第60話  カチェの夢が叶った夜

 



 馬は素晴らしい生き物だ。

 二本足で歩くしかない人間を考えられないほど速く遠くへ運んでくれる。

 しかし、馬は天使の翼にもなるが悪魔の羽根にもなる。

 ひとたび興奮すれば走ることを止めない馬がいる。

 本当に肺が破裂するまで馬は駆けてしまうのだ。


 そうなると名騎手でも制御は難しい。

 無人の原野で力尽きた馬が倒れ、乗り手はそのまま投げ出されることになる。

 そうして馬と共に死んでしまうこともあるだろう。

 しかし、それでも馬は素晴らしいとアベルは思う……。


 馬と乗り手は真剣勝負だ。

 まず馬を支配しなくてはならない。

 乗り手と馬の関係が緩いと、馬は平気で人間を振り落とす動きをする。

 指示した方向に進まずに隙あらば逃げようともする。

 そうなると、もはや旅どころではない。

 むしろ、逆行してしまうだろう。


 アベルたちは数日間、旅をするというより馬たちの調教に時間を費やした。

 だんだんと馬の個性が掴めてくる。

 アベルが乗る赤毛は性格に荒々しさがあるものの、一度信頼を得てからは極めて従順になった。


 さらに戦闘訓練を馬に施す。

 具体的には炎弾などの爆発に慣れさせておくとか、体当たりの特訓になる。

 これが出来る馬でなければ、激しい戦闘を宿命とする戦士とは一体になれない。


 ライカナは、これからも旅中で何が起こるか分からないという。

 目標の北方草原ルートも他に比べればマシそうだという程度らしい。

 そうして言い聞かせるように語るのだった。


「いいですか、皆さん。王道国と因縁浅からぬ貴方たちを彼の地に連れて行くわけにはいきません。王道国に属する藩国も同様です。また、混乱が激しい中央平原や亜人界のウルグスク地方なども避けます。となると北西に進路をとるしかありません。

