黒い三分間
六花 水生
第1話
そのドラマは、ネットに押されるテレビ局が満を持して制作した超大作だった。
大人気俳優、女優がこれでもか、という
ほど出演。
書いたドラマは必ず大ヒット。セリフは流行語大賞にノミネートされ、登場人物の髪型、服のコーディネートがいつも若者の流行りになるというシナリオライターが担当。
ネットとの差別化を図るため、どんなことがあっても一度しか放送しない。
こんな前宣伝が大々的に流され、その出演者のファンのみならず、流行にちょっとでも乗り遅れたくない人々の関心をひいた。
放送は日曜の夜8時からで、波乱万丈な恋愛ものは、先が読めない展開であった。
その中でも、イケメン俳優が脱いで細マッチョだわ、眼福だわ〜だの、清純派の女優が濡れ場を体当たりで演じてオレちょっとショック〜だの、やっぱりネット上を賑わわせる話題も多く、それらのコメントを見てからテレビをつける視聴者も多かった。
そしてストーリーはクライマックスへ。いわゆる三角関係のようになったヒロイン。
情熱的なヒーローと、どんな時でもヒロインを支えるヒーローと。
二人の男性のどちらと結ばれたかは、結婚式のシーンまでわからない。
『それでは、新郎新婦の入場です。』
ナレーションとともに、式場のドアが開き、そこに並ぶ二人の足下から舐めるようにカメラは上へと向かう…
国民の半分近くが、固唾をのんで画面に釘付けになったその時、突然テレビ画面が真っ黒になった。
その時刻は、番組終了三分前。三分間、黒い画面が続いた。そして番組終了時刻が過ぎると、いつも通り次の番組がはじまった。
「え、嘘っ、故障?」
世間は騒然となった。自宅のテレビの配線を確かめるもの、他局で災害情報の有無を確認するものなどが続出。放送局には抗議の電話が殺到。ネット上では
「放送事故?」
「災害発生?」
「某国の電磁波攻撃?」
など、黒い画面になった事を喧しく取りざたし、まさしく「まつり」「バズり」状態だった。
その夜は、放送局は何のコメントも出さず、そのことも含め、ネット界は賑やかだった。
翌日、とうとう放送局が会見を開いた。
出席したのは、技術責任者、シナリオライター、ヒロイン役の女優、放送局の副社長。
参加した記者からは
「これは事故ですか?」
「作品が最後まで放送されなかったことを、作家や出演者はどう思っているのですか?」
「話の結末は、ズバリ、どちらとくっついたんですか?」
「大々的な宣伝をした作品の結果がこのようになって、放送局としての責任は?」
などの国民みんなが知りたいと思う、もっともな質問が次々に飛び出した。それに対して
、出席者は一度ずつ回答した。
技術責任者
「私達は作品として提供されたものを、きちんと放送しました。」
シナリオライター
「私達は作品を作るまでが仕事です。その責務は十分に全うしました。」
女優
「私達出演者は、作家さん、プロデューサーさんの指示のもと演じました。作品の内容は口外しないという契約書があり、これ以上はお答えできません。」
副社長
「何があっても一度だけの放送というお約束です。再放送も、結末の公表も考えておりません。」
そして、次々質問を投げかける記者たちに一礼し、会場を出ていった。
この会見はもちろんテレビで中継され、他局ですら昼の情報番組でこの話題を取り上げた。
少しでも他を出し抜きたい放送局は、ドラマの出演者をコメンテイターとして呼んだが
「だれも嘘は言っていませんよ。ただ、あの女優さんが言ったように契約書で口外は禁じられているので、これ以上はすみません。」
と、やはり何もわからないままだった。
しばらくすると、ネット上では話の結末を予想する話題が増えてきた。そして、どちらかのヒーローとの結末や、全く別人との結婚を予想した「最後の三分間」を制作するユーチューバーや、漫画家、作家などが現れ、それらもまた、新たな話題となった。
特に普段はネットから遠い、妙齢のご婦人がたの心の琴線に深く触れる作品であったらしく、それぞれの旦那や子どもに指示を飛ばしながら、話の結末の情報をネットで収集させた。そのうちまどろっこしいと、自分でも家のPCでのネット検索方法をマスターし、自分の押しヒーローと結ばれたと、確信できる情報を求めるお婆様も出てくるほどであった。
そしてこのドラマの関係者は、制作者も出演者も実力があったため、その後もテレビ業界で人気を集め続けた。
のちにこの作品は、テレビ業界の復興、ネットとの共存、漫画や小説などとのコラボレーションなど、メディアの在り方に一石を投じたと評されるようになった。
そして30年後、関係者の一人がついに暴露した。
「最後の三分間ははじめから作られていなかった。」
と。
黒い三分間 六花 水生 @rikka_mio
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