第13話:とある月曜日に…。

昨日の日曜日から一夜明けて、今日は月曜日。

時間は午前6時半。


昨夜、子供たちが寝静まってから、朝方まで会社で仕事をしていた雅輝がようやく家に帰って来た。

そして、雅輝が、エリカと藤坂の部屋を軽くノックする。

すると、その音に気付いた藤坂が目を覚まし、ベッドから出て、ドアを開けると、

笑顔で、「やぁ、おはよう。」と、ドアの外に立っていた雅輝に驚いた。


「あっ、こ、これは、おはようございます。」

「やぁ、おはよう。どうだね?我が家と大阪の生活は?少しは慣れたかい?」

「あ、は、はい、おかげさまで。」

「翠さんに聞いたけど、昨日はエリカちゃんと2人で住吉公園に行って来たんだって?」

「は、はい。とてもキレイなところでした。」

「そんなに緊張しなくていいよ。家族同然なんだから。」

「は、はぁ。」

「ところで、エリカちゃんは?」

「あ、ご覧のとおり、まだ寝てます…。」

「そうか。」

「昨日、実家から荷物が届いたんで、それの整理とかしてまして…って、テレビとかパソコンとかのセッティングしたの、主に僕なんですけどね。」

「まぁ、女の子はそうゆうのに弱いからね。」

「で、どうかされたんですか?こんなに朝早く。」

「あ、そうそう。昨日の夜、私の会社の電話にね、エリカちゃんのお父様から電話があってね、粟生野女学院の退学手続きが終わった、って言う連絡があってね。」

「あぁ、そうですか。さすが、青島貿易さんですね。やることが早い。」

「でね、エリカちゃんには、大学院まではウチで預かってもらいたい、とも言ってたかな。」

「だ、大学院ですか。」

「うん。」

「君も、将来はエリカちゃんと結婚するつもりなんだろう?」

「え?えーと、あ、は、はい。ぼ、僕は、そのつもり、で、付き合って、ます、が。」

「だったら、こちらでの大学が決まるまでと、決まってからも、僕の会社で働いてみないか?」

「え?で、でも、僕、芸能活動もしてますが…。」

「芸能の仕事がある時は、そっち優先でいいからさ。」


と、そうゆう込み入った会話を、藤坂と雅輝がしてたトコへ、「ふぁぁ~…ん~、ふ、ふじさか、さん??」

と、寝ぼけ眼なエリカが目を覚まして、ボケーっと、周りをキョロキョロしていると、ドアのところで、雅輝と藤坂が会話しているのに気付き、ハッと目が覚めた。


「あ、お、おじ様、お、おはようございます。」

「やぁ、エリカちゃん、おはよう。朝早くに起こしてごめんね。」

「おじ様、こんな朝早くに、藤坂さんと何の話しをしてるんですか?」


と、エリカに聞かれたので、雅輝は、先ほど藤坂に伝えたように、昨日の夜、エリカの父から電話があり、粟生野女学院の退学手続きが終わったこと、それと、大学院卒業までは、悠生家で生活し、ちゃんと卒業すること、

など、藤坂に話したことと同じことを、ちゃんと説明し、エリカの父も、出張などで大阪に来た時は、2人で会う時間を作る、と言う事などなど、全てを分かりやすく説明した。

そして、こう切り出した。


「エリカちゃん?」

「は、はい。」

「粟生野の退学手続きも済んだことだし、今日は、飛鳥たちの学校、鈴ヶ丘の見学に行ってみようか?」

「え?!い、いいんですか?!」

「あぁ、もちろんだとも。」

「うちの家系は、昔から代々、鈴ヶ丘出身だからね。もちろん僕も。だから、今の理事長や学院長とも親しいんだよ。」

「そ、そうだったんですか。」

「とりあえず、私もまだこんな格好だから、スーツに着替えて君と飛鳥を車で学校へ送る準備をしておくから、エリカちゃんも粟生野の制服でいいから、それを着て、髪もきれいにセットして、出掛ける準備、しておいてくれるかな?」

