102話 お前も何かしらの”ネームド・アーティファクト”だと思うぜ

 ジュワーという音と共にバターがフライパンを滑っていく。

 一瞬にしてとろみがかった濃厚な香りが辺りに広がり、流れていく空気すらも惜しいと感じる程だ。

 なるほど、空気が旨いとはこういうことか。

 この香りだけでご飯3杯はいけるな。


 バターが溶けきる丁度のタイミングで、程よく湿ったキノコを投入する。


 俺には分かるぞ、キノコたちが喜んでいるのが!

 こいつらは間違いなくこの星で一番旨いキノコだ!


 キノコが溶けたバターを含み、ふやけてきたら出来上がり。

 フライパンを焚火から離し、地べたに座り込む。

 さて、冷めないうちに腹に収めよう。


 木の枝で作った箸で焼き加減の一番よさそうなキノコを一つつまみ、そのまま口へ。




 …………!!!



「んーーーーー!」


 本当に旨いものを食べた時の感想って何て言えばいいんだろうな。

 旨いとか美味しいなんて言葉で片付けたくはないが、


「おいし?」


「うまい。まじで」


 バターの衝撃だけでコレだ。

 そして噛めば噛むほど、キノコの味が後からにじみ出てくる。


「レイが嬉しそうなところを見てると、私も嬉しい!」


「なら、出来るだけ笑ってるように努めるよ」



 んふふ、と含み笑いをしながら落ち葉をちぎり始めるN2。


 皆の何となく満足そうな顔を見て、少しだけ自分の置かれた環境を忘れることが出来た。


 しかし、ここまで旨いものをそのまま食うのは勿体ない。

 何故うまいかを追求し、それを当たり前にする。

 それが文明ってやつだ!


 まずこのバター!

 一般的なものと比べて、味の深みがまるで違う。



「ところでラズはピノみたいに寝れるの? 私は試したけどダメだった。ピノは眠ると不思議な力が体に貯まるんだって」


「眠る……か。そりゃまた色々と珍しいな。アタシは眠りはしないが、似たような事は出来るぜ」



 多分このミルクが出せる動物が食べてるものがそもそも違うんだろうな。

 草だけ食べてる動物のミルクはこうはならない。



「ラズも手から植物を生やせるのですか?」


「そんなやつ、そうそういてたまるかよ。恐らくピノ、お前も何かしらの”ネームド・アーティファクト”だと思うぜ。エナジー持ちとなりゃ更に一握りなハズさ」



 そうこうしているうちに今度はまたキノコの味が舌の上に押し寄せてくる。

 この波状攻撃は人間をダメにするぞ……!



「えなじー?」


「そう、エナジー。何かのエネルギーを何倍にも増幅した別のエネルギーがそう呼ばれてる。アタシのこのビリビリも貯め込んだ動的エネルギーを変換したやつさ」



 まてよ、このキノコも何かおかしいぞ。

 通常なら天日干しにしておかないとここまでのダシは出ないはず……。

 つまりこれを更に天日干しにしたら……?



「ねぇ私は!? 私はどうしたら『えなじー』が作れるの!?」


「んー、酷なことを言うようだが、そもそも前提として持ってるやつがほとんどいなかったはずだ。お前がいつ作られたのか知らねえが、アタシが活動してる時でそうだったんだ。元々もっていない可能性の方が高いだろうな」


「そんなー……」


「そこでおかしな顔しながら飯くってるやつに聞けば、なんか知ってるんじゃねえか?」


「レイ! 私はどうしたら『えなじー』が!?」


「え、ごめん、全然聞いてなかったけど、マジで旨いよこれ! 皆、ありがとな!」


「もう!! ばたーのあほ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る