第15話 最終面接最終対策

 前回のオチは我ながら素晴らしかった。ああ今回はこういうオチねと予想させてからの、斜め上のオチ。自画自賛せずにはいられない。

 それだけに、最後に要らない話を付け加えたのが悔やまれる。自分に課している文字数に達していなかったので何か書く必要があったのだが、肉の部分を付け加えるべきであった。既に書いた部分に付け足すのはコストが掛かるので書くのを面倒くさがってしまい、コストの掛からない、既に持っている話をサラサラッと書いてしまった。血の宿命だ。


 日記形式で書いていると、どうしても尻すぼみになってしまう。始めたばかりの頃は気合い入ってるから頑張って書くんだけど、書きたいことを書き切り過去も消化しきったら、現在だけで勝負しなくてはならないし、当然人生なんてそうそう面白いこと起きないから、薄味になっていく。なので、毎日更新とかの目標を掲げていると、「うんちがいっぱい出たw」みたいな話を500文字くらいで書くしかなくなって、読者に「記事が溜まってから読めばいいや」と思わせてしまい、興味のランクが1段階落ちてしまう。そうなると、気持ちが離れていくのが早まる。

 もちろん日記を書いてる奴は主に自分のために書いてるだろうから、全然構わんよと言うかもしれないが、わざわざ公開している以上は読者に何かしらの影響を与えようと思っているはずだ。

 そんで、簡単に影響を与えられるのが、文字数だ。

 文字数さえそれなりに書いておけば、少なくとも「読んだ」という達成感を、薄くとも与えることが出来る。更新された際に「まあ読んでやるかな」と思わせるためには、この何かちょっとでもプラスの感情を得られそうな予感が大事になってくるのだと思う。

 薄い記事が続くと、「今日も薄いだろうな」というマイナスの予感があり、実際に薄かった際に「敢えて読む必要ないな」の方向へ行ってしまう。

 もう一つ思うのは、ネガティブな事を書きすぎない方が良い。

 普通に生きてたら良いことより悪いことの方が頻繁に起こるから、どうしてもネガティブに寄りがちだが、やはり自分に目を向けすぎず、読者を意識すべきなのだ。他人の人生を見るという点で既にニッチなのに、その上他人の愚痴を延々と見るなんて、読者を選びすぎる。

 そもそも自分のためだとしても、ネガティブなことを書いて気持ち良くなる人間じゃダメだろう。我々は意識高いから日記なんて書いちゃってるんだろうに。

 ネガティブを控えめに、文字数さえしっかり書いておけば、それなりになるはず。


 文字数稼ぎが終わったので本題に入る。

 最終面接最終対策の時間だ。次の面接が俺の人生最後の面接になる。なので、今まで何度かやってきたが、面接対策も最後になる。

 次の面接は絶対に受からねばならない。うっ……頭が……


 前回友人に頼んだ農場だが、なんとか面接にまではこぎ着けられそうだ。やはり大事なのはコネだ。コネさえあれば人生は輝く。

 詳細はまた連絡するとのことだが、概ね今週の土曜に面接が行われるだろう。俺の決戦の時だ。俺は俺でホラ貝のバイトを雇おうか。それほど気合いが入っている。

 正直面接にさえ行ければ、俺は絶対に受かる。その自信がある。

 だが、これは俺の最終面接。万が一でもあってはならない。なので最終対策をさせてくれ。


 面接へ臨む際に一つだけ気がかりな点がある。

 先方曰く

「正直人手は足りている」と言うのだ。

 素人はこれで絶望するのだろうが、俺は違う。何を目的とするのかがはっきりと見えていれば、もちろん不利には働く要素だが、慌てる必要は無い。

 何を目的とするか。

 俺は今回、金をあまり必要としていない。俺の目的は、最低限の農業的素養を身につけることだ。実家に帰るので、もちろんある程度金は入れるだろうが、それでも一人暮らしよりは金に余裕がある。

「正直人手は足りている」発言を考察するに、それの意味するところは

「あまり日数入れることが出来ない」→「あまり稼ぐことが出来ない」つまり、「あまりお前に金は出せないよ」という話なのだ。

 だからこそ、問題ない。俺が求めるのは金ではなく技術だ。

 面接の際に、絶対に金の話になる。あまり出せないって話だ。そこで、俺は食い気味に言う。

「お金はなんとかするんで大丈夫です。そうですね~実家に3万は入れるとして……月4万ほど貰えたら大丈夫です!」

 惚れ惚れする回答だ。金の話の際、どうもボカして話しがちだが、具体的な話をした方が手っ取り早い。しかも、お小遣い1万円宣言である。この覚悟。笑いを誘いつつ、覚悟をこれでもかとアピールする。この覚悟を見たら、多分月5万までは上げてくれるだろう。向こうに上げさせるのだ。

 ちゃんと実家に金入れるアピールをしているのも見逃せない。年配の方には好意的に映るはずだ。

 金の話を、転じて自己アピールに利用する。向こうは普通より安く労働力を得て、俺は技術を得る。きちんと目的を見据えることが大事なのだ。


 金の他に、絶対に聞かれるであろうことがある。

「何故農業なのか」

 これの答えも固めておいた方が良いだろう。

 ここで気をつけるのは、消去法的に農業を選んだのだと思わせないことだ。よくありがちな、会社員との比較で、会社員はこうこうこうだから農業をやりますだと、結局消去法で選んだのだと思われてしまう。

 なので、農業を積極的に褒める必要がある。

「まず、生きていくには働かなくてはならないという事を、ここ数年で身をもって実感したので(1笑い)、これから先働いていくなら、何かやりがいを感じられる仕事をしたいと思いました。なので自分にとってのやりがいを考えた際に、僕はこう見えて自分にめちゃめちゃ自信あるので(2笑い)、自分の要素が強く出る仕事がしたいと思いました。現状僕は農業の知識が全くないので間違ってても大目に見て欲しいんですけど(3笑い)、農業って、自分の頑張りが反映されやすいのかなと思ってて。もちろん自然相手なんでどうにもならない点もあるでしょうけど、成功しても失敗しても結果が目に見えて、トライアンドエラーのトライもエラーも自分の近くにあるのかなと。そういうのって農業ならではなのかなと思いまして。例えば会社勤めとかだと、自分が何で怒られてるのかわからんですからね(4笑い)」

 これは長すぎるので全部言うわけではなく、この中からその場の空気にあった言葉を選ぶのだが、どれを選んでも対応できるだろう。完璧だ。採用!


 そういえば、もう一つ気がかりな点があった。

 電話だけで分かる。先方はマッチョだ。

 俺は由緒正しきオタッキーなので、当然もやし体型で、マッチョは天敵だ。

 それでもやらねば!



 まあ結局、人手が足りてるのに面接してくれるってんだから、やる気を示せば買ってくれるだろう。結局は熱意なのだ。


 今日はオチがなくても良い日である。この感じが分かるようになれば一流だ。

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