知り合いと出来事は一致しない

@grow

第1話 寝ているから逃げられない

「うわぁー!!??」


 自分の叫び声がアラームになっているかの様に毎朝自分自身の叫び声と共に目を覚ます。


 叫び声が耳に入り起きるのではない。

 毎日見る夢のせいで起きてしまう。

 この現象は毎日起きているので、家族は心配してくれているが、今は声をかけてくれることはなくなった。


 人間は寝ないと生きられない。数日間寝ないでいることは可能だが、一定期間が経つと気絶する様に寝てしまう。


「はぁはぁ、着替えるか」


 制服を着て1Fに降りる。

 作ってくれた朝飯を(母親が不安そうな顔を向けているのを知りながら)食べ始める。


 行ってきますと言葉を交わし走って学校に向かう。

 以前は自転車で通学していたんだが、通学中に眠気が襲ってきて車と事故を起こした事があり、自転車は危険だと言われて止めることに。


「おはよー」

「おっはよークマ。今日は無事に教室に来れたな」


 教室に着くと、クラスメイト達から同じ様な言葉をかけられる。

 クラス替えがないから3年間ずっと同じ顔ぶれだ。

 ちなみに、クマっていうのはあだ名で、睡眠不足から俺の目の下には真っ黒なクマができているというのが由来だ。


「毎日それ言われるけど、来れなかったのなんて数える程だろ? いい加減止めてくれね?」

「いや、寝坊とか家族の看病とかそんな感じの理由ならまだしも、彰の場合事故じゃん。歩道橋から落ちたり、自転車とぶつかったり。一度ならまだしも、複数回起きてちゃ、なぁ?」


 その言葉に他のクラスメイトも頷く。


 ありがたい気持ちはあるけれど、すまない気持ちもある。こんな奴と知り合いになったばかりに、毎朝俺がくるのか心配になっているのだから。

 教師が来た時も似たような言葉を言われるのも、このクラスでは日常化している。


 高校三年生の夏。部活は退部し、受験勉強真っしぐらの時期だ。

 俺は約2年間帰宅部として放課後は立ち止まる事なく帰っている。

 入学した時には部活に入ろうと決めていたので、文化系も体育会系も挑戦してみた。だからか、知り合い以上の生徒が大勢いる。

 まあ、結局部活に入ることなく今に至るんですがね。


 放課後は寄り道せずに家に帰る。塾や家庭教師に教わらなくても、平均以上の点は取れている。

 それなのに、家族、友人や教師、俺自身も将来を不安に思っている。


 試験で高得点が取れるか不安。

 自分に合う仕事が何か分からなくて不安。

 仲の良い友人と離れるのが悲しい。

 そんなごく一般的な悩みなら良かった。


 家に着いてただいまの挨拶を交わし、自室でジャージに着替える。動きやすく、このまま寝れる優れものだ。


「彰ー夕飯出来たから食べるわよ」


 着替え後、一応の進学先の赤本と睨めっこをしていると母親からお呼びがかかった。

 居間に着くと父親、兄貴、妹と全員席に着いていた。

 俺が席に着き、いただきますと手を合わせて食べ始めると、父親から話しかけてくる。


「彰。今日も、だったのか?」

「うん、相変わらず」

「んー何が原因なんだろうな。父さんの知り合いに見てもらうか?」

「いいよ。父さんが分からないなら、期待できないし」


 父さんは精神科医なので、俺みたいな病状の処置をしたことがあるらしい。まあ、俺には効かなかったんだけどな。


 そうか。と小声で返事をされ、そのまま食事が終わる。

 ごちそうさま、と言いながら食器を片して部屋に戻ろうとする。


「なあ、彰。毎朝うるさいんだけど、いい加減止められないの」

「おい。止めたいのは彰自身なんだぞ! 彰に文句言って止まるんだったら、会うたびに俺が言ってやるよ」


 由紀の文句に対して兄貴が冗談で返す。

 文句を言ってる由紀も、冗談を言ってる兄貴も言葉はともかく、表情は隠せていない。

 俺は精一杯の笑顔を浮かべ冗談まじりに告げる。


「ああ、それは試していなかった。明日から会うたびに文句言ってくれよな」


 先程は由紀も兄貴も泣きそうな表情だった。

 二人の反応を見ない様にそのまま部屋に戻る。

 最後の俺の言葉で、どんな表情になったのか知りたくなかったのだ。


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 部屋に戻り赤本の続きを始める。

 2年前までは読書やゲーム、テレビなどを見て夜更かししていた。高校男子としては普通だと思う。

 今では後悔しかしていないけれど。


 時計の針が3時を示しているのを見て、憂鬱ながら寝ることにする。


「どうせ今日も見るんだろうな。まあ、ここ2年間ずっと見てるんだから、見ない方が逆に変に思うけどな」


 苦笑しながら愚痴をこぼす。

 目を閉じてゆっくりと眠りの世界に入っていく。



 寝たくない。

 叫びながら眼を覚ます。

 これだけ知れば悪夢を見てしまうから、と予想できるだろう。


 彰が見る夢。

 家族や友人、知り合いの中の一人と仲良く遊んだり、話したりしている平和なシーンから始まる。

 これだけなら寝るのに支障はない。


 問題は起きる前の最後の3分間。

 先程まで仲の良かった人物を騙して悲しませ自殺に追い込む。殺し合いを始める。唐突に殺す。殺される。絞殺、刺殺、強姦、撲殺、圧殺・・・。

 ゲーム、小説、漫画、ドラマ、映画。それらの内容の残虐シーンが夢の中で再現される。

 先程まで仲の良かった二人での再現。


 記憶の中にある内容が混ぜこぜになって夢に出てくる。

 彰の場合はそれが最悪の形となって夢になってしまう。


 夢を見るのは仕方ない。

 ただ、最後の3分間が彰の日常を狂わせる。

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