 長く危険な道のりですが力を合わせて、自分勝手な態度をしないこと。いいですね」

「はい」


 アベル以下、いかつい男どもが畏まって返事をするしかなかった。



 アベルとカチェは空いた時間で魔術や剣の鍛錬も欠かさずに行う。

 やればやるほど奥深さに気が付く。

 通用すると思っていた技や行動が、すっかり読まれていることもある。

 思い込みばかりの、ちっぽけな自分に嫌でも気づかされるのだ。


 魔術に関しては特に魔女アスに教えて貰った「紫電裂」を繰り返し試す。

 アベルは雷の原理を思い出す。

 それほどきっちり憶えているわけではないが……。

 大気で摩擦が起こり、電気が溜まっていき、ある条件が揃ったとき落雷となるはずだ。


 体内の魔力を放出して、上空で激しく擦り合わせる。

 エネルギーを溜める役目を果たす雷雲はないから、その代りに魔力で電気を閉じ込めてやる。

 ここまででも、かなりの精緻な操作と魔力の消耗がある。

 しかし、アベルは体内の魔力が豊富なので惜しげもなく力を空中に注ぎ込む。


 そして、魔素と電気が一定の強さに高まったとき、目標へ落雷するのを強くイメージする。

 晴れた青空に紫電の光が駆け巡った。

 僅かに遅れて冷や汗が出るような激しい雷撃音が轟く。

 恐怖心が湧いてくる音だった。


「出たけれど、空中に飛んで行っちゃったよ……。地面に落雷しなかった」


 カチェが驚愕の表情をしている。


「アベル! 凄い……! 雷が出たっ」

「いやぁ……ぜんぜん狙ったところに進まないですよ。魔女アスが言っていたけれど間違って近くに落雷させたら大変だ。敵じゃなくてこっちが死んでしまう」

「わたくし、負けないわ!」

「気を付けてね。カチェ様……」


 旅の合間にアベルは二刀流の練習もする。

 仮想敵は、王道国の戦姫ハーディア。

 もう一度、戦うことになったら今度こそ負けない。

 決闘は済し崩し的に終わってしまったが、実質は負けだったと感じている。

 あのまま続けてハーディアと戦っていたら確実に殺されていただろう。


 魔女アスに貰った無骨むこつという銘の刀は、もの凄い斬れ味だった。

 肉も骨も滑らかに切断してしまう。

 刀身は見ていると思わず惹きこまれるような、美しくも妖しい輝きを放っている。

 僅かに紫色を帯びた金属光沢。

 これまで数えきれないほどの人の血を吸ってきた気配を湛える刀だった……。


 イースやカチェ、ライカナ、たまにはロペスなどとも訓練を続けた。

 ますます身長も伸びてきて、力が強くなって来た気がする。

 アベルは自分の腕がどれほどなのかよく分からないが、それでも成長している実感はあった。


 アベルたちは乾燥した草原地帯を西へと進み続ける。

 なだらかな起伏が果てしなく続いていた。

 進路には気を使う。

 特に水と草があるかどうか。

 馬はどちらもないと、たちまち体力を失うからだ。


 人なら二、三日は水だけでも何とかなるが、馬はそうはいかない。

 一日でも食料と水が無くなると大幅に動きを鈍らせる。

 それだけ走ることに体力の全てを使う生き物とも言えた。


 アベルは体感的に一日何キロぐらい進んだか計る。

 この世界の単位一メルテは、たぶん約一キロに相当しているだろう。

 調子のいい時で、百メルテは進んでいると感じる。

 ただ、進路に障害物があって迂回したり、ひき返したりもあるので、まったく捗らない日もあるのだった。


 そんな旅の日々。

 ある夜の事だった。

 アベルはカザルスが望遠鏡と分度器を持って観測している姿を見つけた。

 東の果ての島でも天文観測をしていたし、継続してずっとあれをやっている。


「カザルス先生。今日も観測ですか」

「そう。北極星を調べているのさぁ……。アベル君、知っているかな。北極星は見る地点によって高さが僅かに変わる。理球体は丸いからね……。だから進んだ距離と星の高さの違いを計算すると……なんと理球体の直径の大きさが分かってしまうのだ。もっとも、南北の距離の違いを正確に計測するのが重要だから、主に西へ進んでいると北極星の高さはそれほど変わらないけれど」