「あ、は、はい!分かりました!」

「藤坂君も、2人の学校の話しが終わったら、私の会社まで一緒に来てくれるかい?」

「あ、は、はい!もちろんよろこんで!」

「じゃあ2人とも、支度しておいてね。私も飛鳥を起こして来るから。」

「はい。」


と、2人は同時に返事をしたあと、雅輝は部屋から出て行き、飛鳥の部屋に向かい、ドアをノックした。


「飛鳥?私だよ?飛鳥?」

「ふわぁ…。ん~?お父様?」

「あぁ、ちょっと起きて?」

「ふわぁい…。」


眠い目をこすりながら飛鳥はドアを開け、雅輝に、「おはようございますぅ~…。」と、寝ぼけた感じで言った。

すると雅輝がふざけて、

飛鳥の両方のほっぺたを軽くつねって、イーっ!とやって、パンっ!と話した。


「いったぁ~い!何するのよ?お父様!」

「あはは、目は覚めたかい?」

「覚めましたぁ~!で?何ですの?まだ登校時間じゃないですわよ?」


と言われたので、先ほどの話しを飛鳥にもした。

すると飛鳥はもの凄く喜んだ。


「うわーい!エリカさんと一緒に学校行けるの~?!やったー!!」

「こら、まだ朝早いんだから、そんな大きな声で叫ぶと、直輝が起きて来るだろ?」

「あ、す、すいません。」

「そうゆうことだから、飛鳥もちゃちゃっと学校行く準備、するんだよ?」

「はぁい。」


そう言って雅輝は飛鳥の部屋から出て、下へ降りて行った。


その頃、エリカと藤坂の部屋では、2人とも、スーツと制服に着替えたので、ドアを開け、1階に降りて、食卓に居た。


「翠さん、おはようございます。」

「おはようございます、エリカ様・歩様。」

「おはようございます。」

「ご朝食はパンとお紅茶でよろしいでしょうか?」

「あ、ありがとうございます。」

2人が朝食を食べているところに、飛鳥も制服姿と、学生鞄を持って食卓へやって来た。


「あ、2人とも、おはよう!」

「おはよう、飛鳥さん。」

「やぁ、おはよう。」

「あれ?藤坂さん、何でスーツ姿?」

「あぁ、今日は君のお父様の会社を見学に行くんだ。」

「へぇー。って、藤坂さん、ウチで働くんですか?」

「うん、まぁ、僕だけがこの家で何もしないわけにはいかないからね。」

「げ、芸能活動は?」

「あぁ、その時は、そちらを優先していい、ってお父様から言ってもらえたよ。」

「そうなんですか、おめでとうございます。」

「ありがとう。」


と、話しをしているところへ、雅輝がやって来た。


「飛鳥、準備できたかい?」

「あ、はい、お父様。2人はどうだい?」

「いつでも行けます。」

「私も。」

「じゃあ行こうか。」

「はい。」

「はぁい。」

「分かりました。」

「じゃあ翠さん、出掛けて来るからね。あとは頼んだよ。」

「かしこまりました。皆様、行ってらっしゃいませ。」

「行って来ます。」


そう言って、雅輝を含む4人は、黒塗りの高級外車に乗り、悠生家を出て、鈴ヶ丘学院高校へと向かった。

車での鈴ヶ丘までの道順は、上町線とほぼ平行して走る大通り・阿倍野筋を北上して、道路が込んでなければ10分~15分ほどで着く。

雅輝は、助手席に藤坂を乗せ、後部座席に飛鳥とエリカを乗せ、安全運転で車を走らせ、7時前に学校の正門前に着き、来客用の駐車場に車を止め、藤坂には車で待っているように伝え、飛鳥とエリカを連れ、車から降りた。


