家出少女な転校生

シロン

第1話 俺の日課と転校生

俺は読書が好きだ。

読書をしているときが唯一、俺が心を落ち着かせる事のできる時間である。その読書の時間を守るため俺は放課後、いつも人気の無い屋上で本を読んでいる。

基本的に昼休み以外は生徒がいなくて落ち着けるから読書をするには、うってつけの場所だ。だが、今日は違ったらしく、珍しく屋上への扉が開く音がする。

俺はすぐに扉から出てくる人からは見えない位置に移動して息を潜める。何故こんなことをするかというと、俺が屋上が放課後は人気ひとけが無いのを知っているように他の生徒たちも屋上が放課後は人気ひとけがなく静かなことを知っている。それを踏まえた上で、この屋上がどんな場所なのかというと、他の人には気にされず告白ができる場所ということだ。

つまるところ俺は告白の邪魔にしかならないということなのだ。息を潜めながら告白が終わって早く帰ってくれないかと待っている中、まだ一人しか来ていない事に違和感を覚え少し様子を伺うため入ってきた人物が見える位置に移動した。するとそこには先月、俺のクラスに転校してきた椎葉心愛しいばここあが立っていた。

何で椎葉がここに来るんだ?俺はそんな疑問を頭に浮かべた。だが、理由はすぐに予想ができた。彼女はおそらく誰かに呼び出されたか、呼び出すかしたんだと思った。

俺は見つからないようにまた、屋上の死角ともいえる場所に身を隠そうとしたが、持っていた本を落としてしまい音を立ててしまった。本を落とした時の音に気付き椎葉がこちらを向くのと本を拾う時間は同じ位で俺は椎葉に見つかってしまった。

ひいらぎくん?そんな所で何してるんですか?」

俺が放課後に屋上にいる事を知っているやつはクラスに数人いるかいないかくらいなので先月、転校してきた椎葉が知っているはずはないので当然の疑問である。

「読書してるだけだ」

そう簡潔に答えて会話を切り上げていつもの位置に座るが椎葉は何か言いたげにこちらを見ている。

「なにか用があるのか?」

そう聞いてみたが、俺に対しての用事があったら放課後ではなく俺が教室にいるタイミングで声を掛けてくるだろうということに気づいた、が聞いてしまったからには相手の返事を待つしかない。

「え、えっと、隣座ってもいいですか?」

なにやら用事はあったらしい。そして誰かに呼び出されたわけではなさそうだった。読書を続けたい気持ちもあったが聞きたい事もあったので話を聞くことにしてみる。

「どうぞ、座りたいならご自由に...」

俺は少し横に移動して椎葉が座れる場所を作る。

「そ、それじゃあ...失礼しますね」

そう告げて椎葉は隣に腰を降ろす。

少し様子を見ていて思ったのだが俺との会話の時だけ少し緊張しているように感じる。それは俺の勘違いの可能性も高いので今はあまり気にしないでおくことにした。

「学校にはもう慣れたか?」

俺はそう質問した。転校してきた椎葉の面倒は女子にではなく席が隣の俺が引き受けることになったのだ。正直に言うと面倒だが担任や椎葉本人(屈託の無いとても良い笑顔で)に頼まれたのだからしょうがない。俺は人から頼まれると断れないのだ。つまるところ俺はお人好しだった。

(自分で言ってて悲しくなってくるな)

そんな事を考えていたら椎葉から質問の答えが返ってきた。

「は、はいっ、クラスのみなさん親切ですし、柊くんも優しいので」

ちょっとしどろもどろしていたが良い答えが聞けたので安心したが、俺が優しいなんて言われて少し照れくさかったが、椎葉が思っていることなのだから否定することはめておいた。俺は「そうか」とだけ答えて次の質問をした。

「今日はどうして屋上に来たんだ?椎葉はいつも帰りのホームルームが終わったら居残りせずに帰っていた気がするんだが」

椎葉が転校してきてから俺は一度も椎葉が学校に居残って何かをしているということを聞いたことがなかった。面倒を見るように言われていたが放課後まで含まれている事は無いと思い放課後は読書の時間を優先していたからたまたま、俺がなにも知らないだけなのかとも思ったが、椎葉は転校生だ、何かあればすぐにでも噂になると思う、だからそういう話を聞かなければ何も無かったのだと判断できる。彼女に誰かが告白したという噂も無かったので俺が知っている限りでは椎葉が学校に居残っていることは無かったと思う。だから俺は今日、椎葉が屋上に来たことに多少の違和感を持っていた。そんな事を思っていると椎葉から答えが返ってくる。