「……もう計算の結果は出ているのですか」

「ああ。今のところ理球体の直径は約一万三千メルテといったところだろうね。誤差はもちろんあるよ」


 時には激しい嵐などに苦しめられ、魔獣に襲われることもある厳しい旅なのにカザルスは自分の楽しみを見つけ出していた。


 アベルは初めてカザルスに会った頃を思い出すが、やはりその頃に比べて彼は変化している。

 魔法で戦いもするし、剣だってずいぶん上手くなった。

 賊を斬り殺すことにも躊躇いを感じていない……。

 戦う学者なんて、ライカナみたいだ。

 アベルはカザルスの邪魔にならないように、そっと離れた。






 ~~~~





 馬で進む草原の旅は続く。

 目の良いアベルは草原を馬で走っていると、様々な生き物を発見した。

 多いのは兎である。

 それから狐。

 鼠もたくさんいる。

 猫科の山猫をもっと大きくしたような生き物を一瞬だけ見たこともあった。

 それは小型の豹という風情で近寄りがたい姿をしている……。


 さしあたって草原で最も恐ろしい生物は狼であった。

 体長は成人の男に近く、飛び掛かられると押し倒される危険があった。

 なにより、狼の真の恐ろしさは単に獰猛さだけではない。

 驚くほど賢く、群れによる高度な連携行動をしてくるところだった。

 草原の旅を始めてから五十日ほど経った頃、アベルたちは群狼の執拗な追跡を受けて激しく悩まされることになった。

 およそ二十頭ほどのその群れは、旅隊の背後をずっと付け狙ってきた。


「また、狼どもが遠吠えしている」


 アベルはうんざりしていたが、それは全員の気持ちでもあった。

 途絶えること無く続く獣の声。

 移動で疲れ切ったところ、休むはずの夜にこれをやられると眠りが浅くなる。

 すると疲労が蓄積していき、昼間の旅程に悪影響が出てくるという具合だった。


 人間がそんな状況で馬が落ち着けるはずもない。

 二、三頭の例外を除いて馬たちはすっかり神経質になっていた。

 こんなことが、もう七日間も継続している。


「ライカナさん。何か手は無いですか」

「狼はとても頭の良い生き物です。下手なことをしても徒労に終わるでしょう」

「じゃあこのまま?」

「我慢比べです。奴らが諦めて別の獲物を追跡するか我々が根気負けするか……」


 狼の群れは空腹を募らせてきたのだろう。

 日増しに行動は大胆になってきた。

 灰褐色の毛並みが草場の隙間にちらつき、日没後などはアベルたちを包囲して、盛んに咆えて威嚇してきた。

 ある馬は怯え、ある馬は興奮して跳ねる。

 休息どころではない。

 このままでは人も馬も、さらに追い詰められてしまう。


 ついに狼を追い払うために魔法を使ってみた。

 始めは極暴風で吹き飛ばそうとしてみるが、相手は草むらに伏せてやり過ごすので効果はなかった。

 仕方がなく今度は炎弾を狼の潜んでいそうな暗がりへ適当に射出する。

 闇夜に閃光が瞬き、火の粉が噴きあがった。

 これは、いくらか効果があったものの、しかし夜明けからの移動ではしっかり狼が追ってくる。


 昼も夜も休めない毎日となり旅隊は緊張と倦怠を繰り返す。

 消耗すると注意力が低下する……。  

 突然、狼の群れが先回りをして奇襲を仕掛けてきた。

 物陰から跳躍してくる数匹の獣。


 荷物を括り付けている馬が襲われる直前、ワルトが狼を蹴り飛ばして撃退する。

 だが、襲撃でパニックになった馬が数頭、暴れ出した。

 人が乗っている馬はどうにか御したものの、伴走させている一頭の荷馬が逃げ出してしまった。

 貴重な馬を失うわけにはいかない。

 ライカナの指示が飛ぶ。


「わたしとアベル、ワルトが追いかけます。残りは全周警戒のまま待っていてください」


 やや起伏のある地形。逃げた馬を追ってアベルは赤毛の愛馬を駆けさせる。

 ところが一際、体格の大きな黒褐色の狼が追跡を妨害するような動きを見せるのだった。


 付かず離れず、咆えて脅し、背後から噛みつこうとしてくる。

 動きが俊敏で、とても炎弾を当てることはできない。

 より高速な攻撃火魔術、爆閃飛で仕留めようとするが、魔力を高めていると姿を消してしまうのだ。

 その巧みな機動には驚愕しかできない。