「まだ7時やからほとんど誰もおらんわ。」

「学院長はもう待ってくれてるよ。」

「そ、そうなんですか?」

「飛鳥も、久しぶりに学院長に会ったらどうだい?」

「そうですね、プライベートでは滅多に会わないですし。」


とりあえず飛鳥は、昇降口へ向かい、自分の上履きに履き替え、雅輝とエリカの待つ、来客用の入り口へ急いだ。


「お待たせー。」

「じゃあ行こうか。」

「はーい。」


途中、1年の、飛鳥のクラスとは違うクラスの担任とすれ違い、3人は軽く挨拶をし、学院長室へと向かい、部屋の前に着くと、雅輝が、ドアをノックし、

「院長、おはようございます、悠生です。」と言うと、中から、

「どうぞ。」

と言う声がしたので、「失礼します。」と言って、3人が部屋に入ると、

笑顔で学院長が出迎えてくれた。


「やぁ、おはよう。悠生さん。待ってたよ。」

「おはようございます。」

「先生、お久しぶりです。」

「やぁ、飛鳥ちゃん、お久しぶり。その後、学校生活はどうだい?」

「あ、は、はい、毎日楽しいです。」

「何だって?吹奏楽部に入ったんだってね?」

「はい。ようやく、皆さんと親しくなれた、って言うところです。」

「そうか、結構結構。」


と、白髪頭の60才前後の優しそうな男性が、飛鳥と会話し終えると、雅輝が飛鳥にこう言った。


「じゃあ飛鳥はいつものようにクラスへ行きなさい。」

「え?」

「あとは、お父さんとエリカちゃん、そして院長で話しがあるから。」

「あ、はーい。」

「じゃあね、エリカさん。頑張ってね!」

「え?あ、う、うん。飛鳥さんも。」

「はーい。じゃあね。」


と言って、飛鳥は院長室のドアを開けて、部屋から出て行った。


…飛鳥が出て行った院長室では、雅輝とエリカが一緒にソファに座り、

学院長が、向かい合ってソファに座って、話し合っていた。


「さて。君が、青島貿易のお嬢様、だね?」

「あ、は、はい。初めまして。青島エリカ、と申します。」

「うん。元気の良さそうでお上品なお嬢様だ。雅輝君から聞いたとおりの女の子だよ。」

「あ、ありがとうございます。」

「君の事は、雅輝君はもちろん、先日、君のお父様からも電話があったので、いろいろ話しをしたよ。」

「ち、父から院長先生に電話があったんですか?」

「あぁ。あったよ。」

「それは、僕からお願いしたんだよ。」

「おじ様が、ですか?」

「そうだよ?だって、周りがやいのやいの言っても、親の同意が無ければ入学出来ないからね。」

「そ、それはそうですが…。で、父はなんて?」

「卒業まではよろしくお願いします。と言ってたかな。」

「そ、そうですか。」

「だからね、君も、雅輝君のお宅で生活し、この学校に通うわけだから、お父様やお母様のご期待に応えるよう、勉学や部活、そして友だち作りなどに頑張るんだよ?静岡から転入して来て、戸惑うことも多いだろうけど、そこは、華の女子高生同士だから、すぐにみんなと打ち解けられるだろう。」