「きょ、今日はちょっと柊くんにお願いしたいことがあって探してたんです」

そう言われ俺は少し考えて出てきた疑問を伝えてみる。

「俺に頼み事なら教室にいるときでも良かったんじゃ無いか?」と言うと

「教室だと他の人がいるので話しづらいので」と返された。

(他の奴がいると話しづらいことってなんだ?)俺がそう考えている中、椎葉は続きを話している。

「で、でも別にそこまで大したお願いでは無い訳じゃ無いんですけど......」

と椎葉は最初は普通だったが少しづつ声が小さくなっていきしまいには黙って俺の方をじっと見てきた。

(これは、俺を待ってるんだよな)

と思ったが内容がわからないままではどうしようも無いので俺は内容を聞くことにした。

「じゃあ、とりあえずその頼みの内容を聞いてもいいか?それを聞いてから決める。それでもいいか?」と伝えると「わかりました」と短い返事がが聞こえたので少しの間待っていると小さな声で「よし、大丈夫」という声が聞こえた。

「え、えーとね」と椎葉が言ったタイミングで俺のポケットのスマホから着信音が鳴った。

「すまん、ちょっと待っててくれ」

俺はポケットからスマホを取り出して表示されている名前を確認し、電話にでるかでないかを少し考えて結果出ることにした。

「もしもし?」

『やっとでた~電話にでるの遅いよ~』

と電話の主は間の抜けた声でそんなことを言ってくる。

「用件はなんだ?人待たせてるからさっさとしてくれ」

『あぁ、ゴメンゴメンちょっと気になったからかけてみただけなんだよ』

俺はこの時点で頭に?を浮かべた。俺に今、電話をかけてきているこいつは小鳥遊明日葉たかなしあすはだ、俺の数少ない友人の一人でクラスメイトでもあり、いい奴なのだが、人をからかうのが趣味というちょっとおかしな奴である。用件を聞こうとしたが電話越しにクスクス笑っているのが聞こえたので俺は電話を切って椎葉の頼みを聞こうとすると、また携帯の着信音が鳴る。しょうがないので電話に出ると

『何で切っちゃうのさー!!』

と耳をつんざくような大きな声で言われた。

「無性に腹が立ってな、すまん」

と一応謝っておく。すると明日葉は

『ミラージュの新作パフェ2つ奢ってくれるなら許す』

ミラージュと言うのは学校の最寄りの駅から徒歩5分にある行きつけの喫茶店である。

「お前、自分で切られる理由作っといてそれは無いだろ」

ミラージュのパフェは一つひとつが高く新作ともなれば1500円位になる、それが2つともなれば親からの仕送りで生活している俺のふところ事情的に大打撃である。となれば俺はどうにか奢ることを回避しなければならない。だが、今の俺は椎葉を待たせて明日葉と電話している状態なのでさっさと用件だけ聞いて後からまた、電話をかけようとそう決めて用件を聞こうとすると

『そうだ!忘れる所だったよ。椎葉ちゃんにはちゃんと会えた?』

「はっ!?何でお前がっ!?」

動揺したのが伝わったのか電話越しにクスクスと笑い声が聞こえる。

『実は椎葉ちゃんに優が何処に居るかわかりますかって聞いてきたから会えたかな~と思って電話したわけだよ』

ようやく明日葉が電話してきた理由が分かり俺の抱いていた疑問が晴れた。俺が放課後に何処に居るかを知っているのは、明日葉を含め学年に3人で他学年を会わせればもう少し居るが転校してきてから1ヵ月の椎葉が俺を探していたとすれば同じクラスの明日葉に聞くのは当然の行動だった。

(そういうことか......椎葉が屋上に来るのはおかしいと思ってたが俺に用があったからか)

そう理解した俺は明日葉にこう言った。

「パフェ2つは無理だが1つなら奢ってやる連絡ありがとな、ちゃんと会えたよ」

すると明日葉からは

『会えたなら良かったよ~結構探してたみたいだし、それに真面目な雰囲気だったからちゃんと聞いてあげてね。それじゃあ僕は邪魔になってるだろうからそろそろ切るね~また明日ね』

そう明日葉が言うと携帯からプツッという音が聞こえ通話が終了した。

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