戦火(いくさび)の章
六角編
第一話 甲賀の蛇・上
「……ここは、どこだ」
一刀斎は山育ちである。それ
「もしや
しかし、もうそろそろ日が
──と、その時。
「……む?」
だが、どうも
「……ふむ」
一刀斎は、腰の甕割から手を離す。
――それと
「ッ!」
伏せた瞬間、
どこにいるかと
「ぐっ!」
さっと
その蛇は地を
蛇はその身を揺らしながら
それには
「シッッッ!」
「なに……!?」
一刀斎は、己の目を
黒い影の、手が
どんな
だがしかし、心まで
一刀斎の手は、甕割の
「
蛇の
(いや、
蛇は
蛇が
「来い!」
甕割を
「
ヒュンと、
瞬間、甕割を握る腕に
「な、んだ……?」
腕に絡む蛇は、一刀斎のその
そしてようやく、この蛇達の正体を一刀斎は掴めた。
──
「
新しく飛んできたのは、
あの日、柳生邸の
「
一刀斎は、
だが一刀斎は、決してくつろぐことはなかった。
「すまぬ、
思わず甕割に手をかけた。部屋に入ってきたのはこの屋敷、そして甲賀の長という男、望月出雲である。
部屋の外まで来ていたことに、全く気づかなかった。
「……これは
――
「
望月出雲に続いて入ってきたのは、
「……さっき、
「げ、ばれてら……」
「
ばつの悪そうな顔をした男は、望月出雲に名を呼ばれ
するとおどけた
「すまん、てっきり
「二十一家?」
「外他殿は
望月出雲に
いわく、この甲賀は
望月出雲はあの
「……
「ああ、今から
「我より
「で、その戦いで
望月出雲と三郎丸の話を聞き、ふむ、と
「……甲賀は今、
「そういうこと」と、三郎丸が
「すまない。外他殿」
「構わない。……話を戻すが、その二十一家と他の五十三家が対立している、ということか」
「ああ」と、三郎丸が
「
「なるほど、
「だけど、反織田の
三郎丸の言葉に、一刀斎は目を丸くする。よもや、すぐ側に対立する者がいるとは。
二人は落ち着き払っていて、
「六角は織田に滅ぼされたと聞いていたが」
「滅ぼされたも同然。というのが正しい。元より十四代将軍を
「で、筆頭は落ち目の六角に見切りを付けようって決めたのさ」
「…………お互い、
どうやら、少々ややこしい問題がある場所に
また、望月出雲にとっても一刀斎の存在は思わぬ出来事だろう。
「どこか行く場所があるのなら、
「おうよ、巻き込んじまった
「
なんだろうかと、望月出雲と三郎丸が一刀斎を見る。
「三郎丸、俺が、反織田の者だと思ったと言ったな」
「ああ、東から来たからな」
聞く前に、答えが出てきた。
「おれは、東から来たか」
「ああ、たしかに、東から」
「……そう、か」
……望月らと出会えたのは幸運だったのかもしれない。
このままでは、真っ直ぐ大和に帰るところであった。
これは、ほぼ
ただの
村の者も
ただ、違うとすれば。
「ここは
「ああ。甲賀は元は
三郎丸は昨日の影のような
「お前、木こりなのか」
「あん? いや、これは
「……忍とは、なんだ」
三郎丸が、足を止めた。口をあんぐりと開け、
なぜそんな顔をしているかさて分からず、一刀斎は「どうした」と
「あーいや……
「ふむ……そうか」
言葉を
「そういえば、変わった武器を使っていたな」
「槍や刀じゃあ
蛇。それは、昨日の印象通りのものだ。
空中を這い回り、鋭い
しかし、それよりも達者なのは。
「望月殿も、同じのを使ったな」
「――――」
しかし、それも
「筆頭は、俺の蛇の師匠だ。正直言ってあそこまで上手くは使える気がしねえなあ。さて、ちょっくら道が厳しくなるから、しっかり着いてきな!」
村の外は、もう山だ。振り返って見れば甲賀の村はどこへやら。
三郎丸は
会話を
山に入り、
「
「ほう……おれは
「柳生ね。そりゃそうさ。あそこの山の薬になる草は、ほとんどここから
「そうなのか」
「今の柳生とは
言いかけて、三郎丸がふと歩みを止める。
どうした、とは聞かない。纏う気配が、さっきまでのお
「敵か」
「……ああ。ったく、どういうことだ、なんでこんなとこに──
「もう避けている!」
ほぼ同時に、二人は
すると二人のいた場所に、
続いて、頭上から声が響く。
「ほぉう、まさか、丸がここにいるとはな」
一刀斎たちが、声の方を見上げる。
木の上に、男が立っている。年の頃は一刀斎らと同じ。にんまりと
「なんで、お前がここにいるんだ」
三郎丸が
「あれは三郎坊。……俺と同じ、「
三郎丸が、袖から鎖飛刀を出し手に取った。
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