「ありがとうございます、学院長先生。」

「君の、粟生野女学院での成績を、向こうの理事長先生から送ってもらって見せてもらったけど、

君の学力なら、この学院でもトップクラスに入れることは確実だと思ったから、

僕の独断で、入学試験はしなくていい。これは別に、コネでも何でも無いよ。

今まで君が、粟生野で頑張ってきた実績を踏まえて、僕がそう決めたことだからね。」

「あ、ありがとうございます!学院長先生!」

「で、クラスだが…。なんだって?青島さんのお父様は、君の事を、この大阪で、大学院まで行かせようとしてるみたいだね?」

「は、はい、そうみたいです。」

「そしたら、特別進学クラスがいいかな。」

「と、特別進学クラス、ですか?」

「あぁ。君は2年だったね?」

「はい。」

「では、ウチの学院は、各学年ともF組までの6クラスあり、F組が特進クラスだから、F組の担任を、あとで紹介しよう。」

「は、はい。私、勉強も部活も友だち作りも全部、頑張ります!」

「うんうん、その意気だよ。」

「じゃあ、エリカちゃん?」

「はい、おじ様。」

「今日はこれで戻ろうか。」

「え?今日から転入じゃないんですか?」

「あぁ、君の制服やらこの学校で使う教材やら全てを今、揃えてるところだから、あと2日ほど待ってくれるかな。」

「はい、分かりました。」

「転入初日は、今日と同じように、雅輝クンが付き添いで来てくれるから、安心してくれていいよ。」

「何から何までありがとうございます!」

「じゃあエリカちゃん、行こうか。車で藤坂クンが退屈してるはずだから。」

「あ、忘れてました。」

「あはは。じゃあ行こうか。」

「はい。」

「では院長、また2日後に。」

「そうだね。またね、青島さん。」

「はい、失礼します。」


そう言って、雅輝とエリカ、学院長との、長い転入話しが終わり、車へと戻って来て、助手席に座ってる藤坂を、エリカがそっと眺めると、藤坂は、すやすやと眠っていた。


「おじ様?」

「ん?なんだい?」

「藤坂さん、寝ちゃってます。」

「あぁ、今朝、私が早くに起こしちゃったからね。」


そう話しながら雅輝が車のドアを開けると、その音に反応して、藤坂が目を覚ました。


「やぁ、良く眠れたかい?」

「あ、お、お父様。あ、す、すいません、知らない間に寝ちゃってて。」

「いいっていいって。」


そして、エリカも後部座席のドアを開けて、車に乗り込んで来て、こう言って、少し藤坂をからかった。


「藤坂さん、良く寝てたねー。」

「え、エリカっ!」

「ごめんごめん。」

「で、お父様、エリカの転入はどうだったんですか?」

「あぁ、すんなり、一発OKだったよ。」

「ね、エリカちゃん。」

「はい。優しい学院長先生でした。」

「そっか、それは良かったね。」

「じゃあ、一度エリカちゃんを家に連れ戻してから、藤坂クンを私の会社まで乗せて行くから、エリカちゃんは今日は、残ってる荷物を片付けるんだよ?」

「はい。」

「それと、一人で出来ないことがあったら、遠慮なく直を使ってくれていいから。」

「え?お兄様を?」

「あぁ。」

「あいつ、最近は大学のゼミや講義にも出ないで少し家でくすぶってるからね。」

「そうなんですか。」

「全くしょうのないヤツだよ。じゃあ、一旦家に戻ろうか。」

「はい。」

「はぁい。」


そう言って雅輝は車を出し、学院から出て行った。


…飛鳥たちが既に学校で理事長と話しをしていた、同じ時刻。


ここは、いつもの停留所・上町線の姫松駅。

そして、天王寺駅前行きのホームの上では、真琴が電車を待っており、真琴の肩を、ポンっ!と叩かれたので、振り向くとそこには、

「まこ、おはー!」と、声をかける響香が居た。

「あ、響香、おはよう。」

「あれ?今日は飛鳥は一緒ちゃうんか?」

「うん。まだやねん。」

「どうしたんや?あのコ。休みか?」

「さぁ、分からんわ。」

「なぁなぁ、飛鳥にLINEしてみたら?」

「あぁー…。してみるわ。」


そう言って真琴は、飛鳥のLINEに通話した。

すると、2コールで飛鳥が出た。


「あ、まこちゃん?おはー。」

「"おはー"、ちゃうわ。あんた今、ドコにおんねんっ!」

「え?ガッコやけど?」

「は?!」

「あんた、もう登校してん?」

「うん。」

「なんや今日はえらい早いやんか?どないしたん?」

「あー…。それはな?」

「なんや?」

「なぁ、その電話の向こうって、誰もおらん?」

「誰も、って?」

「例えば、鈴原さんとか。」

「おらんおらん。おるのは響香だけや。今まだ姫松やからな。」

「そか、なら言ってもええか。エリカさんな、ウチらのガッコへの入学、決まったで。」

「え?!マジ?!わーい!!あ、電車来てもうた。」

「ほな、詳しい話しはまた学校で言うわ。」

「うん、ほなあとでなー。」


そう言って真琴は通話を切って、響香と2人でラッシュタイムのいつもの電車に乗った。

その車内。


「なぁ、飛鳥、なんて言ってたん?」

「あぁー、まぁ、話すとめっちゃなごなんねん。とてもやないけど、阿倍野着くまでには完結なんて出来でけへんから…。」

「そか。」

「なぁ、今日、放課後空いてる?」

「今日?」

「うん。」

「今日は、確か何もないはずや。あってもキャンセルする。」

「ほんなら、ガッコ終わったらLINEしてぇな。」

「え?」

「その、さっきの飛鳥が言ってた長話したるから。」

「あぁ、うん、分かった、ええで。」


そう話している間にも電車は松虫駅を過ぎ、次は阿倍野駅になったので、響香は、真琴に、


「ほな、夕方な。」

「うん、学校頑張ってや。」

「真琴もな。飛鳥にもよろしく。」

「はーい。」


そう挨拶を交わし、響香は阿倍野駅で電車から降りて行った。

響香や他の乗客たちを降りした電車は、終点・天王寺駅前に向かって、ゆっくりと真新しいいつもの軌道上を走っていた。

そして、2分ほどでホームに滑り込み、真琴を含む乗客たちが一斉に降車し、改札口で駅員の前でIC定期をタッチしたり、小銭を払ったりして駅から階段で地下へと降りて行った。