 もしかすると魔力を察知できる狼なのかもしれない……。


 やがて荷馬の追跡は終わりを迎えた。

 探していた馬は地に倒れ、狼が群がっている。

 馬体に齧り付き、腹は引き裂かれ、血だらけの狼が腸を咥えている。

 致命傷だ。


「アベル君。馬は助けられませんが好機です。今なら貴方の火魔術で狼を殺せます。荷物は惜しいですが手段を選んでいられません」


 アベルは頷き、魔力を集中させる。

 頭上に灼熱の塊が生まれ、急激に紡錘形へと転じ、射出。

 炎の槍は、夢中になって肉を貪る狼の傍で爆発。

 数匹を即死させ、残りは逃げ散っていくが無傷で済んでいるとは思えない。

 形を留めている荷物を回収して、引き返す。

 ライカナは珍しく緊張した面持ちで言う。


「狼たちは死んだ馬を食べるので追跡は止むでしょう。何とかしてここで振り切らねば」

「まだ群れの頭がいる。仲間も殺されているし、すぐに追って来るのでは」

「動物は人と違って復讐など狙いません。まずは食欲を満たすでしょう。仕掛けてはきません」

「……そうかもしれないですが。僕の勘ではあいつだけは追ってくる。罠に掛けてやります」


 アベルたちは風下に向かってゆっくり移動していく。

 これは狼に臭いを気取られないためだ。


 群狼を率いる黒褐色の奴は追ってくるだろうか。

 必ず来る。

 そういう予感がある。


 小高い丘の稜線を越え、姿を隠せるところでアベルだけ馬から飛び降りる。

 ライカナが手綱を取り伴走させていった。

 短弓を手にしてアベルは岩陰に伏せる。

 狼は地面の臭いを辿ってくるから、必然的にこの場へ来るはずだ。

 息を浅くさせたアベルは矢を取り出して待つ。

 もし、奴が魔力を捉えることが出来たとしてもこれなら見つけられない。


 期待と不安。

 時間がやけに長く感じる。

 すると確信は揺らぎ、疑念が湧く。

 もしかすると、この待ち伏せすら予測して別の進路を駆けたのだろうか。

 潜伏を止めようか迷っているときアイラの言葉を思い出す。

 狩りは焦った方の負けだと……。

 そこでアベルはこの罠が効かないようなら何をしても無駄だと思い切ることにする。


 そして……来た。

 威容と呼ぶにふさわしい大きな体をした黒褐色の狼。

 群狼の頭だ。

 賢いあいつは、ここでさらに獲物を仕留めたいと考えている。

 羊肉を満載した馬という最高の餌を見逃すほど愚かではなく、その知性が執拗な追跡を引き起こした。

 そこを逆手に取ってやった。


 アベルの心臓が高鳴る。

 一対一の勝負。

 僅かな遅れや物音で奴はこちらを見つけ出し、即座に逃走するだろう。

 そして、より狡猾になって再び追ってくる。

 絶対に、ここで殺さなくてはならない。


 息を止め、弦に矢を番えて、引き絞る。

 岩陰から顔だけ出して奴を確認。

 地面の臭いをしつこく嗅いでいる。

 今しかない。

 身を乗り出す。


 眼と眼が衝突した。

 狼にも表情がある。

 激しい驚き。

 奴は身を竦ませる。

 跳躍しようと全身をバネのように縮める。

 弦の弾ける乾いた音。


 奴が飛ぶよりも速く矢は飛翔した。

 吸い込まれるように鏃は胴体に突き刺さる。

 黒褐色の体は七転八倒。

 四肢を暴れさせて地面をのたうち回るが、矢は急所に刺さっていた。

 急速に動きは鈍くなり、やがて倒れる。


 アベルは思わず笑う。

 しつこく苦しめてきた悪魔のような敵を仕留めてやった。

 ついでに毛皮でも剥ぎ取ってやろうと歩み出したときだ。

 背中から不意にワルトの声がした。

 いつの間にか支援に来たらしい。


「ご主人様。近づくのは待つだっち……。あいつ、最後の攻撃を狙っているずら」

「本当か? 死んでいるように見えるけれど」

「あいつは群れの頭だっち。残った仲間のために自分の命を使うずら」


 アベルは弓に矢を番え、狙いを定める。

 放った瞬間、狼は猛然と跳ね飛び、矢を躱して見せた。

 さらに牙を剥きだし駆け寄って来る。

 もはや矢を番える余裕はない。


 弓を捨て刀の柄に手を掛けたところでワルトが飛び出し、狼に掴みかかる。

 そのまま捻じ伏せて、短剣で心臓を貫き、ついに仕留めた。


「ワルト。助かったぜ。うっかり近寄っていたら危なかった」

