133話 いかなくちゃ

 地中から腕を引き抜いた2体の巨人。


 腕の長さや拳の大きさに変化はない。

 しかし他の巨人と違うのは、上半身が少し肥大化していることと、巨人の拳が妙に光沢しているように見えることだ。


「なんか……手が光ってる?」

「硬質化……でしょうか? おそらく土の中の鉱石を砕き、拳付近の細胞に混ぜ込んだのでしょう。なるほど……その手がありましたか」


 ピノは時折木の巨人達の方を見ながらも、回収したチェルノボーグの腕の破損部の解析を熱心に続けている。


 よく見ると、巨人の手の表面は宝石のようにカットされた見た目になり、木の材質とは随分と違ったものになっている。

 それでいて、取り込んだ鉱石が軽いものなのか動きもそこまで鈍くはない。


 2体の巨人が体を起こし、戦闘中の巨人の集団へと紛れ込む。

 数秒後、それまで聞こえていた衝突音や、巨人達の攻撃による大地の揺れが止んだ。

 巨人達は動きを静止していて、黒い機械達以外の景色が止まっているようだった。


 ほんの一瞬まばたきをした直後、巨人達が一斉に動き出しチェルノボーグ一体だけを狙って集中砲火を始めた。


 その動きは、まるでこれまでは準備運動だったのかと思うくらい獰猛だった。

 味方のはずの巨人達が、怖いと思えるくらいに。


 多分、最後の2体の準備が整うのを待っていたんだ。



 そこからチェルノボーグにとどめを刺すまでに、15秒もかからなかったと思う。


 土埃や木片、泥などが飛び交いはっきりと見えなかったが、巨人達全員にターゲットされたチェルノボーグは着地する暇もなかった。

 状況が把握できたのは最後の方だけで、手を硬質化した巨人が地面に足を突き立てたところから。

 右拳を高く掲げて振り下ろしたかと思うと、ちょうどそこへチェルノボーグが飛び込んできた形になった。


 いや、巨人達がそうせざるを得ないように追い込んだのだろう。


 巨人の右拳がミシミシと聞き慣れない音を立てながら地面にめり込む。

 その威力は、衝撃のせいで自身の手足が折れてしまっているほどだった。


 拳が振り下ろされた地点は数十センチ沈み込み、その中央には潰れたチェルノボーグ。


 もう動く気配もなく、完全に沈黙している。

 故障した機械特有の火花も散らしていない。


 別の巨人がそれを拾い上げると、近くに生えていたオオバケアロエの中へ静かに幽閉した。


 痛々しく、水中に沈むチェルノボーグ。

 死んだのだろうか。


「……彼、チェルノボーグが潰される間際に何かを手中で生成していました。ですが、それが見当たりません……あの物体はいったいどこへ……」


 そんなの良く見えてたな。

 俺には何が起きてるのかさっぱりだったのに。


 そんなことを考えていた矢先、1体の巨人がドシンと音を立てて地面に倒れ込んだ。

 倒れた巨人の背にはもう一体の黒い機械ベロボーグ。

 ヤツが巨人の首に腕を突き指し、その箇所を中心に首周辺がどす黒く変色している。


「ピノがいかなくちゃ……」

 と呟き、小さな緑の人形は巨人の肩から降りてベロボーグの下へと向かっていった。

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