96話 やってみます!

 大きな木の生えた草原地帯を後にし、ここから少し先の雑木林がある地点を目指している。


 道中の珍しい植物や、見たことない動物を見かけるとN2が騒ぐので、5日で水源まで到着するという目標は、まぁ厳しいと思う。


 N2程生物に興味がないピノにとって、移動中は暇だろうなと考えていたが、いつの間にか植物で手遊びのような事をしていた。


 手と手を擦り合わせ、そこから蔓(つる)を伸ばし、伸ばした蔓(つる)で小さなぬいぐるみを編んでいる。


 水も土もなしに植物育てるとか、もう何でもありかよ。


 本人いわく、どういう原理で育つのか分からないが、なんか出来たから試しにぬいぐるみを作ってみた、ということらしい。


 ただ、全くゼロの状態から育てるのは今のところ出来ない。

 ピノの手のひらには蔓(つる)の欠片が握られていて、それを媒体として大量に増殖させているようだ。

 それに、種子から無理矢理成長させた場合と違って、時間が経ってもすぐに枯れることはない。


 ピノの作った指先大のぬいぐるみを見て、ふと思う。

 これを応用して、グレに乗るための鞍(くら)が作れないかと。


「ピノ、そのサイズよりも大きいものも作れたりする?」


 鞍(くら)っていう、大きさはこんなで、厚さはこれくらいで、こんな形したやつなんだけど、と説明すると、やってみます! と元気良く返事を返してくれた。


 実用性は使ってみないと分からないけれど、これで乗り心地が良くなるといいな。


 そんなやりとりからしばらく経ち、とりあえずの目的地である雑木林に着いた。

 ただなんとなく様子がおかしい気がする。


「ここか? ラズが言ってた雑木林って」


「そう……なんだが……前に通った時より生き物の気配がしねぇ。というより、全く気配を感じねぇ」


 ラズの空間察知能力はN2達のようなロボットだけじゃなく、近くの動物の気配も感じ取れるのだが、それに全く反応がないらしい。


 以前ラズと動物達が襲われたジャングルと違って、ここが荒らされた形跡は特にない。

 元々の動物達がいた光景を見ていないからなんとも言えんが、他の似たような場所には動物が少なからずいたことを考慮すると、この雑木林の状態は異常だと捉えるべきだろう。



「どうする? 調べるか?」


 ラズが不信そうに遠くを見つめながら問う。


「んー、あんまり楽しく無さそう!」


 少し考えた後にN2が答える。

 こいつにとっては楽しそうか、そうでないかが判断基準らしい。


「動物が心配なラズの気持ちも分かるが、目的のない調査ほど無意味なもんはないと思うよ。傷ついた動物とかもいないし、大丈夫だよ、多分すむ場所を変えただけなんじゃないか?」


 まぁ正直言うと、動物相手の訓練が出来なさそうという安心が半分、先を急ぎたい気持ちが半分ある。

 怪しそうなもんには触れないでおくのが一番いい。


「む。そうだな……。なら今日はもう少し進むか」



 もうすぐ日が暮れる。

 俺の記憶が正しければ、この星に不時着してから18日目、初めての野宿を今夜体験することになるだろう。

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