真琴も、いつもの地下街を通り、エスカレーターで地上に出て、JR天王寺駅のコンコースを歩いていると、後ろから、柚梨川が声を掛けて来た。


「くっすのっきさーん!」

「あ、菜々子ちゃん、おはー。」

「ま、ま、真琴さんから、名前で呼ばれたっ!きゃー!こんなに幸せな朝は無いっ!」

「な、なんやねん、それ。同じ同級生なんやから、当たり前やんか。」

「そ、そうやけどな。」

「で、その後、どうなん?」

「え?何がですか?」

「ウチの私設ファンクラブ。」

「あぁ、えぇ、おかげ様で、100枚作った会員証があと20枚くらいしか残ってませんわ。」

「えぇー?!もうそんなに無くなったん?!」

「そらそうですやん。

今、ティーンに一番人気ある楠木真琴さんがやで?同じガッコにおるんやから。」

「そらそうやけど…。」


などと話しながら歩いているうちに2人は学校に着いて、昇降口で上履きに履き替え、それぞれの教室へと向かった。

その途中。


「あ、楠木さん?」

「んー?」

「今日、数日振りにお昼、一緒しません?」

「あぁ、今日はちょっと無理なんよ。飛鳥と2人で大事な話しがあるから。」

「そうですかー、ほなまたの機会に。」

「うん、ごめんな。」

「じゃあ。」

「はーい。」


そう言って真琴はA組に入って行った。すると、飛鳥は勉強机に向かって、今日の予習をしているみたいだったので、真琴が飛鳥に声を掛けた。


「あーっすか!」

「あ、まこちゃん、おはよー。」

「おはよー、ちゃうわ。ビックリしたやないか。いきなりあんなこと。」

「ごめんな。でも、嬉しいやろ?」

「そらな。で、いつから転入して来るん?」

「さぁ、そこまでは聞いてないけど、近々、やろ?」

「そうなんや、嬉しいな。」

「そや、あんなぁ?」

「なに?」

「響香にな、エリカさんと藤坂さんの関係、どう説明したらええと思う?」

「え?ありのままに説明したらええんちゃうん?」

「えぇー?!それって、大丈夫なんかな?」

「ええで、私が説明するから。」

「ホンマ?」

「うん。で、響香ちゃんとは会えるん?」

「あぁ、うん。今日の放課後、LINEする、言うといたから。」

「ありがとうな。」


そんなこんなであっと言う間に放課後が来て、真琴が、学生鞄の中に入れておいたスマホを取り出すと、響香からメールがあったので、LINEを開く。


「今朝の話しやけどな、HOOPのスタバで待ってるわ。学校終わったら来てなー。」


と言う内容だったので、それを、飛鳥に伝え、授業が終わると、真琴は、飛鳥の手を引き、2人で走って教室を出て廊下を歩く。

B組の前を通過しようとした時、鈴原に声を掛けられる。


「あ、楠木さん・悠生さん!」

「え?あ、鈴原さん、何?」

「"何?"ちゃいますよ!どっか行くんですか?部活は?」

「ごめんな、今日はウチら、ちょっと用事があって、部活、出られへんねん。せやからまた今度な。」

「ごめんね、鈴原さん!ほなねー。」

「あ、あ、ちょ、ちょっと!!」


そう言って2人は鈴原を振り切って早歩きで昇降口まで向かい、下駄箱で革靴に履き替えて、響香の待つ、HOOPにあるスタバへと走って向かった。


「はぁ、はぁ、ちょい待ってぇな、飛鳥。」

「もぅ、まこちゃんは体力無さ過ぎやねんっ!」


そう話しながら、学校から20分ほどで、HOOPのスタバに着き、店内に入り、

響香の姿を見つけると、真琴と飛鳥は、響香が待つテーブル席へと向かった。


「響香、ごめーん、遅なって。」

「いいって、いいって。」

「やほ、響香ちゃん。」

「おー、飛鳥。」

「なぁ聞いてぇな。」

「ん?」

「まこちゃんな、相変わらず足、遅いねんで?そやから今も遅なってん。」

「そうなんや。相変わらずやな、真琴。」

「う、うっさい!」

「2人とも、何かドリンク買うて来たら?」

「せやな。」


そう言って2人はカウンターへ行き、それぞれ好きなドリンクを注文し、

響香の元へ戻って来て、2人とも椅子に座った。

そして、真琴が話しを切り出した。


「えーと、朝の話しの続きやけどな?」

「あぁ、うん。そや、それが本題やねん!で、なんやったん?」

「あんな?藤坂さんと、その妹さん、覚えてる?」

「あぁ、そら覚えてるわ。なんて言ってもサインしてもろて握手もしたし、歌まで歌ってもらったからな。」

「でな、その2人な、今な、飛鳥の家で、飛鳥や直兄と一緒に生活しとんねん。」

「は?」

「…まぁ、そうなるわな。それが普通の反応や。」

「でな、ここからが重要なんやけどな?」

「うん。実はな、あの2人、兄妹ちゃうかってん。」


「は?」


「…うん、それも正しい反応やな。ある日な、学校の昼休みにな、仲良うなったコらと飛鳥とでお昼食べてたらな、藤坂さんからLINEの電話が来てな?

