02:59から始まる

コオロギ

02:59から始まる

「――はい、残り三分を切りましたー」

「三分でできることなんて存在するの?」

「なんて絶望的な顔をしているんだ友よ」

「わりと絶望的な状況だと思うよ」

「三分あれば何でもできる!」

「ラーメンはできるけどうどんは無理かなあ」

「タイマーが切れたら星に帰らなきゃいけないしねえ」

「一ラウンドKOは正直しんどいし」

「……あ、一個見つけた。滅びの呪文を教えてあげられる」

「でも肝心の石がなかったら無意味じゃない?」

「むう」

「というかなんで三分前なのかなあ。せめて五分、いや十分は欲しかったよね」

「日本人は『3』が好きだからじゃない?」

「それ本当なの?」

「さあ。でも『3』のつく言葉は多くない?」

「ことわざとか多いかもね、日本三大なんとかーとかもやたらとあるし」

「たとえば……」

「日本三景」

「宮島松島天橋立!」

「行ったことは?」

「いずれもござらん!」

「日本三大奇書」

「黒死館殺人事件ドグラマグラ虚無への供物!」

「読んだことは?」

「……ブ――――ン……」

「三大栄養素」

「炭水化物たんぱく質脂質!」

「摂取したことは?」

「むしろ私がそれらによって構成されている」

「三回回ってワンと鳴け」

「ワンワンワン!」

「鳴くのは一回でいいんだよ」

「ワン!」

「仏の顔も三度まで」

「三回までセーフ」

「三度目の正直」

「二回はアウトー」

「二度あることは三度ある」

「全部アウトー」

「三人寄れば文殊の知恵」

「先生、一人足りません」

「1×1×1は?」

「3!」

「残り少ない時間をくだらない会話に費やしてしまったな……」

「なんだと」

「まあでも、これならなんとかなるかな。やれるだけやってみるよ」


「――あと何分?」

「いっぷん、さんじゅうびょうー」

「将棋っぽいわー」

「この状況でわたしにできることは……」

「何をごちょごちょやってるの」

「できた! はい、三、段、ばしごー」

「あやとりなんていつから忍ばせてたんだ」

「けん玉もあるよ。よし、これから一度も成功させたことのない灯台という技を」

「やらんでいい」

「じゃあもしかめを三十回ほど」

「やらんでいい」

「むう」

「うーん、どうしようかな」

「だめそうなの?」

「いや、ほとんど終わった」

「お前はなんて優秀なんだ」

「だけどお決まりのパターンってやつだね。ほら、究極の二択を迫られるあれだよ」

「イエスかノーか半分かってやつだね」

「三択になってるね」

「えー、だってここまでさんざん『3』にこだわっておいてそれはないわー」

「うーん、じゃあ選択肢を無理やり増やして三択にしてあげてもいいけど、三つ目は絶対に選ばないでね」

「それは果たして選択肢と呼べるのだろうか……」

「絶対誰も注文しないだろってメニュー、絶対潜んでるものじゃない?」

「当て馬というやつだな?」

「違うね」

「咬ませ犬の方か」

「違うね」

「あれ?」

「もう時間もぎりぎりだがら、ゼロになる前に決めちゃおう」

「そうだねえ」

「これが最後の三分にならなきゃいいけど」

「どきどき」

「さて。赤か青か両方か、どれがいい?」

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02:59から始まる コオロギ @softinsect

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