127話 プラント・アーティファクト
「あは、おいおい、池にぶんなげちまったぞこいつ。せっかく身を挺して守ってくれようとしてたのによ」
「とても愚か……あなたの努力など、死ぬ順番が変わる程度なのに」
ピノを投げた俺の行動に対し、二体の黒い機械は不思議がる様子もなくそう言ってのけた。
俺の生死なんてまったく気にしてないって感じだな。
だがまぁそれでいい。
こいつらをなるべく刺激しないように言葉を選び、ピノ復帰までの時間を出来るだけ稼ぐんだ。
「どうせ死ぬなら、知っておきたいことがある。お前達がこの星に俺を呼び寄せたっていうのは本当なのか?」
「……あぁん? なんだそりゃ。お前が勝手に来ただけだろ」
「前に聞いたんだ。多分、お前らの仲間の一人に」
「チッ……ダジボーグかスヴァローグのどっちかだな……」
「そうですよ、あなたの宇宙船が突然故障したわけではありません。システムをハッキングし、ここへ不時着したように見せかけました」
やっぱりか……。
あんな壊れ方、今までなかったからな。
「おいベロ!」
「いいじゃないですか、どうせ死ぬんですし。ここまでシナリオを進めた些細な褒美ですよ」
「……シナリオ?」
「えぇ。あなたは私達の娯楽としてここに呼ばれました。孤独な人間がこの星でどう行動し、どうやって生き延び、どうやって死んでいくのか。その様を眺めるのです。人の文化に映画というものがあるそうですが、それに近いようなものですよ」
「ベロボーグ!!」
ベロボーグと呼ばれるそいつは淡々とそう語った。
それがあたかも当たり前の事のように。
どうやら俺はこいつらのおもちゃとして管理されていたらしい。
「はいはい。アーティファクト達の力をうまく活用し、エージェント達を倒してきた彼がどういった反応をするか少し気になりまして。意外と驚かないのですね、他の人間達は怯えたり怒り狂ったりしていたのに」
「てめぇ、わざとやってんのか!? もういいだろ、他のやつらと比べてもこいつは異常だ。このフェーズまでシナリオを進めたのもこいつが初だし、さっき即死させたはずなのに生きてやがる。いいからさっさとやっちまおう」
他の人間って……。
たまに行方不明者が報告されてたが、原因はこの黒い機械達の仕業だったのか?
いままでにいったいどれ程の……。
まて、人がおもちゃのように弄ばれていたのは分かった。
じゃあ今俺と共に行動しているN2達は……?
もしかして皆に記憶がないのは、人がこの星に来るたびにこの茶番に付き合わされ、人が死んだらその記憶ごと消されていたからなのか……?
そうだとしたら、こいつらはなんて……なんて酷いことをッ。
「腐ってやがる……」
「あ?」
「対話をしようなんて思ってた俺が馬鹿だった……お前らはどうしようもないクズだ!」
「おやおや、同胞が殺されていたのを知り激情したのですか? しかし今更どうすることもできませんよ」
「違う! N2達がこれまでどんな気持ちで過ごしてたか……殺すよりもひどい……」
悔しくてこいつらを直視出来ない。
視界に入れたら今にも殴りかかってしまいそうな気がする。
機械に腹を立てたってしょうがないのかもしれないけれど、それでも……そうだとしても……。
俺は……こいつらを許すことが出来ない……!
俺が死んだらまたN2達の記憶を消して、閉じ込めて……また人を呼び寄せて……それを繰り返すのか……?
もっと早くに知っていれば、この状況を変えることができただろうか。
もっと疑問に思うべきだった。
この星について、黒い機械達について。
アーティファクト達について……。
いずれにせよ、俺は知るのが遅すぎた……。
「おいおい! よせ、泣くんじゃねぇよ、殺りにくいだろうが! めんどくせぇなもう」
「自分のことよりも、他者のために涙する……。私はあなた達のそういった行動や、感情というものが理解できません。それ故に興味をそそるのかもしれませんね」
「こういうのを殺ると後味が悪いから嫌なんだよ。とどめはベロ、お前が刺せ。俺はさっき池に落ちた方を殺ってくる」
「……最後の最後は無抵抗ですか。つまらないですね」
「……決めた……決めたよ。もうお前らの好きにはさせない。まだ捕まってる残りのアーティファクトも全員助けて、俺は生きて自分の星に帰る」
「ハハハハ、随分立派な遺言ですね」
「遺言じゃない。まだ間に合う……いや、間に合ったんだ」
直後、池に向かったはずのチェルノボーグが、ベロボーグの後方の岩に叩きつけられる。
「クッソ……こいつら、やりやがった……!!」
地が脈打つ感覚と、背中から感じる波動。
N2でも、ラズでもない。
これはそう、紛れもなく……。
頭上に大きく伸ばした蔓から、俺の足元に緑の小さなシルエットが降り立ち、やつらの方へ睨みをきかせながらこう言った。
「レイ様より授かりし名はピノ!
またの名をプラント・アーティファクト!
ここに再臨!です!」
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