第26話:東京着。
新大阪駅を出たのぞみは、飛鳥たち4人を乗せて一路東京へ向けて最高速度で走行していた。
名古屋を出て静岡県に入りしばらくするとエリカが窓の外を指差して、みんなにこう言った。
「みなさん、あれ、富士山ですわ?」
「え?どれどれ?」
と、飛鳥。
「うわー、きれいっ!!」
「僕、生で見たの初めてだよっ!」
などとみな口々に言う。
熱海を通過した辺りで、飛鳥のスマホのバイブが鳴る。
「はーい。」
「おう、飛鳥か?」
「あ、浩兄。」
「今どの辺りや?」
「さっき熱海通過してたで?」
「ほなあと1時間かからんくらいか。」
「そうかな。」
「僕な、八重洲口の駐車場に車止めて、中央改札の出口でお前ら待ってるからな、新幹線降りたらお前らそのまま改札まで出て来いな。」
「うん、分かった、ありがとう。」
「ほああとでな。」
「はーい。」
と、二人は電話を切ると、響香が飛鳥に話しかけて来た。
「飛鳥?浩兄なんやって?」
「あぁ、うん、八重洲口の中央改札で待ってるから、電車降りたらそのまま改札出て来い、って。」
「そか、ウチ、浩兄に会うん久々やから楽しみやわ。」
「私もや。」
そうこうしているうちに4人を乗せたのぞみは、多摩川を渡り、東京へ入り、
徐々に速度を落とし、横目に在来線の電車と平行しながら走っていき、
品川駅に到着し、大勢の乗客を降ろしたあと、徐行運転をしながら終点・東京駅を目指す。
そして、車内アナウンスが流れる中、電車は更に速度を落とし、
東京駅新幹線ホームへと入り、完全に停車すると、ドアが開き一斉に乗客たちがホームへと降り立った。
ホームに出た飛鳥は、ん・ん~、と、背伸びをした。
「来た~!東京っ!」
「来たなぁ~。あ、飛鳥、浩兄に電話せなアカンのちゃうのん?」
「そやった。」
と言い、飛鳥はスマホを出し、浩輝に電話をした。
「もしもし浩兄?」
「おう飛鳥か?今ドコや?」
「今東京駅着いて改札向ってる。」
「ほな中央改札まで来いな、待ってるから。」
「はーい。」
そう言って二人は電話を切った。
飛鳥の横で千春がもじもじしている。
「どしたんですか?先輩。」
「や、飛鳥ちゃんのお兄さん、どんな人やろ、って。」
「大丈夫ですって!直兄より優しいですからっ!」
「そ、そか。」
「はいっ!」
そして4人は八重洲中央口の改札を出ると、スーツ姿で笑顔で手を振る浩輝
の姿を見つけ、飛鳥が走っていき、浩輝に抱き付いた。
「浩兄っ!!浩兄っ!!久しぶりっ!!」
「ちょ、飛鳥っ!!こらこらこらっ!!」
「よ、浩兄、おひさ。」
「おう、響香。久しぶりやな。元気やったか?」
「うん。浩兄も元気そうで。」
「まぁな。で、そちらのお嬢さんが青島貿易の?」
「あ、初めましてお兄様。青島エリカと申します。よろしくお願いします。」
「よろしく、エリカちゃん。で、そちらの男の子がウチの飛鳥と付き合ってる…?」
「あ、先輩?私の一番上のお兄ちゃん。」
「は、初めまして、た、鷹梨、ち、千春とも、もうしま、す。よ、よろしくお願いします。」
「あはは、そんなに硬くなることないよ。僕は悠生浩輝。直輝と飛鳥の兄。よろしく、千春君。」
「よろしくお願いします。」
「さて、挨拶も済んだことだし、みんな、どうしたい?」
「まこちゃんに会いたいっ!!」と、飛鳥。
「やっぱそう来るわな。」
「そらそうやろ、なんのために東京まで来た思《おも
》てんよ?」
「分かった分かった。とりあえず車まで行こうや。」
「はーい。」
そう言って5人は浩輝の車まで行き、飛鳥は助手席へ、ほかの3人は後部座席へ座った。
「さーて、ほな出発しよかー。」
と、浩輝が言うと、車はゆっくり駐車場を出て、首都高へ入り、約40分ほど走ったところで高速道路を降り、一般道を少し走ったところで、
なにやら警備員が居るゲートの前で一旦停車し、浩輝がIDカードのようなものを警備員に見せると、ゲートが開き、車は広い敷地の中に入って行った。
