読書感想文

五丁目三番地

ポカポカという擬音の似合う暖かな天気だった。弟の書いた読書感想文を推敲していると飼い猫が床に散ったページの上で昼寝を始めていた。よく見ると今まさに読もうとしていた最後のページを布団にしたようだ。はて私は小学生のころ『小公女セイラ』を読んでどんな感想文を書いたんだったか。だいぶ熱心に書いた記憶はあるが高校生まで毎年毎年読書感想文コンクールとやらに応募するも1度も表彰状を手渡されたりなにか賞を貰うことはなかった。どんな文章を書いて応募したんだろう。気になって試しに机の引き出しやらクリアファイルを漁ってみるも捨ててしまったのか見つけられなかった。代わりに本棚から『小公女セイラ』を引き出してパラパラと流し読むといかにもなシンデレラストーリー。悲劇の美少女が幸せを掴むテンプレートに沿った物語であった。ボロボロの帯には白く掠れた文字で『女の子はいつだってプリンセスなのよ。』と印刷されている。プリンセス。背後で猫が起き上がったことを知らせる紙の擦れる音が聞こえる。分厚い『小公女セイラ』を机に休ませて猫から最後のページを回収する。真昼の日差しが敷きっぱなしの布団を温める。つい布団に誘われてふかふかの上に寝転がると猫がごろごろと喉を鳴らして擦り寄ってくる。目を覚ますと外は薄暗く、デジタル時計は17時を指していた。1日ぶりの睡眠は頭痛を連れてきたようで体調は悪化した。私はあのハッピーでキュートな話読んでどんな感想文を書いたのか、寝起きの頭でぼんやりと思い出そうとするもどうも靄がかかる。今感想文を書けと言われてもきっと皮肉混じりの大人を笑わせるような文章しか書けないだろう。結局私はどんな風に感想文を書いたのか分からないまま、弟の誤字に赤を付け続ける。

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