94話 全部聞こえてる

「わー! レイ! 見て! まるで風になった気分だよ!」


 大きな鳥に乗れたところまではよかった。


 この鳥は、俺を乗せた状態でも早く移動することが出来る。

 水源に向かうという目的達成のためならば、それは嬉しい誤算のはずだ。

 けれど、元々人が乗る場所ではないところに乗っているため、振り落とされないようにしがみつくのが精いっぱい。

 N2みたいに景色を眺めている余裕はない。


 ちなみに、この鳥にはグレという名前をN2がつけた。

 理由は単純に羽毛がグレーだから、らしい。


 俺含め、N2とピノはグレの背中に乗せてもらって移動しているが、赤いロボットは自分で走った方が楽だと言って、俺達の前を先導している。

 このペースなら5日程で水源に着くそうだが、道中の探索等の事を考えるともう少しかかるだろう。


 グレが皆を乗せてどれほど走れるのか分からないが、次の休憩時間を知りたい。

 この乗り心地の悪さは30分で限界が来る。

 こんなんであと5日も過ごせる気がしないぞ……。


 赤いロボットに呼びかけようとしたところで、ふと思った。

 鳥に名前を付けるなら、赤いロボットの名前を決めるべきだろう。

 いや、そもそも名前があるかもしれない。


 聞きづらさもあり、なんと呼びかけようかと迷っていると、N2が唐突に、赤いのは『ラズ』と呼ぶことにした! と言った。

 これも単純に、真っ赤なラズベリーに色がそっくりだからだそうだ。

 N2が時々察しがいいのはなんなんだろうな。


「ラズ! 次の休憩はいつなんだ?」


 一応グレのことを思って、という体(てい)で聞いてみる。

 しかし反応はない。

 どういうことだ。


「あー……レイ、呼ぶことにはしたが、まだ呼んだことはないぞ」


「引きずり下ろすぞお前。いい加減、無意識に人を陥(おとしい)れるのをやめろ!」


 一方ピノはというと、大人しくしていると思ったら、両手に違った赤い実を持ってラズと見比べ、んー、正確に言うとインディアンサマーの実の色に近いので、名前はインになるのでは? と独り言を言っていた。


 気にするとこそこなの?

 というかその実はどこから持って来たの?


「だーもう、うるせえな! 全部聞こえてるから、アタシの名前をどうするかで騒ぐのをやめろ! 恥ずかしいったらありゃしねえ!」


 先導して走っているラズが、こちら側に少し振り返りそう言った。


「どう反応すりゃいいのかわかんなかったんだよ。動物と話すときはそんなのいらねえからな」


 そうか、言われてみれば確かにそうだな。

 名前ってのは俺達人間が、他者と共通の認識を合わせるために作ったモノに過ぎない。

 動物達がどんな会話をしてるのかは謎だが、ラズにとってそこまで必要なモノでもなかったんだろう。


「決めるってんなら別に構わねえが、一つにしてくれ。そしたらちゃんと答えるから」


 少し振り返った首を前に向き直しながら、ラズはそう言った。


「じゃあラズ。改めて、これからよろしくな!」


 前を向いたままのラズの首が少しだけコクンと頷き、先導するスピードがほんの少しゆっくりになった気がした。















―――――――――――――――――――――――

あとがきです

赤い子はラズといいます。

N2やピノのように素直じゃありませんが、気に入ってくれると嬉しいです。

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