そして、駐車場に車を止めた浩輝がみんなにこう言った。
「さぁみんな、着いたで!降りてやー。」
と言うと、飛鳥たちは車から降りた。
「うっわー、広-い!!なぁなぁ、浩兄!ここ、なんなん?」
「ここか?スタジオや。」
「スタジオ?これ全部スタジオ?」
「そや?」
「まこちゃん、こんな凄いとこで撮影しとんの?」
「そや?とりあえず入館手続きするからな?おまえらここでちょい待ってろ。」
と、浩輝が言うと、受付の女性に自分のIDカードを見せ、4人分のカードを発行してほしい、
と頼むと、受付の女性はコンピュータでデータ処理をしてカードを作成した。
その時、奥の方から、聞きなれた声がして来た。
「ふぅ~~、やぁっと休憩やわ~~!ウチ、もうへとへとですわ…。」
「あはは、さすがの真琴ちゃんも今日はぐったりだね。」
と言う男女の話し声の方を飛鳥が振り向き、「あーーーーーっ!!!!!」と、
大声を出して指をさした。
「え?あ、飛鳥?響香?それにエリカさんや先輩まで。みんな、なんでここにおるん?」
「なんでて、まこちゃんに会いに来たんやないかっ!!まこちゃーん!!」
「ちょ、飛鳥、あんた、抱きつくなっ!!」
「や、やぁ、エリカ。元気そうで。」
「ふ、藤坂さん…ヒク…。私、寂しくて、会いたくて、ずっと一人で…。藤坂さぁん!!」
と、エリカも藤坂の元へ走っていき、藤坂の胸元に抱き付いて泣きじゃくった。
「感動の再会、ってやつですね、先輩?」と、響香が千春に言う。
「そうやね。」
そこへ奥から、背が高く、スラっとした男性がもう一人やって来て、
英語と片言の日本語で真琴たちに話かけて来た。
「Hi! Makoto&Hujisaka!ナニシテルンデスカ?」
その声の方を見た飛鳥は目を丸めて少しの間フリーズした。
そして、その男性に英語でこう話しかけた。
「Excuse me? Are you MAYDAY's MR.Ashin?」
と、聞くと、その男性は笑顔で飛鳥の方を見て、こう答えた。
「Yes, I'm MAYDAY's Ashin Nice to meet you!!」
と言いながら、飛鳥に手を伸ばしてきて、笑顔で握手を求めて来たので、
真琴に抱きついたまま、飛鳥は右手を出して、震えながら阿信と握手をした。
「あんた、むちゃ体震えてんで?」と、真琴が突っ込む。
「なんで?なんで阿信さんがここに?」
「阿信さんだけちゃうで、他のメンバーさんもみんなスタジオにおるわ。」
と、そこへ、奥からスタッフらしきメガネをかけた男性がやって来た。
「楠木さーん!藤坂さーん!阿信さーん!再開お願いしまー!」
と言われ、真琴が返事する。
「あ、はぁい!すぐ行きまーす!ったく、あんたが抱き付いて来たおかげで貴重な休憩時間が台無しになったやないか。」
「ご、ごめん。」
「でもまぁ、嬉しいわ。みんな会いに来てくれたしな。」
「さ、真琴ちゃん、行こうか。エリカ、またあとでね。」
「はぁい。」
「おまえらも撮影、見学したいやろ?」と、浩輝。
「そ、そらしたいっ!!」
「そのためのこれやっ!」
「なにこれ?」
「ここのIDカードや。みんな、それ首からぶらさげとけ。」
「はーい。」
そして5人は真琴たちのあとを追い、スタジオ内に入って行く。
するとそこには、真剣に演技をする真琴と藤坂や他の俳優・女優たちの姿や五月天のメンバーたちが居た。
撮影は夜遅くまでかかり、真琴の友人たちが大阪から来ているから、という、
監督の配慮もあり、真琴だけ先に撮影を終わらせ、飛鳥たちが東京に居る間は、
真琴も休日、ということになり、
真琴を含めた6人は、浩輝の車で真琴が滞在しているホテルまで向った。
その車内。
「みんな、ホテルの部屋割りやけどな?」と、浩輝が言う。
「飛鳥は真琴とがえぇやろ?」
「うんっ!」
