〜狐の嫁探し〜半妖狐と九の花嫁

桐生連

第1話 狐の嫁探し

妖怪とは…神秘かつ恐れの存在…

時には人と交わり手を取り合い時には天災として人々に降りかかる…妖とも呼ばれていた。


時は平安時代。この時…一人の人間とある妖魔の馴れ初めが始まろうとしていた。


「ふんっ!」


山奥で一人札を片手に丸太目掛けてその札を放つ男。


しかし…


札はヒラヒラと情けなく地面に落ちてしまう。


「あはははは!」


何処からか高笑いが聞こえてくる。

男は辺りを見回すと目の前の巨大な岩の上に

金色の巨大な狐がいた。

笑っていたのはこの狐だ!


「弱いな〜」


狐は言葉を放つと男は手を止める。


「まるで子供の遊戯だな〜よくそんな腕で陰陽をやろう思うとはな〜」


男は無視して札を再び丸太に放つ。


「小僧!お前には陰陽師なんて無理だやめちまえやめちまえ」


岩の上の狐は指を男に指してそう言った。


「才能なんかこれっぽっちも無いね。すじは悪いわ霊力もないわ、何より狩ろうという気概がない」


「さっきから、うるさいな狐」


「お!やっと口を開いたか小僧」


狐は待っていたかの様にそう言った。


「俺が未熟なのはわかっているさ!だから修行をしてるんじゃないか!」


「やる気は褒められるがお前は才能なさすぎだ基礎である霊符もつかえないんじゃな」


「う…」


男は何も言えず黙り込む。


確かに自分は陰陽師見習いでは落ちこぼれだ。


「狐、お前には関係ないだろ!」


男は声を上げ狐に怒鳴り上げる。


「おいおい、八つ当たりかい?情けない男だな〜」


「とっと消えろ!じゃなきゃ退治するぞ!」


「あはははは!お前じゃ逆に返り討ちにあうぞ」


狐の言う通りだ、基本も出来ない奴が妖怪に勝てる訳ない。


「たく、わざわざ人里に来てみりゃ都の男は根性なしばかりで飽き飽きだ」


「なんの話してんだ?」


「なーにちょっとつがいを探しにな」


「は?つがいだぁ?狐の色香に誑かされる

馬鹿が居てたまるか!」


「人間はコロッと誑かされるがお約束だろ」


「馬鹿にするにもいい加減にしてけよ狐!」


男は札を狐に向ける。


「お前死ぬぞ」


「言ってろ!俺はいずれ大陰陽師になる男だ!今は勝てずとも、必ず成敗してる!」


「あはははは!」


「何がおかしい!」


「いや、馬鹿を通りこすと愚かと思ってな。

だが、悪くない」


狐は男を赤い瞳で見る。


「それに大陰陽師なんて馬鹿言うのも気に入った。ビジュアルはともかくまあギリギリ合格かな〜」


「はあ?」


この狐何を言ってる?


「小僧、お前いくつだ?」


「え?十五だけど…」


「ガキかよ〜まあいいか若い方が都合もいい」


ガキってなんだよ…この化け狐は?


「さっきからお前一体何だ?」


「ああ、まだ自己紹介してなかったな、アタイは九尾だ」


「九尾だと⁉︎巷で騒がれてる大妖怪の⁉︎」


九尾と言えば巷では有名なかなり危険な妖怪と噂の妖だ。


「怖がるの遅すぎだ」


「怖くない、その九尾の化け狐が何の用だ?」


九尾はニヤニヤ笑う。


「小僧、お前の涙ぐましい努力が花咲くよに

取り計らってやるよ」


「何?」


「ただし…時が来たら…」


九尾の狐は岩から降りてくと、煙を放つ。


煙がはれると其処には九つの尾を生やした

絶世の美女が目の前にいた。


「私をアンタの嫁にしな、そして罪を断ち切る運命の子を孕ませろ…いいな?」


男は目を離せない。


「高円寺正和」


「あ…」


それは遠い昔の話


この世が乱世と呼ばれ、妖怪達が当たり前の様に狙われていた頃のお話。


後の大陰陽師 高円寺正和とこの時すでに伝説の大妖怪 白面金毛玉藻前九尾との馴れ初めにして、そして狐の色香にまんまとハマり一目惚れした男の物語…






あれから九尾は約束を果たし子供を産んだ…

千年以上たってから…あれ??




