第18話 シコティッシュの行方
俺は今大きな問題に直面している。
『自由にオナニーが出来ない』
引っ越しの際に分かったことだが、俺はなんと5年も一人暮らしをしていたらしい。なんと実の無い時間だったろうかってのはさておき、俺は5年も自由にオナニーをしていたことになる。
自由なオナニーとは、何物にも干渉されず、真っ直ぐに前だけを向いて、道を究めていくことだ。具体的に言うと、全裸でVRゴーグルを付けて腰を浮かし、声を上げながら腹の上に出し、それを拭き取ったトイレットペーパーをその辺に放置し風呂に入るというのを毎日行い得ることだ。
なんという贅沢か!
我々は初め、自由にオナニーをしていた。馬鹿だったからだ。馬鹿なので、バレるという感覚すら持っていなかった。
しかし次第に、オナニーしてることが親にバレていると何となく知る。原因は音漏れだったり、揺れだったり、シコティッシュだったりするんだろうが、原因は分からなくともバレていることは何となく分かるものだ。直接言って来たりはしないが、馬鹿でも感じ取れてしまう。
ここで一度葛藤があるのだが、大抵は「まあいいや」と開き直り、今まで通りおそらくはバレているであろうオナニーを続行するだろう。バレているということを極力考えないようにして、そうでありながら、直接見られてなければバレてないのだと自分に言い訳する。
なので、実家暮らしだろうと、制限こそあれ、概ね自由にオナニーが出来ていることだろう。
しかし俺の場合、いったんリセットされてしまった。幸か不幸か、親からの俺への認識として、“オナニー”というものが抜けてしまっているのだ。君たちはずっとシコシコ侍と思われているわけだが、俺のシコシコ侍は忘れられているのだ。
ならば、忘れたままでいて欲しいではないか。
男として、誉れ高きもののふでありたいと思わずにいられまい。
だが、シコりたいではないか。射精したいではないか!
毎日シコる生活を5年続けた俺は、2日シコらないだけで気が狂いそうになる。俺は昔から情動が抑えきれなくなると、行ける範囲の風俗を調べ出すという癖があって、実際にはどうせ行かないくせに、口コミを参考にして優良店を見つけ、その店の在籍嬢何人かに目を付け、やはり口コミや日記などで人となりを知り、その内の一人に夢中になり、その子が出勤する日にフリーで入って、指名料を払わずにその子とやるんだ、みたいな計画を立てる。どうせ行かないのに。つまり時間を無駄にしてるんだ。シコるのも時間の無駄と言えば無駄なのだが、俺はシコらなくても性へ時間を浪費するのだ。
俺は快楽のためというよりも、健全であるためにシコる必要がある。だが親にはバレたくない。なので、バレずにシコる方法を考える。
まず思い付くのは、夜中に外で行うというものだ。これならバレようがないが、俺は非行少年じゃないので、夜中に出歩くのは少し面倒だったりする。大きな音が出るし、どこ行ってたのみたいなやり取りも面倒だ。それに親にはバレなくても社会にバレるリスクがある。却下だ。
というか俺の心はもう決まっている。家でやるだろ。普通に。
家で行う際、一番問題になるのはシコティッシュだろう。こいつは実にやっかいで、匂いと物体が残る。
匂いの方は、昔ネットで見た「すぐにゴミ袋に入れて空気を抜き、口を縛る」というテクニックが有用で、実際に全然匂いが残らないのだが、実家暮らしだとゴミ袋を貯める機会が中々無い。もちろん用意できないことはないから、一つのゴミ袋にその都度入れていけば良いのだが、そのシコティッシュを貯めた袋を親に見つかった場合、そのあまりの猟奇的な光景と鼻を劈く香りにクラクラきちゃうだろうし、俺は死ぬしか無い。やはりリスクはあるのだ。
また、俺は鼻炎なのである程度言い訳が効くが、ティッシュの消費量も気になる問題だ。昔、「あんたティッシュどんだけ使うねん」みたいな事を言われたことがあるが、これが“匂わせ”なのだ。
というかもうシコるわ。袋に貯めて引き出しに入れて折を見て捨てりゃまずバレないだろ。というかバレても良いわ。めんどくせぇチンポくせぇYOYO! 俺の睾丸で君は紅顔! それでも俺は無知で厚顔! 俺に鞭打ちこれで手打ちっザーメーン!
人を愛するにはまず自分を愛さなきゃいけないって、誰かが言ってた。
俺もそう思う。
自分を愛してるから、人を愛したいって思うんだ。
俺の好きな自分は、人を愛せる自分だから。
自分を愛してない人は、どこまでも相手を愛しちゃう。
それって、危険だよね。
でも、自分のために人を愛したら、きっと間違った愛は生まれなくなるよ。
これって、利己的なのかな?
そうかもしれない。
だって、世界は自分だ。
皆が自分勝手に生きたって、世界に愛は成立する。
自分を愛してさえいれば。
そう、俺は信じてる。
アメーン。
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