101話 美味しくなーれ!
N2達がバターを作ってくれている間に、キノコの下処理を済ませてしまおうと思う。
N2が図鑑で見たものの中ではクリタケという種類に良く似ているらしい。
一見食べられそうなキノコほど、毒を持っているものが多い。
俺一人だったら絶対手を出してないだろうな。
下処理といっても、やることは簡単だ。
移動の途中で汲んでおいた水でキノコに付いた土や泥を洗い、食べやすい大きさに手でちぎるだけ。
折り畳み式のフライパンを船から持ってきているので、後はバターの完成を待つのみなんだが……。
「ラズ! そろそろ私にもやらせてよ!」
「お前のペースで振ってたら夜が明けちまうよ! アタシに任せておけばきっともうすぐ『ばたー』ってのが出来るから、黙って見てな!」
何故か二人は瓶をどちらが振るかで言い合いになっていた。
「優しく振った方が美味しく出来るにきまってるではないか!」
「美味さなんてどうだっていいんだよ、体に取り込んじまえば全部一緒だろ!」
あぁなるほど、それで言い合いになってたのか。
確かに最高の状態で食べたい気持ちはもちろんあるが、今優先すべきは“時間“の方かな……。
「N2、お前のバターを旨く作りたい気持ちはありがたいんだけど、俺今結構腹減っててさ。じっくり作るのはまた今度にしないか?」
「む……そうなのか。であれば、私も出し惜しみしている場合ではないな!」
N2が若干ムキになりながら、私の本気をみせてやろう! とラズから瓶を奪い返し、宙に浮く白い球体を6つ出現させた。
そして出現させた球体で瓶を固定し宙に浮かせると、ラズよりも更に高速で振り始める。
更にというか、もう速度の暴力だ。
蜂が飛ぶ時のような音を鳴らしながら、残像が見えるほどにぶんぶんと瓶が振られている。
もはや瓶が可哀想。
「お前の本気はそんなもんか? なら、アタシの本気も見せてやるよ!」
ラズがそう言うと、以前N2と戦った時のように両腕に電気を帯び始めた。
ただのバター作りで何する気だよ!
これ以上は、とめた方が良さそうだな……。
「N2、瓶の中身を見せてくれ。……お、だいぶ出来てるな、よしよし、仕上げは俺がやろう……!」
ちぇっ、もう終わりかよ、というラズをよそに、瓶の中にはまさにバターと呼べる固形物があった。
焚き火の炎をてらてらと反射し、より一層神々しくなった姿に思わず唾を飲む。
もうこのまま料理には使えそうだが、仕上げと言った以上何かしなくちゃな……。
「美味しくなーれ!」
小瓶に手をかざし、魔力のない魔法をそれっぽくかけてみた。
おー、と不思議がりながらも感嘆する皆の姿は直視出来なかったが、うまく誤魔化せたみたいだから良しとしよう。
鞍を作ってくれていたピノも寄ってきて、皆で温まったフライパンを囲む。
皆の眼差しもそうだが、多分一番期待してるのは俺だろう。
さて、いよいよ調理開始だ!
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