九尾が妊娠し千年後…



「で、何の用だよ母さん…」


このやたら飾りたくった畳部屋で寝そべって煙管を吸っている絶世の美女の前に座っている。

黒い髪の青年の名は高円寺玉緒(こうえんじたまお)目の前にいる美女の一人息子で九尾の子。


「あんた、嫁探して来なさいな~」


でこの突拍子も無い事を言ってる人が母親の九尾の狐 玉藻前 通称 玉さん。


「はぁっ!何突拍子も無い事言ってるんだよ!」


「孫の顔がみたくなったのよ~」


玉藻前はそう言うと近くにあった酒をぐいっと飲む。昼間っから…


「まだ十五だぞ!俺は!」


玉緒は声を上げた。


玉緒はこの突拍子もない母親にいつも苦労させられてきた…しかも自分は1000年越しに妊娠してから産んだと言う何とも信じがたい話を平気でする人だからだ。


「十五、六で結婚何て当たり前じゃない~」


「いつの話だっ!」


玉緒は声を上げた。

そんなの平安時代は昔の話だろうが。


「とにかく孫の顔が見たいのよ〜」


玉藻前はそう言うと煙草を吸うと煙を吐く。


「早くやる事やって孫の顔みせなさいな~」


「母さんはいい加減なんだよ!だから親父も逃げたんだろ!」


「パパは陰陽師で人間なんだから寿命が違いすぎて先立っちゃったのよ」


玉藻前の夫は人間で陰陽師だったのだ、玉緒はつまり半妖に当たる。


「それに~パパより良い男なんて~もう見つからないわよ~」


玉藻前は赤面しながらな体をゆする。


あれから1000年以上も経つのに夫をいつまでも愛しているのはある意味凄い。


「とにかく結婚出来る年齢じゃないんだよ!」


玉緒はそう言うと立ち上がる。


「どこ行くのよ?」


「学校だよ、すっかり遅くなっちゃったよ」


時刻は八時十五分確かに行かないと遅刻してしまう。


「玉緒〜アンタも真面目ね〜たまにはサボってナンパくらいしなさいな〜アタシなんか何人いい男を食べた事か〜」


玉藻前は下をペロリ。


「母さんが色欲魔なのは歴史の常識で知ってるから…」


玉緒はやれやれと部屋を出て行き学校へ向かう。


「アレが日本の三代妖怪と思うと情けないな…」


九尾は日本の三代妖怪と称される大妖怪だ。だが、母は煙草を片手に昼間から呑んだく…本当情けない…


玉緒の通う東城学園高校は共学で意外と歴史が古い高校だ。

この学校は実は人間だけでなく、妖怪も沢山通っている

皆正体を隠してはいるが。


学校でも玉緒は母親の言葉が引っかかり授業に集中出来ずとうとう昼休みになってしまった。


玉緒は学校の屋上で一人パンを食べていた。


「たく、何が孫の顔だよ…」


玉緒は正直自分が半妖である事がいやだった、少し感情が乱れると…


「また耳と尻尾がでやがった…」


金色の狐の耳と一本の金毛の尻尾が生えるのだ。


おまけに髪まで金髪に瞳は血のように赤い。

これを見た人からは化け物呼ばわりされ気味悪がられていたからだ。


この学校に入学したのも正体を伏せて妖怪も居ると母から聞いたからだ。

千年以上前からこの場所にあった勉強寺の跡地がこの学校で平安時代から人と妖怪が互いの知識を教えあっていたらしい。

しかし、そんな場所でも妖怪の認知が未無の現代だ、下手に正体を晒すのはタブーだ。


狐の話は大体決まって悪い事ばかり、終いには半妖は昔から双方から疎まれる。


こんな自分を好きになってくれるもの好きがいるか?いやいないだろ…


玉緒は頭を冷やすと耳と尻尾を引っ込めると、教室へ戻って行った。


放課後の夕暮れ。

