⭐︎2024/12最新話⭐︎ 12月/繁忙期は一斉に

 師走である。

 各種論文の〆切と各種試験の準備に忙しい研究室はもちろん、代々研究室のメンバーで引き継いできているアルバイト先も繁忙期である。


「俺、最近家にいても忙しい気分になる……なんでだ」

「師も走るって言うしな……」

「仕方ないっぺ。ほれ、あっちの箱も運んで」

「はい」

「うっす」


 昔ながらの八百屋は、昔ながらに宅配便の発送場所としても続いている。それに加えて近年は地元野菜のオンライン販売を始めたり、ふるさと納税にも絡むようになった関係で、預かる宅配便は減ったものの店が発送する宅配便が大幅に増えたことで段ボール箱がひしめき合う一角が店内に作られるようになっていた。最早バックヤードにも収まりきっていないのだが、客も慣れているのか、注意を受けることなどもない。

 今年は二人、中嶌と岡田がアルバイトとして派遣されている。卒業のかかった論文の〆切を抱えておらず、就活のための交通費などを稼ぎたい学生への就労機会の提供と、年末年始の研究室の食糧確保と、教授が若い時分から世話になっている店への若い働き手の提供と、三方よしのアルバイトである、と代々申し伝えられているが、教授はどんなに忙しかろうと三食を疎かにしない人物である。また、親しい仲間うちや研究室で集まって食卓を囲む機会もとても大事にしている。であるからにして、このアルバイトが代々受け継がれているのはほぼほぼ二番目の目的のためだろう、という見方が毎年優勢を占めている。

 が、それはともかくとして。


「重い……野菜ってこんな重いんだっけ……」

「水分多いから、地味に重いよな……」


 運んでも運んでも、また新しい箱が増えるものだから堪らない。詰めては運び、運んでは詰めてを繰り返しながら、休憩のたびに二人はぐったりと愚痴をこぼしていた。


「お疲れさん。去年のねーちゃん、研究室にまだいるんけ?」

「去年の……ああ、鯵坂さんなら春に卒業される予定です」

「おお、それはめでたいね。また暇なときにおいでって伝えてくんねぇかい?」

「あ、はい。了解っす」

「お客さんウケがよかったんですか?」

「いやいや、すいすい運んでたんだよ。あんなに上手い子、久しぶりに見たからびっくりした」


 プロだったんかね、と呟いた店主に、ああ、と二人は嘆息した。

 華奢な見た目に反して、修士論文の執筆に日夜唸っている彼らの先輩は、いまの研究室のメンバー内で最も重いものを運ぶ手際が良い。身体の使い方が巧いんだよ、とは二番目に手際の良い教授の言である。

 やはり先人たちの忠告に従って、鯵坂に特訓してもらっておくべきだったか。後悔は先に立たず、目を見合わせてももう遅い。ラジオから流れるサンタクロースの呼び声が、二人の間を抜けていった。

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2025年9月15日 00:00

安曇理工科大学の人々 ritsuca @zx1683

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