"妹が高熱出して大変なんだよ!"って言うな、ものすんごい焦ってた内容の電話があってん。」

「そんなことが…。」

「うん。でな、ウチと飛鳥がな、急いで藤坂さんと妹さん…、エリカさんが泊まってるホテルまで向かってん。あ、ココの上な。」

「あぁ、マリオットホテルな。」

「うん。」

「さすが、芸能人やな。あそこ、超高級ホテルやんか。」

「せやねん。それもな、むっちゃ上のフロアの、超豪華なスイートやってん。」

「凄いな。」

「まぁな。で、そこは問題ちゃうねん。問題はエリカさんや。」

「エリカさん、って、あのちっちゃくて可愛らしかった子やろ?」

「そうそう。でな、飛鳥がな、額の濡れタオル取って、手でエリカさんの肌に触れたらな、ホンマにむっちゃ高熱やってん。」

「そら大変やな。」

「でな、お医者さん呼んだんですか?って聞いたんやけどな。ハルカスにな、クリニックフロアあるやん。」

「あぁ、あるな。」

「そこのせんせがな、外来で忙しかったらしくな、なかなか来られへんかってな、ウチらが藤坂さんの部屋に着いてから1時間くらいしてようやく来たわ。」

「そうなんや、で、エリカさんどうなったん?」

「うん、何か、コッチ来ていろいろあり過ぎて、疲労で高熱出したみたいで、問題は無い、ってせんせ言うてたわ。」

「そうなんや、良かったな。」

「でや、こっからや。」

「何が?」

「私がな、"これは一つの提案なんやけど、お2人で大阪に引っ越して来られたら?"って提案してん。」

「そうなんや。で?」

「ほんならな、エリカさん、しんどいながらもな、藤坂さんにむちゃ訴えて来てん。」

「なんて?」

「"ホントのこと、2人に話して。"ってな。」

「"ホントのこと?"…、なんなん?それ。」

「そうなるやろ?でな、藤坂さん、ウチらに向かってな、いきなり正座して平謝りしてん。」

「平謝り?なんで?」

「聞いて驚きなや?」

「う、うん。」

「実は何とな、あの2人な、兄妹ちゃうかってんて!!」


「は?」


…。

と、2分くらい、3人の間がシーンとなって、響香が驚いた。


「は?な、なんなんそれ?」

「そうなるやろ?でな、藤坂さんからな、"実は僕たちは恋人同士だったんだ!今まで君たちを騙してて本当にごめんなさい!"て、言われてん。」

「はぁ~??!!なんなんそれ?」

「まぁ、それが正しい反応や。」

「あの2人、カップルやってんて。」

「そ、そうなんや。ほ、ほなあの、えーと、エリカさん、やったっけ?あの子は?あの子はなんなん?」

「これも聞いたらビックリするで?」

「なんや言うてみぃ。ここまで言われたらもうちょっとやそっとじゃ驚かんわ。」

「絶対驚くから。なぁ、"青島貿易"って知ってるやろ?」

「そら知ってるわ。知らんわけないやん。」

「あのエリカさんな、その、青島貿易の一人娘のご令嬢やってん。本名は、青島エリカさん。」

「って、は?ってか、えーー??!!“藤坂エリカ”ですって、自己紹介してたやん!!!!!」

「ほら、驚いた。」

「ほ、ほな、あのちっちゃい子、今いくつやねん?」

「それも聞いて驚け。なんとな、ウチらの1コ上の高校2年生や。」

「うそーん?」

「ほんまやって!ちゃんと学生証見たんやから!な、飛鳥。」

「うん。」

「それで終わりか?」

「いや、まだ後日談があんねん。」

「まだあるんかい。」

「うん、エリカさんの熱が下がってから2日ほどしたある昼休みにな、飛鳥のスマホに、エリカさんから電話があってん。」

「そうなん?」

「うん。」

「ほな飛鳥、ここからはあんたがお願い。ウチ、喋り疲れたわ。」

「分かった。でな、電話があってな、"今度、飛鳥さんのお家、お邪魔していいですか?"って言うて来てん。」

「そうなんや、で、来たん?」

「うん、藤坂さんと一緒にな。」

「えー!そんなん、あんたらばっかりずるいわー、ウチも呼んでぇなー!」

「まぁ、そうしたかったけど、こっちも急なことにビックリしてな。」

「そらそうやわな。」

「で、2人に上町線の乗り方とか教えてな、家に招待してん。」

「うんうん、ほんなら?」

「ほならな?その日、ちょうど土曜日やってん、この前のな。」

「うん。」

「で、私の部屋でな、みんなでワイワイしてた時にな、お父様が部屋に来てん。」

「おじ様が?」

「うん。」

「その時やったかな?エリカさんが、エリカさんのおじ様に電話したん?なぁ、まこちゃん。」

「そうやったで?」

「そうそう。ほんでな、私のお父様な、何でも経済界の会合かなんかでな、何度かエリカさんのお父様と会って話しとかもしたことあるらしいねん。」

「あんたのおじ様、凄い人やからな。」

「そうかな。でな、エリカさんがな、お父さんと話ししてな、私らと同じな、鈴ヶ丘に転入したい!って電話で話ししてん。」

「そうなんや。ほんなら?」

「うん、そっからは親同士の電話や。私のお父様とエリカさんのおじ様が長電話してな、エリカさんの決意も固いみたいやから、って、

エリカさんのおじ様が折れてな、エリカさんが大学院を卒業するまでな、エリカさん、私の家で住むことになってん。」

「えーーーっ?!!ほ、ほな今頃はあんたの家にあの子、おるんかいな?」

「多分おると思うで?今日は朝、学院長先生と転入の話しだけで、そのあと、お父様と一緒に帰ったから。」

「で、藤坂さんは?藤坂さんはどうなったん?」

「あぁ、藤坂さんも今、家におるわ。」

「ま、マジっすか…。すげーな、あんたの家に芸能人住んでんかいな。」

「まぁ…。で、お父様がな、藤坂さんの大阪での住まいが見つかるまでは、エリカさんと同じ部屋で生活しなさい、って言ってな、今、私の部屋から近い部屋で2人で生活してるわ。藤坂さんのマンションは、お父様が探してるみたいやしな。」

