132話 スナバコノキ

 火を放たれたなら、燃えないように耐性を付ける。

 体を切られたなら、切られてもいいような体のつくりにする。

 木の巨人達はピノが言うように、彼ら黒い機械達に対抗するためにとてつもない早さで進化していく。


 巨人達が優れているのは、防御面だけではない。


 始めこそ全員で踏み潰そうとしたり、掴もうとしたり殴りつけようとしていたが、自分達の機動力ではそれがかなわないと判断すると、巨人達は攻めの手法を変えていった。


 黒い機械達を追いかけ回すのは5体に抑え、残りの15体は後方支援のような陣形を取り、趣向にそって体の形質を変化させていく。

 後方部隊15体の内、13体は種子を射出するために手腕部を延長させ、腰から下は安定性を増すために幾分か膨張させた。

 残りの2体は、なにやら土中に手を埋め、拳を肥大化させている。


 巨人達の変異に合わせ、種子の役割も細分化したようだ。


 ほとんどは行動阻害を促すタイプのもので、後方部隊10体がこのタイプの種子を射出する。

 黒い機械達の体に付着し発芽する種子や、着地時に粘度の高い液体を分泌するものが見受けられた。

 どちらかというと数撃てば当たる戦法で、被弾してもほとんどダメージは無さそうだ。

 しかしこの動きを制限するタイプの種子のおかげで、前衛部隊の巨人達が徐々に距離を詰めていった。


 もう1つは単純に攻撃手段として特化させた形状のもの。

 このタイプの種子のサイズは拳大程もあり、下半身をより膨張させた3体の巨人が撃ち放つ。

 射撃を主軸に置いているため、あの3体はほとんど移動をしなくなった。

 けれど、代わりに俺達の乗る巨人が放った種子に比べ、精度も威力も格段に増している。


「植物達にスナバコノキの原種の情報をインプットしておいて正解でしたね」


「スナバコノキ……?」


 ピノいわく、湿度の高い場所を好み生息する植物で、カボチャのような種子を実らせる珍しい種類の植物らしい。

 種子はやがて乾燥し破裂するのだが、その際に発射される種子の速度は時速200キロを軽くこえるのだそう……。


「元々持つ機能でその威力。ミドリムシにより性質強化した弾丸を以ってすれば、いくら物理防御が高い彼らとて無視はできないでしょう」


 ピノの言葉通り、巨人達は黒い機械達に着実にダメージを与えていった。


 粘性の高い足場、そこに降り注ぐ阻害性を持つ種子。

 それをくぐり抜けても前衛達の物理攻撃が待っており、おまけに岩石を砕く弾丸が飛んでくる。

 巨人達の出現からわずか2分の出来事である。


 20体それぞれが少しずつ違い、各々が役割を全うする。

 どのようなコミュニケーションで連携を取っているのかは謎だが、巨人達はある意味集団で一つの生物といっても過言ではないだろう。



 黒い機械達がそれぞれ3度地面に叩きつけられた頃、未だ動きを見せていなかった土に拳を埋めていた巨人2体がようやく動き出した。

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