する出し物が無ければなのですが、もし宜しければ、ミスコンを生徒会主導のイベントとして、主催して欲しいのですッ!」
美雪は緊張から語尾が少し力強いような感じで告げたが、それがむしろ麗華には、美雪の真剣さが伝わった。
「なるほど……、今現在では、生徒会として出す桜祭の出し物は決まっていません」
麗華がそこまで答えると、3人の表情は、ぱぁっと一気に明るくなったが、スグに麗華は、諌めるように声を上げ、続けて話した。
「ですがッ。 生徒会として、ミスコンを主導でやるのは難しいかと思います」
「え…………」
3人は、麗華の話し方からすんなりと思うように話が通ると確信していた矢先の言葉だったため、驚いた表情で固まり、綾は思わず声を漏らした。
「な、何でですか?」
当然明確な理由の説明が欲しい3人は食い下がり、紗枝は出来ない理由を言及した。
「それは、ミスコンの話が持ち上がり方が、問題なのです」
「今回のミスコン騒動の成り立ちは、生徒会の調べによれば、一部の男子、男子バレー部に所属する生徒達が許可なく、掲示板などに張り紙を貼った事が事の発端です。
それは、もちろんあまり褒められた行為ではありません。それを引き継ぐようにして生徒会がそのイベントを率いることは出来ないのです」
麗華の適切な説明に3人は真剣に聞き入ってしまい、反論も上手く浮かばなかった。
3人は、クラスでの葵が自ら自分が主導でやった事だと告白した状況を見ていたため、葵が始めた事なのだと思っていたため、少し驚いた。
しかし、素直に引くような3人では無く、まだ納得はしなかった。
そして、紗枝は何とかやっと貰えるよう口を開いた。
「でも、私たちの担任である山口(やまぐち)先生が、教員会議でその話をした結果、ミスコンはやっても良いと許可が降りています。
確かに、事の発端のイメージは悪いかも知れませんが、それ以上にメリット方が大きいと思います。もし、生徒会の印象をお気になされているのであれば、やっても損は無いかと」
紗枝は話している途中でも必死に思考をめぐらし、何とかキチンとした意見にまとめあげ、生徒会のメリットの話で何とかやって貰えるよう話を持っていった。
「そうですね……確かにそうかもしれないですね。ですが、もう1つ問題があります」
「な、何でしょう……。」
紗枝は麗華の詰め寄るような、追い詰められていると錯覚するような話し方に、生唾を飲みながら、緊張の面持ちで答えた。
「それは、イベントが現在進行形でどんどん大きくなっていっているという点です。
聞くところによると、大きな話題になった事もあって参加者がどんどん増えていっているという話です。
もし、このまま増えていくならば、恐らくこのイベントは大きくなり過ぎて、学祭程度の規模にしては大きすぎて生徒会主導であってもコントロールが出来なくなる可能性が高いです。」
麗華は、生徒会と言う事もあって、色々調べているのか、どんどんと美雪達の知らない話を上げ、問題点を次々に上げる。
「で、でも! イベントが大きくなってるってことは、それだけ注目されてるって事で、みんなが期待して、それをやりたいって事何じゃないんですかねッ!?
もし失敗したとしても、やってみる価値はあると思います!!」
美雪と紗枝が何とか思考をめぐらし、上手く答えようとしていた中、綾は熱の篭った様子で、根拠は無かったが、それでも生徒会として、やりたくなるような、そんな一言を麗華にぶつけた。
「フフフッ……確かにそうですね。ここまで注目されているならばやってもいいと思います。
失敗したって、学祭なんです。むしろ、いい思い出になるかもしれないですしね」
綾の熱意に負けたのか、麗華は真剣な表情が崩れ、最初に見せた優しい笑顔を見せ、賛同するような様子で答えた。
しかし、麗華はスグに真剣な表情に戻り、美雪達をしっかりと両目で捉え、続けて答えた。
「それでも、私達は失敗するわけにはいかないのです」
麗華はキッパリと答え、続けて捕捉するように話し始めた。
「生徒会は生徒達の模範とならなくてはなりません。それは、桜祭に置いても同じ事……。
いくら、イベントの出し物だとしても失敗は許されません。
これは、私事かも知れませんが、いつでも生徒会は完璧でありたいのです」
麗華の答えに、綾と紗枝は何も答える事が出来ず、黙ってしまった。
綾も紗枝も、それでもと反論したかったが、発言する事が出来なかった。
綾と紗枝が難しい表情のまま、固まる中、美雪はある事を思い出していた。
それは、前に葵が美雪に対して言った言葉だった。
そして、美雪はそれを思い出し、小さくクスッと笑った後、ゆっくりと口を開いた。
「それなら、問題ありませんね。ミスコンは失敗なんか絶対にしません」
美雪は優しく包み込むような声で、麗華に向かって発言した。
「え……?」
諦めると思っていた麗華は驚いた様子で、美雪を見つめると美雪は続けて話し始めた。
「今、ミスコンを主導で動かしている生徒は絶対にミスコンを失敗しません。
彼は私に絶対に後悔させた無いと、そして、私に自信を付けさせてくれると、意気込んでました」
「こんなの何の根拠も無い意見です。ですが、失敗なんかしないです。絶対に……」
美雪は麗華をしっかりと両目で捉え、真剣な表情でキッパリと言い切った。
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