「動物は自分の命の使い方を知っているものだっち。手負いの獣に油断したら殺されるずら」


 さて、憎い仇だが仕留めてしまえば毛皮と肉でしかない。

 アベルは慣れた手つきで皮を剥ぎ取る。

 肉はワルトが食べてしまった。


 黒褐色の毛皮を手にして仲間たちのもとに戻ると、みな笑顔を浮かべる。

 ことにイースが珍しくアベルを褒めたたえた。


「これほどの獣を仕留めるのは戦士の誉れ。見事だ。狩りでは私よりアベルの方が上手だろう」

「もうじき冬だし、この毛皮はイース様にあげますよ」


 滅多に無いがイースを喜ばせることに成功したらしい。

 にっこり笑ってくれた。



 旅は続く。

 草原には毛長牛というバッファローに似た生物もいた。

 それが数百頭の集団で移動しているのは壮観だ。

 ただし毛長牛は人間に突進してくることがあるので、近寄ってはいけない。

 もし跳ね飛ばされたら鎧を着ていたとしても死ぬだろう。

 だが、狩れば大量の肉が手に入り、毛皮は上等な防寒具に加工できる。

 アベルはいつか獲ってみたいと意欲を燃やす。


 幸いにも魔獣には遭遇していないが、やはり複数の種類が生息しているとライカナは教えてくれた。

 中でも最強の種族が翼の生えた獅子で、名を鷲翼獣王しゅうよくじゅうおうと言う。


 非常に獰猛で攻撃力があり、そのうえ魔法に対して抵抗力が高い。

 さらに賢さもあるらしい。

 ただ、なぜか人間を積極的に襲うことは少ないという。

 それゆえに鷲翼獣王を魔獣ではなく賢獣だとする人もいるそうだ。


 アベルは蒼空に大鷲が飛んでいるのを見つけた。

 地上に視線を移すと、平野に兎が何匹もいる。

 あれを狙っているのだ。

 鷲には悪いが、横取りさせてもらう。


 アベルは口笛を鋭く吹く。

 獲物が居たことを知らせる合図だった。

 手信号で獲物と動きを伝える。

 イースが頷いて獲物の逃げる方向へ先回りする。


 時間を置いてアベルは兎へ突進。

 それに驚いて逃げた兎だが、待ち伏せしていたイースが声を上げると、慌てて反転しようとした。

 チャンスだ。


 アベルは馬上から矢を射る。

 吸い込まれるように兎に命中。

 それでも少し逃げたが、力尽きて倒れる。


 射止めた兎を急いで回収しにいく。

 もたもたしていると鷲が素早く飛んできて獲物を奪われたことがある。


 上手くいけばこんな調子で、草原を移動しながら一日に十羽は兎を仕留められた。

 獲った兎は手早く捌く。

 内臓は捨てるが、毛皮は大切に取っておく。

 処理すれば上等な衣服になるのだ。


 夕方、アベルは料理の準備をした。

 役割分担が出来ていて料理はアベル、カチェ、ライカナが作る。

 残りの面子は馬の世話をしたり、夜間を過ごすシェルターの設営をするのだった。


 今日は兎を煮込みにした。

 頭蓋骨ごと煮ると濃厚な味になる。

 食べられる野草も鍋にぶち込む。

 塩と擂り潰した胡椒を入れると、びっくりするほどの美味さだ。

 さらに鍋には小麦粉の団子も入れて、茹でて食べる。


 シェルターは風を遮られるように馬革の幕を張って作る。

 その中で、みんなで雑魚寝をするのだ。

 季節は秋になり夜間に吹く寒風は、そろそろ耐え難いものになってきた。


 ある夜、アベルは一人で砕け散った宝石を撒いたような星空を眺めていた。

 草原は異常なほど空が広い。

 見渡す限り、夜空に星が満ちていた。

 天の川が見える。


――贅沢な時間だな。

  これ以上に美しいものは、どこにあるか……。


 そこへカチェがやってきた。

 隣に座ってくる。


「カチェ様……」

「アベル。わたくし、子供の頃から夢があったの。星空を天幕にして寝てみたり、果てしない草原をどこまでも旅する……。望みが叶ったわ。人生、分からないものね」


 隣にはアベルまでいるからね、とカチェは心中で付け加える。


 アベルは隣にいる美しい少女の瞳に、綺羅星の彩りが映っているのを見つけた。

 こんなに綺麗なものが世の中にあるのかと、心が痺れるような気持ちになる。

 さっそく星空よりも素晴らしいものが見つかってしまった……。




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