134話 私がいるじゃあないか

 巨人の肩に俺達を置いてベロボーグの下へ向かっていったピノ。

 激しい戦闘の末、二人はどうやら地下へと落下してしまったらしい。


 燃え残ったドームが土の中へと沈む直前、ピノの植物が一瞬見えたからあの時はまだ生きいてたのだろうけれど……。

 あれから数分経ってもピノもベロボーグも地下から上がってくる様子がない……。

 あの穴がどの程度の深さなのかここらかじゃ分からないが、戦闘音は止んでいるしどちらが勝ったにせよ勝負はついているはず。


 いや絶対ピノが勝ってるけど、何らかの理由で動けずにいるだけだ。

 待っててもしょうがない。

 俺も巨人から降りて様子を見に行くとしよう……。



「その選択は死を招くぞ、少年」


 巨人の胴体を伝って降りようとした直後、何者かが声をかけてきた。


「スヴァローグ……」


 くっそッ、なんつータイミングで復活してんだこいつ……。

 どうする……死を招くってどういう意味だ……。

 ここから下りてピノに加勢しようとすればお前を殺すぞ、ってことか……?


「下を見てみろ、土が乾いたヘドロように荒廃している。あれはベロボーグがやったものだ。君がこの地に生身で降り立てば、体にどんな影響が出るかわからないぞ」



 スヴァローグの言う通り、地面が燃えた後のような灰色になってるけど、あれはそんなに危険なものなのか?


「ピノの植物を鬱陶しく思ったベロボーグが、土を植物が成長できないように作り替えたのだろうな。おそらくこの巨人達もいずれ……」

「そう……なのか……。ならピノを早く助けてやらないと!」

「ピノの生存が当たり前のような口ぶりだな。だがまぁ、それには私も賛成だ」


 でも、どうやってこの枯れた土を通らずにピノがいる地下まで助けに……?

 ラズもN2も動けないし、遠くに避難してるグレもこいつの言う事が正しければ、この土が危険な事には変わりない。


「打つ手なしという顔だな。しかし本当にそうか? 周りをよく見てみろ」


 何か状況を楽しんでいるかのようにスヴァローグは言う。

 周りって言ったって、下には降りられないし、巨人の肩の上にいるのは動けないN2とラズ、そして怪しげな隻腕の黒い機械スヴァローグだけだ。


 そんなスヴァローグが自身の胸をトントンと叩き、こう言った。

「私がいるじゃあないか、少年」


 以前こいつは俺達を襲い、N2とピノを壊したんだ。

 そんなやつを負傷しているピノの下へ向かわせる……?

 最悪、ベロボーグが生きているとしたら、こいつがそっちに加勢することだってあり得るかもしれない……。


「おいおい、まだ何か変な誤解をしているのか君は。……ん~……………ならば、こうしよう」


 スヴァローグが残っている右手で胸部から何かを取り出し、俺へと差し出した。


「それは私のエネルギー供給パーツ、いわばバッテリーのようなものだ。私が地下から戻ってくるまで、それを君に預ける。そいつがなければ私は数分で活動ができなくなる。私がピノを連れて戻ってきたら、それをまた返してくれればいいさ」

「なんで……そんな大事なもんを俺に……」

「信頼ってやつは目に見えた形でないと伝わらない。少年もそう思わないか?」


 スヴァローグがこちらを真直ぐ見つめる光景と、過去にこいつが襲ってきた光景が交互に巡り、考えがうまくまとまらない。

 でも早くしないとピノも危ない気がしている。


 深い深呼吸を一度した後、スヴァローグの方を向き直す。

「ピノを、助けてやってくれ……」

貸しができるな、少年」


 得意気に返す隻腕のそいつは、ピノが拾ったチェルノボーグの左腕を掴み、ピノがいる穴の中へと消えていった。

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