「す、凄い展開やな…。」

「それとな。」

「ま、まだあるんかい。」

「藤坂さんな、芸能の仕事がある時は、芸能優先なんやけどな、それ以外の時はな、お父様の会社で働くことになってん。」

「そ、そうなん?」

「うん、多分今頃藤坂さん、お父様の会社におると思うで?今朝、スーツ着とったからな。」

「そうなんや…、凄いな。」

「凄いやろ?」

「うん、いろいろ驚きすぎたわ。」


そして、これまでの、エリカと藤坂が、飛鳥の家に落ち着くまでの経緯を全て話した2人は、


「ふぅ~…。」と、一息付いて、ラテをチューっと飲んでくつろいだ。


「はぁ~…、世の中って分からんもんやなぁ…。」

「まぁな。」

「そやねー。」


「あ、そや!飛鳥っ!」

「ん?なに?」

「先輩は?!あれから先輩とはどうなったん?!!」


「うっふふ~ん!これも多分、この子から聞いたら響香、驚くで。」

「なになに?気になるからはよ教えてぇな。」

「じっつはねぇ…。」

「うんうん。」

「今度の日曜日、千春先輩とデートに行くことになりまっしたぁ~!!」

「って、えぇ~?!ま、マジ?それ?」

「マジマジ、大マジっすよ。響香さん!」

「で?で?ドコ行くん??!!」

「じゃーん、なーんや、これ?」

「ん?あ、神戸のガイドブックやんかっ!!」

「そや?」

「ほな、あんたと先輩、今度神戸行くんかいな。」

「うん。」

「どっちからデート誘ったん?」

「私や?」

「うそーん?あんたが?あんたがそんなこと出来るわけないやんかー。」

「響香ちゃん、それはヒドいわ!私かてやる時はやるんやから。」

「この子な、先輩と話せるようになったんやで?」

「え?そ、そうなん?」

「凄いやんか!あんた、凄い進歩ちゃうん、それ!」

「う、うん、ありがとう。」

「頑張りや、ウチも真琴も、あんたらのこと、応援してるでっ!!」

「ありがとうな、響香ちゃん・まこちゃん。」


と、幼馴染の女の子3人で、スタバで長居しているところへ、飛鳥のスマホに電話がなった。


「はーい、もしもーし。」

「あ、私、エリカです。」

「あぁー、エリカさん。今朝はお疲れ様でしたー。」

「こちらこそありがとうね。」

「いえいえ。」

「で、今、ドコで何してるの?」

「あぁ、ガッコ終わったんで、まこちゃんともう一人、カラオケの時に一緒だった藤坂さんのファンの子、覚えてます?」

「あ、うん、覚えてるよ?」

「その子も混ぜて3人で、阿倍野のスタバ…えーと、エリカさんたちと最初に出会ったトコで茶ぁしばいてます。」

「しば…いてる、って?なに?」

「あ、すいません、いつものクセで。」

「スタバでお茶飲んでる、って言う意味です。」


電話の外では響香が真琴に話しかけていた。


「なぁなぁ、エリカさんって、さっき話ししてた?」

「そうやと思うで?」

「で、どうしました?エリカさん?」

「あぁ、今日、何時頃帰って来るのかなぁ?って。」

「多分あと1時間くらいしたら帰ります。」

「そっか。」

「エリカさんは今日は何してたんですか?」

「あぁ、うん。

今日は藤坂さんも一日おじ様の会社ですし、残ったダンボールの中の整理をしてたの。」

「そうですかー。」

「だいぶ片付いたわ。」

「良かったですー。で、ウチの学校にはいつから転入出来るんですか?」

「あぁ、それを言おうとしてたのよ。

