133.5話 ピノ VS ベロボーグ ②

「さっきから訳の分からない事を……! ピノ達があなたに何をしたって言うんですか? こんなこと言ったって無駄なんでしょうけど、ピノはレイ様のお手伝いをしたいだけなんです! それを邪魔するというのなら……」


「邪魔すると言うのなら……?」


「誰であろうと……容赦しません!」



 ピノの声に応えるように、木の巨人たちがベロボーグに襲い掛かる。

 前衛部隊は直接攻撃を止め、腕から伸ばした蔓による攻撃などの間接攻撃に切り替え、後方部隊はより遠くからの射撃を試みる。



(「ええぃ、鬱陶しい……! 何をどうやってパワーアップしたのかは分かりませんが、あの最弱だったアーティファクトが我々二人を相手に善戦をしているのは事実……! 何より、幾度枯らせど無数に生えてくる植物が非常に厄介……。いっそのこと周囲の土を植物が成長出来ない作りにしましょうか……? しかしそうすると、以降ここには生物が立ち入れなくなる……ですが……」)


「それも……最早どうでもいい」


 ベロボーグが地面に手を着き、土が灰色に変色していく。

 やがてその変色が巨人達の足元にまで及ぶと、地面が燃え残った木くずのように崩れ、足が地に沈み込んだ。


「土が……枯れた!? ……くっ、植物達が出てこない……!」

「もうこれで草花遊びは出来ませんよ……!」


 再度ピノに飛びかかるベロボーグ。

 が、しかし今度は3体の巨人がピノに覆いかぶさるようにしてそれを防ぐ。

 ピノを包んだ巨人は互いに絡み合い、体をドーム状に変形させ、更には体の表面を硬質化させた。


「チェルノボーグを叩き潰した鋼を体にまとったのですか……。しかし、動かぬのなら好都合……!」


 ベロボーグは巨人のドームから少し距離を取り、右腕を構えると同時にドーム全体を覆うほどの炎を放った。


(やはり表面が焦げる程度……形質が変化しても熱耐性は健在ですか……。ならば……!)


 放射口をぐっと細め、炎を当てる箇所を面から点に絞っていき、次第に放射された炎はレーザーのようになっていった。

 焦げ付いたドームに更にダメージを加え、レーザーに切り替えてから数秒後、ドームが照射された箇所からドロドロと焼け崩れていく。


(「出力…最大……!! 燃え尽きろ!! No2!!」)


 更に火力を上げるベロボーグ。

 レーザーはやがてドームに穴を開け、ドーム内は充満した炎でいっぱいになった。

 その威力は凄まじく、内部を満たした炎がレーザーの照射点から逆噴射するほど。

 あまりの熱で他の巨人達も近付けないでいた。


 念には念をと、ベロボーグは1分間もレーザーを照射し続けた。

 巨人のドームはかろうじて原形を留めていたが、全体を焼き尽くされ、内部には燃えカスさえも残っていなかった。


(「右手腕が熱で歪んでいる……。過剰に使い過ぎましたか……。まぁいい、残りは死にかけたゴミ共と人ひとり……。左だけでも十分でしょう」)


 ベロボーグがドーム内を歩き回り、ピノの存在がないことを確認した直後、突然自分の体が浮いているような感覚に襲われた。


(「空が遠くなっていく……いや違う、この燃え残った半球体ごと落ちている!?」)


「くっ……早く脱出を……!!」


 しかし時既に遅し。

 ベロボーグはドームごと地下30メートル程の深さまで落下していった。



(「だいぶ落ちましたね……幸い自力で上がれない高さでもない……。しかしこの穴はいったい……」)


 ベロボーグが落下したのは縦に伸びた筒状の穴だった。

 高さは30メートル程あるが、広さは直径10メートルもない。


 ベロボーグが立ち上がろうと膝をつくと、突如として視界が暗くなった。


(「穴の入口が閉じていく……あれはなんだ……植物の根……!? まさか……」)


 焦るベロボーグをよそに、手足に何かが巻き付いてくる。

 身動きの取れないベロボーグは、そのまま巻き付かれたなにかによって宙へと持ち上げられた。



「地中の土までは枯らせなかったようですね、ベロボーグ」

「……No.2……化け物め……」


 声の主は、体のところどころにすすが付いたピノだった。


「穴を掘って炎から逃れてたんですか……」

「ぎりぎりでしたよ、まったく」


 やれやれといいながら、拘束したベロボーグの肩にピノが触れる。


(「なんだ……なにをしている? まぁいい、あと30秒もすれば右手腕が回復するでしょう、そうすれば……」)


「まだやる気なのですか……いったい、何があなたをそこまで突き動かすんですか……ベロボーグ」


 ピノがそう言い終わると、ベロボーグを絡みとっていた蔦がするすると緩み、体を地面へ降ろされてしまった。


 あのまま拘束を続けていれば、勝負はついていたはず。

 ベロボーグは、ピノからの哀れを通り越した情けを受けたように感じた。

 かつて自分がオモチャとして扱っていたモノからの、遥か格下と思っていたモノからの同情。

 プツンと体の中で何かが弾け、ベロボーグは絶叫せずにはいられなかった。


「貴様ァ!!! 調子に乗るのもいいかげんにしろよォ!!!」


 そんな怒号に対しピノがとった行動は、その場に倒れ込む事だった。


 ベロボーグはこのふざけたやつをすぐさまズタズタにして、今度こそ焼き尽くしたいと心から願った。

 がしかし、身体がまったく反応しない。

 指の一本すら動かせなくなっていた。


「私に……なにをした……」


 ピノがそれです、とベロボーグの肩を指差す。


(「なんだこれは……カビ……か……?」)


「チェルノボーグの破損した腕を調べ、あなた達に有効な……攻撃手段をずっと考えてたんです。答えは……意外に近いところにありました。ピノが元々……持っていた枯れ葉等を分解する能力ちからです」


 それは以前ピノが土の栄養を補強する際に使用した能力ちから

 アーティファクト達の能力を知るベロボーグも当然それを把握していたが、敵に使用するものには考えられなかったため、まったく眼中になかったのだった。


「しかし……あれは分解できたとしても……少量の有機物のみだったはず……。私の身体は金属製ですよ?」

「そう……だから特殊な条件が必要でした。湿度温度がほどよく高く、光もあまり届かないような場所が」

「なるほど……まさにあなたが作ったこの縦穴……ということですか……」


 二人が話す間に、ベロボーグの右肩の細菌は増殖を続け、やがて右腕を全て覆っていった。



「賭けでしたけどね、植物と違って、菌のようなモノですし……お話出来ませんし……」

「だから……あなたも制御が出来てないんですね」

「あはは、バレてましたか……。ピノは襲われないという考えは……都合が良すぎましたね。もうさっきから身体が動かないし……頭もぼんやりします。あと数分もすれば身体の組織も壊れ始め……やがて私達も土になるでしょう……」


(「くっ……エネルギーはまだ余っているのに、体が動かせない……。内部にも徐々にカビが広がっていくのが分かる……。これはではもう……」)


「……完敗ですね」

「そうでしょうか……相討ちくらいじゃないですか?」



「少し……羨ましかったのかも……。楽しそうに過ごす……あなた……達が……」

「なら……初めからそう言えば……良かったのに……」


 薄暗い穴の中で、2つの命が潰えた……かのように思えたその時。



「さぁ戻るぞ、少年がお呼びだ」

 小さな黒い影が二人の腕を掴み、地上へと引き上げた。

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