97話 取って来てやってもいいぜ

 雑木林からちょっと進んだところは、見晴らしのいい平原が広がっていた。

 先導していたラズの速度が徐々に下がり、ふんすと鼻を鳴らし立ち止まった。


「よし、ここまで進んだら今日の分としては上出来だろ。あそこに見える丘で朝を迎えるとしよう」


 続けて、お前の修行が出来なかった分距離が稼げたな、とラズが皮肉な笑みを浮かべながらそう言った。


 こいつが俺にどんな修行をさせようとしてるのかは不明だが、動物に会えなかったのは俺のせいじゃない! と心の中で呟いた。

 でも機械との戦闘に慣れるのに動物相手ってのはどうなのだろうか。



 まぁそれはさておき、夜はきちんと休憩するという概念がこいつらにあってよかった。

 場所的にも敵の接近にすぐ気付けそうだし問題なさそうだな。


 しかし見たところ拠点から持って来た荷物にお泊りセットのような都合のいいものは見当たらない。

 あるのは大きな布一枚と、食器だけ。

 もう少し確認してくるべきだった……。

 暗くなる前に色々と準備しないと。


「えーと、皆聞いてくれ」


 わさわさとかしこまり正座をするN2。

 それを見て、真似して正座をするピノ。

 ラズはグレの手入れをしながら首だけこちらに向けている。


「歌を歌うのか?」


「面白そうだけど今は違います。今からテントを作ります」


「テント!?」


「そう、テント」



 テントだって! とはしゃぐN2。


「テント、テント、テント~♪ テント、テントは不思議だな~♪ テント、テントってなんだろな~?」


「知らないのによくそんな嬉しそうに出来るなN2。テントってのは、ここで俺が快適に過ごすために作るちっちゃな家みたいなもんだよ」


「ちっちゃな家!? …………かぶるの?」


「そこまで小さくありません。暗くなるまでが勝負だから、さっさと取り掛かろう。ちょっと手伝ってくれ」



 テント作りに必要なのは木材だ。

 木造建築でいう骨組みと、屋根、そして釘は、太さのある枝と葉っぱと蔓(つる)で代用できる。


 材料採取にはピノがいれば問題ない。

 雑木林で拾ってきた枝を地面に差し、それをピノに頼んで成長させる。

 その育った木から葉や枝を拝借する。


 まぁ、返しはしないが。


 この場合すぐに枯れてしまうが、テントの材料に使う分にはその方が都合がいい。

 一人分の小さなテントなら手順さえ知っていれば案外簡単に出来てしまうものだ。

 いつ役に立つんだか分からない知識だったが、趣味で作り方の動画を見ていてよかった。


 それと、野宿に欠かせないのは火だ。

 これがあるのとないのでは全然違う。

 主にテンションが。


「N2には火おこしを頼みたいんだが……」



 火を起こすのはN2の武器があれば問題ない。

 ただ、燃料になる薪(まき)に更に木材が必要だ。

 植物と話せるピノの前でこれ以上痛めつけるのはいかがなものか……。


 するとN2が、そういうことならあれを使おう、と言ってピノに駆け寄っていった。


「ピノ、例のあれを」


「あれ……ってどれですか」


「コナラブと松クヌギの配合失敗時に出来た植物だよ!」


「失敗とか言わないでください! あの子達もなかなかの曲者だったんですから!」


 まったく! といいながら、ごそごそと腰のあたりをまさぐり、そこからゴマ粒のようなものを取り出した。


 こいつらの話によると、料理油を作ろうとした際に偶然できた植物が燃料の代わりになるという事らしい。

 よくわかんないけど、まぁ火おこしは任せておいて大丈夫だろう。


 そして、先程から気になっているのはラズの視線だ。

 テントを組み立てている間、ラズの視線をとても感じる。

 けれど俺が振り向くと何でもないようなふりをして、ピカピカになったグレの足を更に磨き続けている。


 ラズが出来る事と言えば……。


「あー夕飯どうしようかなー。まだ何も準備できてないなー」


 ラズの方を向きながら、あからさまな棒読みセリフを吐いてみせる。


「お、おまえ、飯くうのかよ。アタシが取って来てやってもいいぜ」


 昼に俺が木の実食ってたのガッツリ見てたやんけー! とは言わず、丁重によろしく頼む、と言うと、ラズは光の速度でどこかへ駆けて行った。

 ピノがいるから食糧面での心配は無かったけど、まぁ今夜の夕食はラズに頼んでみるとしよう。

 いやしかし、結構ラズの扱いに慣れてきたかもな。

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