今朝あのあと、飛鳥ちゃんが部屋から出て行ったあと、学院長先生と話ししてね、そしたら今、制服とかいろいろ準備してくれてるみたいで、2日くらいしたら揃うから、そしたら正式に転入出来る、って言ってたわ。」

「そうなんですね。で、何組でした?」

「それがね、特進のFクラスだって。」

「え~~??!!F組ですか??!!」

「うん。」

「もしかしてエリカさんって、むちゃ頭いいんじゃ…。」

「そんなことないわよ。」

「そ、そうなんだ。」

「でもまぁ、楽しみ。あ、吹奏楽部には入ってくれるんですよね?」

「え?あ、うん、そのつもりよ。」

「わーい。ほな、帰ったらまた詳しい話し、聞かせてもらいますんで。」

「あ、うん。じゃああとでね。」

「はーい、またー。」


そう言って2人は電話を切った。


「なぁなぁ飛鳥、エリカさん、なんやて?」

「あぁ、うん、2日くらいしたら正式にウチらのガッコに転入出来る、って言ってたで。」

「ほんま?それは嬉しいなぁ。で、吹奏楽部には入ってくれるって?」

「うん、入りたい、言うてたわ。」

「良かった~!!」

「ほんまやな~。」

「なぁなぁ。」

「なに?響香ちゃん。」

「今度さ、改めてその、エリカさん、紹介してぇな。」

「あぁ、そうやね。むちゃ優しくていいヒトやで。」

「そうなんや。」

「うん。」


と、そこへまた、飛鳥のスマホに電話があった。


「も~う、今度はだれぇ~?」


と言い、飛鳥が電話に出ると、父の雅輝からだった。


「やあ、飛鳥かい?」

「あ、は、はい、お父様。」

「飛鳥は、今ドコに居るんだい?」

「えと、まこちゃんや響香ちゃんと3人でHOOPのスタバでお喋りしてました。」

「そうか。今、藤坂クンを家まで送っていく途中で車運転してるんだが、今、谷九付近に居るんだが、HOOPに居るんだったら、近鉄の横でお前を拾って一緒に家に帰らないかい?」

「え?あ、分かりました。谷九だったらすぐに着きますよね?」

「あぁ、道路もそんなに混んでないからすぐ着くと思うよ。」

「そしたら私、いつものトコで待ってます。」

「分かったよ。じゃああとでね。」

「はーい。」


そう言って2人は電話を切った。そして飛鳥は2人に向かってこう言った。


「ゴメンね2人とも。もうすぐお父様が車で迎えに来る、って言ってるから私、今日はこれで帰るね。」

「え?あ、う、うん。」

「あっすか!」

「なに?響香ちゃん。」

「藤坂さんによろしくね。」

「あ、うん、分かったよ。」

「気ぃ付けて帰りや。」

「ありがとう、まこちゃん。ほな2人とも、今日はここで帰るわ。」

「はーい。」

「またなー。」


そう言うと飛鳥は、学生鞄を持って急ぎ足でスタバを出て、父との待ち合わせ場所に向かって行った。


…その後、飛鳥が出て行ったあとのスタバでは。


「なぁ真琴?」

「何?」

「飛鳥、ホンマに先輩とデートするんかいな。」

「うん、そのつもりらしいで。」

「あの子もちょっとは変わって来た、ってことやろか。」

「せやろなー。多分、藤坂さんとエリカさんの仲を見て、心境でも変わったんちゃうか?」

「そっかー。」

「なぁ、響香?」

「なんや?」

「このあとどうする?」

「そやなー…。少し近鉄の中ウロウロしてからウチらも帰ろか。」

「そうしよそうしよ。」


そう言って2人もドリンクを飲み終え、スタバを出て行き、近鉄百貨店へと向かった。

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