キミとボクの出会い。

葵流星

キミとの邂逅

この春、めでたく家の近くの高等学校に通うことになった俺は、浮かれに浮かれていた。


そして、それは少しは落ち着いたと思われる5月でさえも俺の心はまだそのままだった。


まだ、クラスには初々しいカップルはおらず男女のぎこちない雰囲気が漂っていた。

俺もその雰囲気に流されている者の一人だ。

これから、俺にはどんな高校生活…いわゆる青春(あおはる)が待ち受けているのか…そんな事ばかり考えていた。


そして、今日も他のクラスの女子を査定しに向かうわけだ。

健全な男子なら…言い訳だな…。

高校生なら一人いや…もっとたくさんの女子にちやほや…。

…いや…だから…はぁ…やっぱり、やめよう…。


こんなバカな事を考えていては授業にも集中できないので、俺は午前最後の授業をも居眠りして終えようとしていたのだが…。


「…もぐもぐっ。」

「…。」


彼女は、俺の目の前でコンビニから買ってきたであろう焼きそばパンを食べていた。

彼女は皐月(さつき)レオン。

この前の席替えで、俺の左上の席になった娘だ。

なんというか、雲みたいにつかみどころのないやつでほとんどノーマークだった。


「…ん?」

「…。」

「…もぐもぐ。」


俺の視線に気が付いたであろう彼女は、そんな俺をよそに教科書を盾に咀嚼音を立てながら焼きそばパンを口にしていた。


「…んっ、ごく。」


きょろっと彼女はしてやったりといった顔で俺を見ていた。


「…。」


俺は彼女の視線を遮るように顔を彼女とは反対側に向け、その後もダラダラと授業を受けるのだった。


そして、授業も終わり俺は一応机の上に置いておいた筆記用具とノートを鞄に放り投げ昼飯を食べに食堂へと向かおうとしていた。


「どうだい、調子は?」


不意に声がかけられた…。

勿論、例の人物だ。


「別に…。良くも悪くもないかな。」


そう彼女に返した。


「そうか、これからキミはどこかに行くのかな?」

「食事をしに…。」

「だったら、一緒にどうかな?」


特に断る理由はないので一緒に食事をした。

本来なら、ラーメンを頼んでいた俺は何故か購買で買ったパンと、彼女から貰った焼きそばパンを食べていた。

それも、校舎の屋上にまで行って…。


「ありがとうな。」

「…ん?何が?」

「あっ、いや…美味かったよ。」

「それなら良かった。キミがどんな味が好みなのかわからなかったからね。」


今日は、いい天気だ。

青い空に白い雲が浮かんでいる。


「…。」

「ところで、キミ?」

「ん?」

「放課後暇?」

「…暇だけど。」

「そうか、なら良かった。それじゃあ、また後で!」


そう言うと、彼女は俺の前から去って行った。

午後の授業は、真面目に受けていたところを見ると午前のは何だったかと考えてしまう。

そして、特に変わったこともなくこの日の授業を終えた。


「…。」

「あっ、居た居た。まったく…ボクを置いてどこに行くつもりだい?正直言って、ボクはそこまで暇じゃないんだよ。この後も『バイト』があるし!」

「別に、置いて行くつもりはなかったけど…それで、どこに行くんだ?」

「書店!」


そのままレオンに引っ張られながら、駅前の書店まで連れて行かれた。


「何か買う物でもあるのか?」

「今日は、新刊の発売日ってわけじゃないけど一応ね。」

「そっか…俺も雑誌を見て来るよ。」

「こらっ、今日はボクと一緒に来たのだからキミはボクと行動するべきだ。ヨロシクっ、『相棒』くん。」


…そんなわけで、ライトノベルコーナーへと引っ張られた。


「そうだね…ボクのオススメはこれだね。どうかな?あれっ、どうかしたの?」

「いやっ、少し意外だなって…。」

「そうかな?まあ、キミもかなり読んでいると思うけどね。本は、いいよ。人生にとってのいい刺激にもなるからね。」

「それも、そうだな。」

「おっ、乗り気になったかな?」


そう言うとレオンは俺の左腕にくっついてきた。


「…。」

「な~に照れてるのかな?もしかして期待しているのかな?こういうの、なんてね!」


俺は頬が熱くなって行くのを感じた。

まさか…こんなことになるとは…。


「あれっ、レオンちゃん?」

「あぅ…。」


声の主は可愛らしい女の子だった。


「へぇー、けっこう大胆。」

「なっ…いやっ、華恋…これは相棒くんが!」

「相棒って…呼んじゃうくらいの仲なんだね。ふふっ、またオススメの本があったらレオンに教えるね。」


そう言うとその女の子は去って行った。


「…。」

「…なっ、なんか言えよ。」

「今のあの娘は?」

「猫屋敷華恋…ボクの友達だよ。」

「そうなんだ…いてっ…。」


先ほどからレオンに背中をワイシャツ越しにつままれていたが、レオンはその状態から手を回転させ捻ってきた。


「ん?どうかした相棒くん?」

「いや…だから…つねるのやめろ。」

「ふ~ん、そうなんだ。」

「皐月さん…いいから止めてくれ…。」

「っじゃ…なおさらか…。」


そのあと、少しばかり小説を試し読みをし店を後にした。


「それじゃあ、俺はここら辺で!」

「その…今日は付き合ってくれてありがとう。ボクもバイトがあるから帰り道気をつけてね。」

「そういえばさ…。」

「何かな?」

「お前のバイトって…どういうのなの?」

「…そうだね…キミはさ…こういう今日みたいな日常と日常的じゃない事とどちらが楽しいと思う?」

「非日常だろ。」

「うぅ…まさかの即答で来るなんて。その…いつかバイトについては話すさ。たぶん、そんなに先のことじゃないから!それじゃあ、相棒くんボクはこれで!」


そう言い残し彼は、夕暮れ時の街へと消えていった。


「相棒も何も今日初めて話したばかりなんだけどな…さて…俺も帰るか…。」


その後、家に帰った俺は読みかけのライトノベルをまた読み始めた。

それと、レオンから貰ったお試し用の小冊子も…。

ところでこの小冊子…どこで手に入れたのだろうか。

読み終えた俺は携帯電話取り出し通知を確認するとメールが届いていた。


「…。」


メールの差出人は、皐月レオンからだった。

俺は、そのメールを読むことにした。



それが、彼女…皐月レオンと『キミ』の出会いだった。

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キミとボクの出会い。 葵流星 @AoiRyusei

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