「千春君はオトコやから一人になるけどえぇか?」
「大丈夫です。」
「そうなるからエリカちゃんは響香と一緒な?」
「はぁい。」
「響香?エリカちゃん、頼むな?」
「うん。」
「部屋はみんな隣同士に3部屋取ってあるからな。」
「分かった。」と、飛鳥。
そして車は、真琴が宿泊している都内の高級ホテルのエントランスに到着し、
ベルボーイが車のドアを開けると、みんなは車内から出て行き、浩耀が、
車を駐車場へ入れてくるからとりあえずフロントのソファでくつろいで待っているように、と言い、自分は車を駐車場へと走らせた。
その後、浩耀が飛鳥たちの元へ戻って来て、フロントのホテルマンに、追加予約していた部屋の話をする
と受付のスタッフが快く人数分のルームキーを浩耀に手渡した。
宿泊手続きが済んだ浩耀が、飛鳥たちの元へ戻って来て、エリカ・響香の部屋と、千春の部屋の鍵をそれぞれ渡し、真琴はいつもの部屋の鍵を受け取って、とりあえずみんなと一緒に部屋のあるフロアまで上って、部屋の説明をしたあと、みんなにこう言った。
「僕はこのあとまだ会社で仕事残ってるから会社戻ってそれから家に戻るからな。」
と言うと、飛鳥が浩耀にこう尋ねた。
「あ、浩兄?」
「なんや?飛鳥。」
「おばさまたち、元気?」
「あぁ、元気や。会いたいか?」
「うーん、正月にまた来るやろ?」
「まぁな。」
「そん時でえぇ。」
「そか。」
「ほな明日は朝10時くらいに迎えに来るからな。みんな、それまでに起きて準備しとけよ?」
「は?浩兄、どっか連れてってくれるん?」と、響香。
「せっかく東京来たんや、東京見物くらい、したいやろ。」
「したいしたいっ!!」と、珍しくはしゃぐ響香。
「そうゆうわけやから今日はこれで解散や。みんな、お疲れさーん!」
と言い、浩耀は、エレベーターに乗って、会社へ戻って行った。
そして、みんなもそれぞれの部屋に入って行った。
ここは、真琴と飛鳥の部屋。
飛鳥はようやく二人きりになれたので、真琴に抱きついていた。
「まこちゃんまこちゃんまこちゃん!会いたかった!」
「わーかったからー!!ちょっと、せめて部屋着に着替てメイク落とさせて!」
「う、うん。ごめん。」
「でも嬉しいわ。あんたら来てくれたから。ありがとうな。」
と、真琴は服を脱ぎながら飛鳥に話しかける。
そして、ブラとショーツだけになった真琴は洗面所へ行き、顔を洗い、メイクを落とし、顔をタオルで拭きながら、真琴は飛鳥にこう言った。
「あすかー?」
「なにー?」
「あんた、明日の東京見物、どこ行きたいんや?」
「まこちゃんと一緒やったらどこでもえぇ。」
「そか。」
「うん。」
そう言って真琴が洗面所から出て来た。
「ふあー、さっぱりしたわー。あ、そや薬、飲んでなかったな。」
「まこちゃん、お薬、持って来てたん?」
「当たり前やん。いつ発作起こるか分からんからな。」
真琴が言う"薬"とは、中学の時に発病した、いわゆる「うつ病」のことで、
その病気を抑える安定剤やら睡眠剤のことである。
真琴は薬用のポーチから安定剤のシートを取り出し、一錠だけ出して、
ミネラルウォーターと一緒にごくっと飲んだ。
「ふぅ…。」
「そう言えばガッコでは薬飲んでるトコ、全然見てなかったな。」
「まぁな、毎日が緊張の連続やったしな。クラスや部活に馴染んだりするのとかで忙しかったしな。」
「そういわれればそうやな。」
「ってか今何時やねん。」
と、真琴がスマホの時計を見ると、もう0時を回っていた。
「飛鳥、もう0時回ってんで。そろそろ寝よか。」
「うん。まこちゃん、一緒に寝てもえぇ?」
「あぁうん、えぇで。」
そう言うと飛鳥は真琴のベッドに潜り込んで来て、真琴が部屋の電気を消し、
二人は明日に備えて眠りに付いた。
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