第11話 彼女の宿敵
それから4週間が過ぎた。
俺たちの事件は大々的に報道されたが、その頃にはあまり取り上げられることもなくなり、ほとぼりは冷めていた。
俺たちにつながる証拠は何もなく、捜査は行き詰っていた。俺と浩香が乗り捨てた車は発見されたものの事件との関係はもちろん、証明できず、新聞でも俺が乗り捨てたプレミオが見つかったことが小さく記事に出ただけだった。
正人たちのことはニュースにならず、1週間後に正人と芽以が中央区で自殺していたという記事が載った。おそらく、正人の叔母がアヘンの密造や密売がバレるのを恐れて正人たちの死体を片付け、医者を買収して偽の診断書を書かせ、正人と芽以が心中したということにしたのだろう、これは俺たちにとっても好都合だ。
一方、由紀子の父親は密輸がバレて母親や共犯の外国人と一緒に全員、御用となった。由紀子の父親が密輸品を売り渡した人物が事件に関わっているのではとも疑われたが、やはり、証拠はないらしく、捜査は行き詰っているらしかった。
そんな中、俺たちは厚を襲撃するため、作戦を進めていた。
検問は4日目には解除されたので俺たちは手に入れた拳銃の射撃を行って調整を行ったり、淳一たちの偽造免許証を作ったりした。
淳一たちも俺と同じで不法駐車されていた車を時々、乗り回していたらしく、少し練習するだけで問題なく運転できるようになった。俺が作った免許証を渡すと全員、「おお」といった表情になっていた。ちなみに浩香は俺の運転を見て練習することなく車の運転を覚えた。俺は浩香が初めて運転したとき、初めてとは思えないほどスムーズに運転したので浩香はすごいと思った。
まあ、ともかく、俺たちはそんなことをしながら準備を整え、完全にほとぼりが冷めたころを見計らって作戦を決行することにした。
俺たちは北区でまず、厚がどこに住んでいるか捜索した。俺と浩香は日曜に俺が新しく手に入れてきた銀色のトヨタ・アクシオで北区を探したが、厚の姿を捕らえることはできなかった。そのため、俺と浩香が捜索を行った次の日に淳一たちが西区で手に入れた白のホンダ・グレイスに乗って厚を探していた。
淳一たちはよく学校を休んで遊びに行くことが多かったらしく、その日は平日だったが、教室に入っても淳一たちがいないことを不思議がる人はいなかった。逆に浩香は真面目に毎日、休まず出席していた。だから、その日は休んでいても誰もおかしく思わない淳一たちに厚の捜索を頼んだんだ。
淳一たちは北区を回って厚を探したが、なかなか見つからなかった。しかし、淳一たちがキリスト教系の高校の近くで競馬場の近くのコンビニで買ってきたパンやおにぎりを食べながら無糖の紅茶を飲んでいた時だった。
高校の門から一人の男が何人かの仲間と一緒に出てくるのが見えた。
「ねえ、淳一、あいつ」
彩夏がおにぎりを口に放り込みながら言った。
「何だよ。」
淳一もホットドックを食べながらその男を見た。
「あいつだ。間違いないよ。」
「ああ、間違いない」
拓斗と哲磨もメロンパンとハンバーガーを手に言った。
そう、現れた男は浩香の仇である高潔厚だった。厚は浩香の卒業アルバムに載っていた写真と同様、品のないイヤらしい笑いを受けべていた。
「あいつがコウケツアツ、いや、高潔厚か、写真からイヤな野郎だと思ってたが、見れば見るほどイヤな野郎だ」
哲磨を鋭い視線でにらみながら言った。
「ああ、全くだ。聖夜が言ってたように小学生のバカガキがそのまま成長したような感じだな。反吐が出るぜ」
「ええ、全くよ。あいつ、ここの高校の生徒だったのね。どこに住んでるのかしら?」
「追いかけよう」
「おう」
淳一たちはグレイスから降りて厚たちを追った。
厚たちは高校を出てバカ話をしながら歩いていたが、途中で真面目そうだが、気弱そうな少年と眼鏡をかけた暗くて目立たない少女が歩いていて厚は2人を見るとイヤらしい笑いを浮かべて仲間たちと2人に追いつき仲間たちに2人を押さえつけさせて外傷が残らない程度に2人を殴ったり、蹴ったりし、最後に厚は2人をあざ笑うような目つきで手を振ると仲間たちと笑いながら歩いていった。
2人は地べたにうずくまり少年は悔しそうに呻き、少女はただただ泣いていた。厚はいまも誰かをいじめて楽しんでいたんだ。
「あの野郎、今もいじめを繰り返してやがるのか、許せないぜ」
「ああ、全くだ。浩香にもあんなことをしていたに違いない。思い知らせてやろうぜ」
「当然よ。」
「うん」
淳一たちは厚への憎悪を深めながら厚を追った。
厚たちは途中で分かれ、厚は競馬場から少し離れた民家の少ない場所にあるかなり大きな家に入っていった。どうやら、ここが厚の家らしい
厚の家は洋風でかなり派手で厚が金持ちなのはすぐに分かった。
厚が入ると30代前半くらいの黒い服を着た筋肉質の男と20代半ばくらいの同じく黒い服を着たラクロスをやっていそうな元気そうな女が厚を笑顔で出迎えた。この2人はボディガードらしい
淳一たちはそれから厚の家を見張ったが、夕方ごろ赤のレクサスが家に戻ってきて、中から50代の厚化粧の派手な格好の小太りの女が出てきた。その女をボディガードの2人は厚と同様、笑顔で出迎えた。どうやら、この女が厚の母親らしい。
「よし、厚の家は分かった。聖夜たちにも伝えよう」
「ええ、そうね。それにしても厚はかなりの金持ちみたいね。どうやってお金を稼いでるのかしら」
「うん、変だね。浩香の話だと父親が死ぬまでは厚は特に金持ちでもなかったらしいのに、母親は何をやってるんだろう」
「さあな。だが、厚を痛めつけて吐かせれば分かる。奴が浩香にしてきた仕打ちを1億倍にして返してやろう」
「おう、もちろんだ。」
4人は厚の家を見張り、可能な限り情報を集めた。厚の家にはボデイガードが4人いて4人が交代で外の警備についていることやほかにメイドがいること、監視カメラのようなものは全くついていないことも調べ上げた。
その日はそこで調査を打ち切って戻り、俺と浩香に厚の家の状況を伝えた。
俺と浩香は淳一たちから情報を聞いて厚の家を襲撃する作戦を立て、準備を整えた。厚の家の警備状況を淳一たちはさらに調べ、金曜の夜に作戦を決行することにした。
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