玉緒は一人歩いていた。


今思うと半妖は凄く損をする種族だ、人間にもなれず、妖怪達は恥さらしだの半端ものだの酷い言われようだからだ。

千年経ってもそれは変わらないのかもしれない。


玉緒は昔の事を沢山思い出してしまう…父がもう居ない事、自分が半妖故に力を上手く使えず耳と尻尾を出し見た人間は化け物呼ばわりされて幾度となく引越しを繰り返してその街にはもう居られない。

いくら母が記憶を消しても自分の傷は消えない…相手を怖がらせたという事実も消えない…だから居られない…ある日を境に玉緒は力を自ら封印し人間として生きる事を決めたのだ。

高校にいくら妖怪が紛れていると言っても自からは明かさないという暗黙の領海だ、友達はおろか恋人なんか見つかるわけない…


「あ、ここって昔母さんがよく連れてきてくれた神社だ…」


玉緒は階段を上がり鳥居をくぐり夏目神社に足を運んだ。


夏目神社は何でも五尾の銀狐を祭っており、いわゆるお稲荷様の神社だ。


神社故に霊力が強い場所だがここはお稲荷様を崇めているせいか霊力は感じず妖怪も足を踏み入れることが出来るのだ。


まあ玉緒が半分狐だからなのもあるのかな?

多分…


「あの子と良くここで遊んだな〜」


玉緒は昔を振り返る。


風が心地よい…木枯らしが舞う中…


ちりーん


「ん?」


鈴の音が響く。


聞こえた方へ行くと、そこには鈴が着いた髪飾りを着けた黒髪に黒い瞳巫女服が似合う綺麗な女の子が神社を箒片手に掃除していた。


「何か御用ですか?」


巫女さんが声をかけて来た。


「あ、いや昔ここで遊んだから懐かしくて」


「そうなんですか、あれ?私と同じ学校で同学年?」


「ああ一年だよ」


「本当!私もだよ!」


巫女さんは嬉しそうに言う。


「ねえ、よかったらお茶いかがですか?もう掃除終わるので」


「え!悪いよ」


「いいからいいから」


巫女さんはそういうと玉緒の手を引き離れまで連れて行く。


玉緒は離れの家の縁側に腰をかけて巫女さんを待つ。しばらくして巫女さんがお茶をお盆に乗せて持って来た。


しかも巫女服の上から割烹着。凄い和風美人!


「粗茶でございます」


「ありがとう」


玉緒はお茶をすする。


「あ!美味い!」


「よかった」


巫女さんも縁側に座る。


「私夏目、夏目撫子。ナコって皆んな呼ぶよ」


「俺は高円寺玉緒」


「玉緒くんか〜女の子みたいって言われない?」


「言われる…母さんセンス無い名前つけるから…」


玉緒は確かに女の子みたいな名前だ。


「良いと思うよ、私なんか撫子だし」


「撫子のがあってるだろ性別にさ。俺男なのに」


「ふふふ、高円寺くんって面白いね」


「そうか?そういう夏目はまさに大和撫子って感じだな」


「もう、からかわないでよ〜」


撫子は笑顔で冗談っぽく笑う。


玉緒はこんなに同級生の女の子と話すなんて久しぶりだった。何か心地が良かった。


撫子に下まで送ってもらいながら二人は色々な話をした、撫子は隣のクラスの生徒だった。

だが、二人がいい雰囲気で話している時だった。

神社の周りの木々がざわつき始めた、撫子は立ち上がると懐からお札を取り出した。


「な、夏目さん?」


「玉緒くん逃げて下さい!」


撫子はそう言うと神社の奥の林へ走り向かった。


「な、なんだ??」


玉緒は気になり後を追いかけた。

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